『ハケンアニメ』あらすじとネタバレ感想!業界の裏側に隠された苦悩と熱意を描くアニメ小説
1クールごとに組む相手を変え、新タイトルに挑むアニメ制作の現場は、新たな季節を迎えた。伝説の天才アニメ監督・王子千晴を口説いたプロデューサー・有科香屋子は、早くも面倒を抱えている。同クールには気鋭の監督・斎藤瞳と敏腕プロデューサー・行城理が手掛ける話題作もオンエアされる。ファンの心を掴むのはどの作品か。声優、アニメーターから物語の舞台まで巻き込んで、熱いドラマが舞台裏でも繰り広げられる―。
「BOOK」データベースより
表紙は『カードキャプターさくら』などでお馴染みのCLAMP。
拍子の爽やかさに反し、内容は苦しくて悔しくて、読み進めていくのにこれほど体力がいるのかと、久しぶりの感覚でした。
そして、苦しんだ分だけ、答えに辿り着いた時の感動は、もう言葉では言い表すことができません。
以下は本書に関する辻村さんへのインタビューです。
【前編】アニメは小説家のわたしを築いた大事な一部分|cakes
また映画化もされています。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
失踪
アニメ会社のプロデューサーである有科香屋子は、伝説の天才アニメ監督・王子千晴を口説いて九年ぶりとなる新作アニメの制作に取り掛かろうとしていました。
王子はイケメンとして有名ですが、香屋子は彼自身ではなく彼の作ったアニメに感銘を受けていて、意気込みは十分です。
しかし、ここで問題が発生します。
王子が失踪したのです。
春の放送まで時間はなく、このまま時間だけが過ぎれば関係各所に多大なる迷惑を掛けることになります。
様々な重圧を背負いながら、それでも香屋子は王子が戻ってくることを信じ、今自分にできることをします。
窮地
香屋子と王子のタッグに対して、同じクールで覇権を争う相手がいます。
それは気鋭の監督・斎藤瞳と敏腕プロデューサーの行城理のタッグです。
瞳は高学歴にも関わらず監督を選んだことについて偏見を持たれたり、天才肌ゆえに周囲とうまく調和がとれなかったり、うまくいかないことも多々あります。
それでも良い作品を作りたい一心で頑張りますが、ここでトラブルが発生します。
大手月刊誌の表紙に使われるはずの原画のクオリティがあまりに低く、しかも瞳や行城に伝えられてなかったのです。
ほとんど猶予がない中、どうすれば良いのか。
その時、行城がとある人物の名前を出します。
神原画のアニメーターと呼ばれる並澤和奈でした。
感想
苦難の連続
僕がアニメ業界に関心を持ち始めた頃からすでに薄っすらとブラックな香りはしていましたが、近年はそれが露骨になってきています。
春夏秋冬それぞれのクールで新作アニメが大量に制作され、続編や他媒体への展開が期待できるほど反響の大きい作品はその中のほんの一部。
ほとんどはDVDなどろくに売れず、そのせいで安月給で激務を強いられる日々。
本当に大変だと思いますし、何とか自分なりに貢献できないかとそれなりにお金を落とすようにはしています。
本書ではそこまで暗い話題は触れていませんので、これから読む人はご安心ください。
ただ、それでも過酷な現場であることは変わりありません。
一つの作品には予想を遥かに超える人数の方々が関わっていて、ちょっとしたミスが大きな失敗に繋がることもあり得ます。
作品のクオリティを第一に考える人もいるし、現在のトレンドを踏まえた売り出し方を踏まえる人もいるし、落としどころを作るだけでも一苦労です。
それぞれの立場があるからぶつかるわけですが、本書では様々な壁が目まぐるしく立ちはだかり、六〇〇ページあるのに一時たりとも休ませてもらえません。
アニメに興味がある人はもちろんのこと、とにかく熱量を持って読書したい人にオススメしたい作品です。
向かう方向は同じ
困難がことばかり上述しましたが、それでもアニメ業界に夢があることも確かです。
数多くの制限こそありますが、その中でどれだけ視聴者の予想を良い意味で裏切れる作品を作れるのか。
もしかしたら、自分の関わった作品が未来の新たな才能を生み出すかもしれない。
辻村さん自身がアニメ好きだからこそこの辺りにしっかり熱がこもっていて、読んでいて嬉しくてたまりませんでした。
おわりに
最後の対談で辻村さんがおっしゃているように、取材したとはいえ想像も多分に含まれているため、現実とは異なる部分も必ずあります。
しかし、それでも夢を抱いて良い業界なんだと、嬉しくなりました。
僕は制作側に回りたいとは思いませんが、アニメを愛する一国民として、これからもアニメ業界の発展を願っています。
そのためであれば、今まで以上に貢献したいと心から思いました。
スピンオフはこちら。
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