
1クールごとに組む相手を変え、新タイトルに挑むアニメ制作の現場は、新たな季節を迎えた。伝説の天才アニメ監督・王子千晴を口説いたプロデューサー・有科香屋子は、早くも面倒を抱えている。同クールには気鋭の監督・斎藤瞳と敏腕プロデューサー・行城理が手掛ける話題作もオンエアされる。ファンの心を掴むのはどの作品か。声優、アニメーターから物語の舞台まで巻き込んで、熱いドラマが舞台裏でも繰り広げられる―。
【「BOOK」データベースより】
以前読んだ作品ですが、改めて読み返してみて、言葉には表せない熱い感情がまた芽生えてしまったので、その勢いで記事にさせていただきました。
表紙だけ見ると、辻村さんの作品にしては明るくて楽しそうな話だ、と思われる人もいるかもしれません。
しかし、そこはご安心を。ちゃんと辻村作品です。
苦しくて悔しくて、読み進めていくのにこれほど体力がいるのかと、久しぶりの感覚でした。
そして、苦しんだ分だけ、答えに辿り着いた時の感動は、もう言葉では言い表すことができません。
以下は本書に関する辻村さんへのインタビューです。
今回は、そんな本書の魅力を個人的な感想も入れながらお伝えしていきたいと思います。
内容の核心部までは触れないつもりですが、それでもネタバレなので未読の方はご注意ください。
『ハケンアニメ』の『ハケン』とは?
タイトルの意味について。
僕は最初、派遣という言葉だと思っていて、表紙の女性たちが派遣社員として行った先でドラマを起こすのだろうと想像しながら読み始めました。
しかし、全く違います。
『ハケンアニメ』とは、『覇権アニメ』のことだったのです。
今期どのアニメが覇権をとるか。
意地とプライドがぶつかり合う、熱い戦いが本書にはありました。
最近では日常系や萌え系のアニメが大多数を占めるようになってきましたが、その裏側で繰り広げられるやりとりは、ほのぼのとは全く無縁の、想像を絶する苦悩と熱意が秘められているのです。
まず読者は、その前提を認識させられた上で、本書を読み進めていくことになります。
夢と挫折
アニメ業界に入ってくる人の多くは、小さい頃またはどこかのタイミングでアニメの持つ可能性に魅入られ、あるいは救われ、夢と希望を持ってこの業界に足を踏み入れます。
しかし、アニメを作るのは現実の人間なわけで、そこにはどうしても大人の事情が絡んできます。
アニメ制作には、それこそ何十人、もしくは何百人という途方もない数の人間が携わっています。
それだけ人間がいれば当然意見は食い違い、時には対立して、本来予定していた出来とは程遠いものだって出来上がる可能性もあります。
また、1クール2クールといったシリーズものを制作するのであれば、常に現場は仕事に追われ徹夜なんて当たり前。
どんなにいい仕事をしても、理不尽な理由によってやり直しをさせられることもしばしば。
これはこの業界に限った話ではないかもしれませんが、それは本当に悔しい思いです。
主人公の三人の女性が味わう無力感、悔しさは、読んでいて痛いほど分かりました。
そして、自分の仕事にプライドを持っているからこそ人の話を受け入れることが出来ない。
分かり過ぎて、僕自身も反省しました。
反省して成長しながら、それでも情熱を忘れない彼女たちのアニメに対する思い。
その努力が報われる瞬間の達成感は、胸が熱くなってしまいました。
アニメが好きな方にはもちろんですが、仕事にやる気が出ない、モチベーションが上がらないという方にもぜひ読んでほしいと思います。
アニメの見方が変わる
僕はアニメが好きです。
とはいっても、アニメオタクの方に比べたら、好きだと公言するのも憚られるのですが。
特に声優が好きで、声の強弱や感情の入れ具合、ブレスのタイミングやその音色など、見ていて本当に夢中になってしまいます。
僕らはテレビや劇場で放映されるアニメを見て、その作品に携わった監督や作画、声優を好きになったりします。
最近では「聖地巡礼」が当たり前になり、空想のものから現実への興味が移るなど、価値観も多用化してきています。
そんなアニメですが、営利団体が制作するわけですから、当然利益を出さなければクリエイターは別として、会社としてはそれは名作とはいえません。
そういったいわゆる大人の事情と言うものが、本作では垣間見えるどころかがっつりと描写されていて、非常に面白かったです。
だからこそ、息をのむような迫力や美しさを誇るアニメを見ると、制作に携わったスタッフの方々の並々ならぬ情熱が余計に感じられました。
アニメをあまり見ないという方でも、きっとアニメに興味がわくはずです。
ここは悪い人がいない業界だって
序盤にて登場するセリフ。
でも決して善人という意味合いではありません。
利益のことを優先するあまり作品のクオリティを二の次にする人もいれば、自分の理想にこだわり過ぎて他のスタッフの気持ちを汲めない人もいます。
でも、共通して言えることは、そのアニメ制作に携わった誰もがその作品を良いものにしたいと願っているのです。
そのためだったらどんな努力でも惜しまないし、嫌な役回りだって平気で引き受ける。
仲良しこよしというわけではないけれど、その光景には悪い人なんていませんでした。
これ、業界に長く携わった人が言うからこそ特に重みが出てくる言葉ですよね。
自分に当てはめて、一度周りを見渡してみてもいいかもしれません。
きっと自分の見方から変えれば、そこには悪い人なんていないはず。
一番タメになった言葉です。
最後に
最後に辻村さんがおっしゃているように、取材したとはいえ想像も多分に含まれているため、現実とは異なる部分も必ずあります。
しかし、それでも夢を抱いて良い業界なんだと、嬉しくなりました。
僕は制作側に回りたいとは思いませんが、アニメを愛する一国民として、これからもアニメ業界の発展を願っています。
そのためであれば、今まで以上に貢献したいと心から思いました。
辻村さんのランキングを作りました。
