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『夢幻花』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!

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花を愛でながら余生を送っていた老人・秋山周治が殺された。第一発見者の孫娘・梨乃は、祖父の庭から消えた黄色い花の鉢植えが気になり、ブログにアップするとともに、この花が縁で知り合った大学院生・蒼太と真相解明に乗り出す。一方、西荻窪署の刑事・早瀬も、別の思いを胸に事件を追っていた…。宿命を背負った者たちの人間ドラマが展開していく“東野ミステリの真骨頂”。第二十六回柴田錬三郎賞受賞作。

「BOOK」データベースより

本書のタイトルは『むげんばな』と読みます。

今は存在しない黄色いアサガオを中心に、物語は複数の角度から進行し、やがて大きな秘密に行き着きます。

最初は物語の終着点が分からずに一心不乱にページをめくり、徐々にその姿が見えてくるともう手が止まりません。

以下は本書に関する東野さんからのメッセージです。

東野圭吾『夢幻花』|PHP研究所

この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

老人の死

秋山周治はかつて、この世にない新しい花の研究をしていました。

引退後も、花は嘘をつかないとして、人付き合いもろくにせずに花を自宅で育てていました。

そんな彼が気にかけていたのが、孫の梨乃です。

彼女はかつて水泳選手として大変期待されていましたが、ゴール直前になると原因不明のショックを起こすようになってしまい、高校の時に水泳をやめて目標を失ったまま大学に通っていました。

