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【感想】『熱帯魚は雪に焦がれる』海辺の町で寂しさを埋め合う二人の少女の物語【ネタバレ注意】

都会の高校から、海辺の田舎町にある七浜高校へ転校してきた小夏は、

周囲にうまくなじめずにいた。そんなとき、七浜高校水族館部のひとり部員である小雪と出会う。お互いが抱える寂しさに惹かれ合ったふたりは――?

電子特別版には、作者萩埜まことがTwitterで更新中の描き下ろしイラストやコミックを10ページ追加収録!

Amazonより

2017年末に第一巻が発売され、じわじわと人気を伸ばしている本書。

分類として百合作品になりますが、積極的に好意を寄せるというよりも、寂しさを埋めてくれる大事な人という意味合いが強く、その感情がどう変わっていくのかが見どころになっています。

この記事では、本書の魅力や評価の分かれる点について書いています。

多少のネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

登場人物

本書の内容に入る前に、主な登場人物について説明します。

『熱帯魚は雪に焦がれる』1巻より

左が帆波小雪、右が天野小夏です。

天野小夏

十五歳の高校一年生。

父親の海外転勤の都合で東京を離れ、海辺の町に住む叔母の家に預けられることになった。

知っている人がほとんどいない状態で心細く思っていると、学校の人気者である先輩・帆波小雪に声を掛けられ、小雪の所属する水族館部の二人目の部員になった。

引っ越してきた当初はかなり内気だったが、次第に明るい一面を見せ始める。

やがて小雪もまた孤独を抱えていることに気が付き、小雪に井伏鱒二の『山椒魚』に登場する山椒魚を重ね、自身も蛙になれたらと発言している。

帆波小雪

小夏の先輩で、高校二年生。

優しくて美人。

スポーツ万能で成績優秀で欠点がないというのが周囲の抱く小雪のイメージ。

完璧すぎて逆に声がかけづらい高嶺の花で、男子から告白されても全て断っている。

しかし実際はそのように振舞っているだけで、ドジなところがあったり女子同士の間接キスに狼狽えたりと小夏よりもうぶで、小夏が年上のように振舞うこともしばしば。

寂しさを埋めてくれる小夏にどんどんのめり込んでいき、序盤はどちらかというと小雪→小夏の気持ちの方が強め。

広瀬楓

『熱帯魚は雪に焦がれる』5巻より

左が楓。

小夏のクラスメイトで、明るくて誰とでもすぐに仲良くなれてしまう良い子。

小夏と小雪の仲が良くなることを願って行動するが、その行動が裏目に出て二人を不安にさせてしまうことが何度もある。

善意のかたまりなのに、読者からしたら二人の仲に波乱をもたらすトラブルメーカー。

一方で、なかなか進展しない二人の仲を無理やり押し進める起爆剤のような役割も担い、物語が進むと小雪の弟・基記に好意を寄せられるようになるが、本人は気が付いていない。

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魅力

描写がとても丁寧

小夏は親戚しか知り合いのいない土地に引っ越してきて、不安な状態で物語がスタートします。

そのせいで町の日常はとても寂しく描写され、小夏の心情がこれでもかと伝わってきます。

しかし、やがて小雪や楓との交流を経て景色は色鮮やかに変わり、今度は小雪の心の奥底に隠された孤独に気が付くなど視野が広がり、感情移入がとてもしやすい構成になっています。

相思相愛に気が付かない距離感

孤独を埋めてくれるお互いの存在を大事にする一方で、相手も自分のことを同じように思ってくれる、とは思えない臆病な部分が二人にはあります。

だから二人の仲はなかなか縮まらず、どうしても部活動の先輩、後輩という間柄から抜け出せずにいます。

しかし、様々な経験を経て一歩ずつ進んでいき、些細なことでも成長が見られるとつい嬉しくなってしまいます。

歩みの遅い二人だからこそ上述した丁寧な描写にも繋がり、この距離感こそが本書の魅力の秘訣になっています。

表紙のイメージと変わらない中身

表紙は力が入っているけれど、いざ読んでみると絵がなんか違う。

そんなことを経験した人も多いのではないでしょうか。

しかし本書に関していえば、そんなことは全くありません。

表紙のイメージそのままの物語が描かれているので、安心して表紙買いしてください。

僕の感想として、表紙よりも本編の方がやや幼く見えましたが、特に気になりませんでした。

百合に興味がない人にもオススメ

本書は百合モノですが、そういった描写はかなり控えめで、性的なものも全くといっていいほどありません。

そのため百合に興味がない人でも違和感なく読むことができると思います。

百合に興味があるけれど、過激なものはまだ怖い。

そんな風に思う人にとっても、ちょうど良い入門書になるのではないでしょうか。

評価の分かれる点

暗い展開が多い

この記事を書いている2020.4.10現在、最新六巻まで発売されていますが、まあ暗い話が続いています。

これも井伏鱒二の『山椒魚』が題材になっている時点で気が付くべきでしたが、百合展開どころではありません。

個人的には、二人の関係を確かにするために必要な試練だと思っていますが、少女たちの華やかな触れ合いが見たいという方にはあまりオススメしません。

楓や小雪の父親、基記はいつも二人のことを心配していますが、読んでいるとついその気持ちに共感してしまうので、この共感度が高いと本書との相性が良いのかなと思います。

面倒くさい二人

亀のような歩みで関係を進める二人ですが、結果をすぐに求めたい人からすると小夏も小雪もかなり面倒くさいです。

特に小雪。

先輩で地元ということもあってもう少し小夏をリードしてほしいところですが、彼女もまた自身の悩みを抱えているので、そううまくはいきません。

おまけに良かれと思って行動する楓が面倒くさいと感じるシーンもあるので、本書と付き合う上である程度の忍耐力が必要です。

日常モノなどストレスなく楽しみたいという方は要注意です。

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おわりに

タイトルから物語の舞台、シチュエーションまでかなり上手く練り込まれていて、世界観が他の百合作品よりも一段上で、引き込まれるほどの魅力を持つ本書。

寂しさや孤独を抱える人ほど共感できるポイントが多くありますので、そういった方は小夏、小雪のどちらか、あるいは両方に自分を重ねて読むのも楽しいかもしれません。

また百合の描写が少なめなので、そういったことに興味がないという人にも読みやすい内容になっています。

表紙と中身のギャップが少ないので、表紙を気に入った人は買いで間違いありません。

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