『負け逃げ』ネタバレ感想!光を求める青春疾走群像劇!
国道沿いのラブホテルのネオンだけが夜を照らす村を、自転車で爆走する高校生の田上。ある晩ラブホ帰りの同級生、野口と遭遇した。足が不自由な彼女は“復讐”のため、村中の男と寝るという。田上は協力を申し出るが…。出会い系、不倫、家庭崩壊、諦めながら見る将来の夢。地方に生まれた全ての人が、そこを出る理由も、出ない理由も持っている。光を探して必死にもがく、青春疾走群像劇。
「BOOK」データベースより
偶然書店で見かけた本作。
表紙が『紫のアリス』と似ているなと感じ手にとってみると、またよしさんという同じ方でした。
しかも帯には、辻村深月さん、窪美澄さん、三浦しをんさん、重松清さんと錚々たる方々のお名前が並んでいましたので、買わない理由がありませんでした。
読んでみると、閉塞感に満ちた村でのやりきれない感情に胸をえぐられ、でも希望を胸に頑張る人たちもいて、それがかすかな未来を感じさせる読了感に繋がりました。
僕は東京生まれで、現在も関東近郊に住んでいますので、作中の村のような環境とは無縁です。
気に入らないことがあれば逃げ出せるし、自分に合う人を探そうと思えばいくらでも人や集まりがあり、とても恵まれているのだと思います。
社会人になるまでは田舎に憧れがあり、人同士の繋がりや温かさを求めていましたが、本作を読んだ後では、そんな呑気な感想を口にすることはできません。
隣の芝は青く見えるといいますけど、本当にそうなんだと思います。
都会での生活を夢見て、でも村に閉じ込められた子供や大人、男性や女性。
陰鬱としているけれど、その中で必死にもがいて光を求める彼らを、僕は尊く感じました。
この記事では、そんな本作の魅力を個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
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村の閉塞感
短編六編から成り立つ本作。
舞台は同じ村です。
娯楽は少なく、愛想を浮かべながら相手の粗を探すような醜悪な住人たち。
希望の欠片もなく、出ていきたくても意思が弱ければ連れ戻されてしまう。
まさに住人たちは『閉じ込められている』のです。
過去に脱出を試みた人たちもいますが、大半は逃げ切ることができず、村に帰ってきて、みじめな生活を送ります。
この静かな地獄が、本作では淡々と、でも恐ろしく描かれています。
そしてどこか壊れてしまい、それでようやく村に馴染むことが出来る。
しかし、決して珍しい話ではありません。
田舎にいけば当たり前のようにある話ですが、それをここまで正確に書くことができるこざわさんの筆力は圧巻でした。
それぞれの抱える闇
そして、短編ではそれぞれ違った人物たちがピックアップされ、抱える闇を開示していきます。
誰とでもセックスする女子高生、歌を愛する平凡な男子高生、過去の女性に未練を残しながら不倫に走る独身中年などなど。
年齢も立場も全く違うにも関わらず、誰もがこの村に不満と恐怖を抱き、いつか出て行ってやると胸に誓っています。
しかし、誰もが村を出られるわけではありません。
体にハンデを抱えているから。
家庭があるから。
両親を捨てられないから。
ちょっとでも決意が鈍ると、たちまち村に連れ戻されてしまいます。
葛藤し、行動に移す、でもやっぱり出られなかった。
静かな絶望がとても残酷に描かれています。
自分がその立場に置かれたとしたら、自殺したいと思うのでしょうか。または心を殺し、この村に馴染むよう努力するのでしょうか。
あまり考えたくはありませんが、でも考えさせられます。
光を求める強い意志
しかし、決して暗いだけの話ではありません。
彼らは葛藤を乗り越え、村を出るにしろ残るにしろ、どこかで気持ちに区切りをつけ、前を向いて歩こうと必死に頑張っています。
その姿は、例え醜い容姿であろうが、関係なく尊く見えました。
最後に光が差し込むからこそ、この物語は意味を持っているのだと思います。
この作品は、登場人物たちのように何かに迷い、それを言い出せずにいる。
そんな傷を持った人たちを時に癒し、時に勇気づけてくれる作品だと僕は考えます。
だから、負けてもいい、逃げてもいい。
それでも気が向いたら挑戦してみてください。
いつかその勇気が光を探し当ててくれると信じています。
おわりに
最初はあらすじも書いていたのですが、あまりに本作の感動はかけ離れた陳腐な文章になってしまったので、途中でやめ、個人的な感想を並べさせていただきました。
ぜひ本書を手に取って、ご自分の目でその物語と向き合ってください。
誰かに寄り添える、そんな優しさと強さを本書は持っています。
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