梨乃は、自殺した従兄・鳥井尚人の葬式で周治と再会、後に西荻窪にある彼の家をたずねます。

彼は写真の生育記録などで写真集が出せないか考えていて、梨乃はブログで公開することを提案。

周治はそういったことに疎かったため、代わりに梨乃がブログを開設し、花の写真や記録をアップします。

それからは周治の家を月に一、二回訪問するようになり、梨乃は見たことのない花の写真を見つけます。

周治に詳しいことを聞きますが、彼はただ教えられない、ブログに上げてはいけないとして、二人だけの秘密となります。

その後も梨乃は通い続け、ある日、電話をしてから周治の家に行くと、そこには死体となった周治がいました。

刑事の早瀬亮介はこの事件を担当しますが、周治の人嫌いが災いし、情報がほとんど得られず次第に迷宮入りの様相を見せます。

なくなった鉢植え

しかし、周治の葬式が終わってから、梨乃はふと気が付きます。

周治の家から、秘密と言われていた黄色い花の鉢植えがなくなっていたのです。

梨乃は警察に通報してそのことを伝えますが、重要でないと真面目に取り合ってもらえません。

なんとかして事実を究明したい梨乃は問題の黄色い花の写真をブログに上げ、反応を待ちます。

すると、蒲生要介という人物からメールがあり、その花のことで聞きたいことがあること、ブログは閉鎖したほうが良いと書かれていました。

梨乃は無視できないとブログを閉鎖し、要介と会って話をすることにします。

要介は植物に関する情報を集める企業の代表を務めていると自己紹介しますが、後にこれが嘘だと判明します。

要介は黄色い花が人工的に作られたものだと明かし、開発した機関に目をつけられないよう証拠を全て破棄することを勧められます。

しかし、梨乃はそれを拒否。

後日、名刺にあった住所に向かうと、ちょうど大阪から帰省してきた要介の弟・蒼太と出くわし、本当のことを聞きます。

要介は本当は警視庁に勤める役人で、名刺に書いてあった住所は蒲生家のものでした。

蒼太は問題の花の写真を見せてもらうと、あることに気が付きます。

蒲生家では毎年、入谷で行われる朝顔市に顔を出す習慣があり、その花はアサガオにそっくりでした。

しかし、黄色いアサガオは江戸時代にあったという記録があるものの、今はその存在が確認されていない幻の花で、どこも開発に成功したと公表していません。

さらに警視庁の人間が、黄色いアサガオの情報を持っているなんておかしいということになり、二人は協力して事件と黄色いアサガオの謎を追います。

奇妙な再会

亡くなった尚人はペンデュラムというバンドを組んでいて、ようやく彼の代わりのキーボードが見つかり、復帰最初のライブが開催されます。

梨乃は一人では気まずいため、蒼太を誘って参加します。

途中、キーボードの女性が帽子をとりますが、その人は蒼太の知る伊庭孝美という女性によく似ていました。

蒼太は中学二年の時、朝顔市で偶然孝美と知り合い、その後はメールで連絡をとり、週に一度は会う関係になっていました。

ところが、両親に孝美と会っていることがバレて、交際を反対されます。

さらに孝美からも会わない方がいいと一方的に言われ、それ以来、連絡を取っていない状態でした。

蒼太は客席にきた彼女に確認しますが、女性は人違いだと否定し、逃げるようにその場からいなくなります。

バンドメンバーは、女性が白石景子という名前だと認識していましたが、彼女とはそれから失踪し、連絡がとれなくなってしまいます。

夢幻花

ひょんなことから梨乃が通報した内容を知った早瀬は、彼女と会って話を聞きます。

しかし、梨乃は信用できないと判断し、蒼太のことなどは話しません。

蒼太は本格的に調査するために大学をしばらく休み、大阪から東京に戻ります。

二人は合流すると、いくつかの方面から事件を追います。

孝美については梨乃の友人からの情報を待ち、二人はかつて周治と一緒に研究をしていた日野和郎のもとをたずねます。

有力な情報は得られませんでしたが、アサガオの育種家である田原昌邦を紹介してもらいます。

田原は黄色いアサガオの写真を見てもそこまで驚かず、いかにそれを誕生させることが難しいのかを説明します。

さらに黄色いアサガオは禁忌の花だからと田原は自分の祖父に追うことを止められていて、その花をムゲンバナと呼びました。

収穫はそれだけでなく、田原から見せてもらったアサガオに関する講演会の写真。

そこには孝美が写っていました。

これは偶然などではなく、孝美は黄色いアサガオを追っていたのではと推理。

そこで二人は、ペンデュラムのメンバーから事情を聞きます。

彼らは工藤アキラという往年のミュージシャンが経営するライブハウスに頻繁に出入りしていて、孝美も去年から工藤のファンとして通っていました。

メンバーや工藤の証言から、孝美が黄色いアサガオのために尚人に近づいたことがうかがえます。

しかし、その尚人が自殺してしまったため、今度はその弟である知基に近づいたと考えることができますが、同じく孫である梨乃ではいけない理由があったのだろうかと疑問も残ります。

その後、梨乃の友人伝いに孝美の情報を入手。

彼女の家は町の開業医でしたが、院長が亡くなったと同時に閉院。

すでに引っ越していましたが、今度は蒼太の友人伝いで、孝美が慶明大学の薬学部を修了していたことが判明。

そこで蒼太と梨乃は彼女がいた研究室をたずねると、彼女は休んでいるだけで、また戻ってくると机はそのままにされていました。

机を調べると、勝浦と書かれたカレンダーが見つかり、勝浦には工藤の別荘があり、二人はそこに向かいます。

茶断ち

早瀬は行き詰っていましたが、ひょんなことから事件に関する重要な情報を得ます。

かつて息子の裕太は万引きの冤罪を周治に助けてもらったことがあり、その時に交わした手紙を見せてもらいます。

そこには、周治が茶断ちをしていたことが書かれていて、早瀬は事件現場の違和感に気が付きます。

湯呑み茶碗にお茶が残されていたのです。

もし周治が今も茶断ちしていたのなら、誰か別の人間が手を加えたことになります。

そこで早瀬はもう一度事件を洗い直し、日野から再度事件の日のことを聞きます。

すると日野は事件の日、周治の家をたずねていて、その時には彼はすでに亡くなっていました。

日野は黄色いアサガオ欲しさに鉢植えを奪って逃走し、後から来た梨乃が通報することとなりました。

日野は訪問時に誤って湯吞み茶碗の中身を座布団にこぼしてしまい、慌ててペットボトルのお茶を注ぎましたが、座布団に染み込んでいたのは水。

実際に周治が飲んでいたのは沸かした白湯で、茶断ちをする人間であれば珍しくないといいます。

さらに日野が車で鉢植えを持ち出す様子が、近隣のコインパーキングの防犯カメラに映っていました。

日野は観念し、この時のやりとりを早瀬は録音します。

MM事件

勝浦にある工藤の別荘を訪れた蒼太と梨乃。

聞き込みをすると、工藤が別荘を買い取る前は田中という人物が住んでいて、その息子が東京で殺人事件を起こしたことが分かります。

それはMM事件と呼ばれる五十年前の事件で、MMはマリリン・モンローからとられています。

この事件のことは要介も口にしていて、二人は事件の詳細を調べます。

事件は、マリリン・モンローに耽溺していた田中和道が彼女の死後、自暴自棄になって日本島で八人を殺傷して自殺したというもので、新聞記事には蒼太の母・志摩子の名前もありました。

当時、彼女は赤ん坊で、両親は事件が原因でどちらも亡くなっていたのです。

蒼太は、家族全員で自分に隠し事をしていることを確信します。

しかし、自宅に戻ると、本当のことを話せるようになるまで家を空けると、志摩子から書き置きがあり、蒼太はいまだに除け者でした。

協力

早瀬は捜査の過程で要介が秘密裏に動いているのを知り、彼と接触しますが、取引したいならカードを用意しろと交渉になりませんでした。

しかし、今はそのカードがあります。

早瀬は録音した日野の供述を聞かせ、さらに日野が周治の家から持ち去った黄色いアサガオの写真を見せます。

さらに写真の入っていた封筒には三枚の細長い紙が入っていて、要介には見覚えがありました。

後で明かされますが、これは『福万軒』という有名な洋食店の食事券で、事件解明のカギとなります。

要介は素直に早瀬の捜査を賞賛し、これで事件が解決すると喜ぶのでした。

そしてペンデュラムのライブ会場に警察が現れ、尚人の親友でバンドメンバーの大杉雅哉を連行するのでした。

福万軒は尚人がバンドメンバーと一緒に行きたいとしきりに言っていたお店で、それが雅哉に繋がったのでした。

真実①

雅哉は高校一年で尚人と出会い、音楽に目覚めます。

二人は切磋琢磨しながらプロを目指していましたが、やがて壁にぶつかり、そのことを相談した相手が工藤でした。

彼はこれを飲めば世界が変わるとして、二人に黒い植物の種を渡します。

これこそあの黄色いアサガオの種でした。

コーラで飲むと飲みやすいということでそれに従うと、二人は麻薬のようなトリップを味わい、これまで思いつかなかったような音楽を生み出すことに成功します。

二人は味をしめ、事あるごとに種に頼りましたが、やがて底をつき、他の合法ドラッグでは同じ効果を得ることはできませんでした。

そこで植物を研究していた周治に咲いた花が見たいと嘘をついて種を渡し、栽培を依頼します。

そのうちの一つだけが芽を出しますが、花が咲く前に尚人が自殺。

自殺した時、尚人の机の上にはコーラが置かれていて、種の影響で精神に異常をきたし、自殺してしまったのではと雅哉は怖くなります。

それでも種がなくなれば頼らざるをえず、雅哉は一人で周治のもとをたずねます。

しかし、周治は事前にこの花について調べて強い幻覚作用を持つことを知っていて、二人の意図をすでに見抜いていました。

警察に通報されそうになりますが、雅哉は無我夢中で抵抗し、気が付くと周治を殺害していて、その場から逃げ出したのでした。

真実②

要介から高級ホテルに呼び出された蒼太。

要介は蒼太が自力で真実に辿り着いたことを褒め、本当のことを話してくれます。

黄色いアサガオは、蒲生家三代に渡る問題で、発端は二人の祖父・意嗣(おきつぐ)の代でした。

彼もまた警視庁に勤め、MM事件の捜査の指揮をとります。

犯人の田中の家には黄色いアサガオの鉢植えがずらりと並び、違法な薬草ではないかと調べようとします。

ところが、上層部と警察庁から止められてしまいます。

その花こそが夢幻花と呼ばれる種類の花で、アサガオ栽培がブームだった江戸時代には珍しいものではありませんでした。

一方、その頃、奇妙な事件が相次いでいて、捜査の過程で一部の人間たちがアサガオの種を食べていることが判明します。

調べていくと幻覚作用を持つのが黄色いアサガオであることが分かり、悪用されないよう秘密裏に回収し、幕府の管理下で麻酔薬として活用する話が出ました。

その話は幕府が倒れたことで頓挫しますが、その後も栽培は続けられていて、やがて内務省の上層部はこれを自白剤として用いることを考え付きます。

その上層部の一人が意嗣の父親でした。

自白剤として使えなくもありませんでしたが、それ以上にリスクが高く、それ以降は栽培もされていませんでした。

ところが、様々な事情から種が外部に流出。

しばらくは何の問題も起きず種もなくなったと思われていましたが、そこで起きた事件がMM事件でした。

意嗣はこれ以上被害を出さないために、黄色いアサガオの監視こそ自分の使命だと決め、それを息子、つまり蒼太たちの父親、そして要介にも引き継ぎました。

一方、MM事件の被害者の遺族を気にかけていた父親は志摩子と出会い、事情を話した上で結婚。

二人の間に蒼太が生まれますが、要介と違って彼は被害者側だとして、黄色いアサガオから遠ざけることを決めたのでした。

とはいっても、要介も黄色いアサガオが見つかるとは思っておらず、習慣でネットサーフィンをしていましたが、そこで見つけたのが梨乃のブログでした。

問題となったのは、周治の持つ種の入手ルートです。

そこで要介が協力を求めたのが孝美でした。

黄色いアサガオを自白剤として使う研究を依頼されたのが実は伊庭家で、流出した種も伊庭家が保管していたものでした。

孝美も両親から黄色いアサガオについて聞かされていて、二人の話は尚人の自殺という点で繋がります。

孝美はバンドに潜入して要介に情報を流していましたが、蒼太に正体を知られたことで姿を消さざるをえなかったのでした。

要介の話はここで終わり、ここから先は孝美の口から説明してくれるとして、蒼太はホテル最上階のバーに行きます。

そこには孝美が待っていて、再会を懐かしむと、本当のことを話してくれます。

二人が出会った中学二年の時、二人がメールをしていることを知った蒼太の父親から孝美の父親に連絡が入り、ここで孝美は黄色いアサガオについて聞かされます。

蒼太には知らされていないことも知り、このまま親しくなるといつか秘密を話してしまうのではと思い、自ら連絡を絶ったのでした。

その後、最近になってフェイスブックで黄色いアサガオによるトリップに関する投稿を見つけます。

またMM事件で田中が使っていた黄色いアサガオの種がまだ保管されているのではと思い、勝浦を訪れます。

家は別の人物に買い取られていて、その人物こそが工藤でした。

孝美は工藤が種を見つけ、利用していると推測し、彼のお店に通うようになります。

工藤が用心深いためなかなか話を持ち掛けてきませんが、その中で尚人が自殺。

状況から見て黄色いアサガオに違いないと確信し、バンドに潜入したのでした。

それからは蒼太も知っていることで、あとは回収するだけ。

周治の家から盗まれた花はすでに回収され、工藤も残りの種をすでに要介が回収。

警察にはバレず、大事にはならずに済みました。

全てがすっきりすると、蒼太は自分の道を決められたことに不満はないのかと孝美に聞きます。

彼女は負の遺産もあるのだとして、広めてしまった者の血を引く人間の義務として受け止めていました。

最後に蒼太は、彼女と別れてから今に至るまでのことをじっくり語るのでした。

結末

蒼太は大学に戻ると、孝美の負の遺産という言葉を受け、これまでの原子力に関する研究を続けることを決意します。

将来性はないかもしれませんが、利用しなくなっても原発がなくなるわけではないため、その問題を引き受ける覚悟がありました。

そして、梨乃とは事件後まだ会っていませんが、デートをする約束をしていました。

その時、梨乃からメールが届き、水泳にもう一度挑戦することが書かれていました。

しばらくデートは無理だと思いつつも、蒼太はそれを喜んでいるようでした。

おわりに

終盤からラストにかけて一気に物語が収束していくのはとても読み応えがあり、また負の遺産について前向きに捉える蒼太と孝美、そして一歩踏み出した梨乃がとても印象的でした。

単なる殺人事件にはないスケールの大きさが本書にはあり、東野作品の中でも特におすすめします。

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