『異形のものたち』あらすじとネタバレ感想!幻想怪奇へ誘う短編集
母の遺品整理のため実家に戻った邦彦は農道で般若の面をつけた女とすれ違う――(「面」)。“この世のものではないもの”はいつも隣り合わせでそこにいる。甘美な恐怖が心奥をくすぐる6篇の幻想怪奇小説。
Amazon商品ページより
小池真理子さんの魅力を詰め込んだ短編集である本書。
怖いのはもちろんですが、そこには妖しさも含まれていて、怖いことが待っていると分かっていても引き寄せられてしまう魔力が秘められています。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
面
彼はハルゼミの鳴き声がする中、平らかな風景が広がる農道を歩いています。
亡くなった母親の遺品整理のために帰省していて、今日中に東京に戻るつもりでした。
ハルゼミの声が一斉に止まり、ひどく嫌な気分になります。
これから向かおうとしている道を見ると、そこに和服姿の女がいて、異様に速いスピードでこちらに近づいていました。
森の奥の家
私は何年も前から来たいと思っていた森の奥にある小さな山荘を訪れていました。
山荘には私の親友・美咲とその父親の土屋との思い出があり、二人が亡くなってからは足が遠のいていました。
とはいえ、二人は山荘で亡くなったわけではないため、ようやく足を運ぶことができました。
私は思い出を辿るように色々なことに思いを馳せますが、そこで意外な事実が明らかになります。
日影歯科医院
香澄は夫の浮気が理由で離婚し、従兄である勝彦と妻の淳子の誘いで彼らの近くに引っ越します。
ある日、物を噛んだ拍子に歯のかぶせものが取れてしまい、たまたま見つけた日影歯科医院で治療を受けます。
静かで、予約なしでも入れる雰囲気は香澄の理想そのものでした。
治療にも満足いきましたが、この辺に住んでいる勝彦や淳子はその歯医者を知りません。
それでも香澄は気にせず受診していましたが、二人が日影歯科医院を知らなかった理由が明らかになります。
ゾフィーの手袋
私は夫の母親から譲り受けた家に住んでいます。
古い建物で、手に負えるのだろうかと不安がありつつも暮らしていましたが、その五年後に夫が亡くなって独りになります。
しばらくすると、家の中で白いシルクの手袋をした女性を見かけ、私はその女性を知っていました。
彼女はゾフィーというオーストリア人で、すでに亡くなっている人でした。
山荘奇譚
滝田は大学時代の恩師が亡くなったことを知り、通夜に参加します。
最近多忙を極めていたこともあり、東京に戻らず一泊することを決めます。
タクシーの運転手に聞いてみると、良い宿があるとして、案内されたのが赤間山荘でした。
はじめは宿の人間とグルなのではないかと疑っていましたが、そうだとしても予想以上に良い宿で、滝田は満足します。
その夜、滝田は部屋で女将と話をすることになり、彼女の知っている恐怖体験を聞くことになりますが、本当の恐怖はそこからでした。
緋色の窓
私は子どもの頃、知らぬ若い男に誘拐されかけたことがあります。
顔見知りの男性が助けてくれたことで未遂に終わりますが、それ以来、夕焼けや夜に変わろうとする時間帯が怖いと感じるようになりました。
その時の記憶が甦ることが怖いはもちろんだけですが、それだけではありません。
誘拐されかかった記憶と共に、半世紀も前の記憶が鮮明に再生されるからでした。
感想
湿り気のある恐怖
本書の作品に共通しているのは、いずれも湿り気のある恐怖を描いているということです。
幽霊のような超常的なものが登場し、分かりやすい恐怖の対象がいるわけですが、そのモチーフに頼り切るということはありません。
それを軸にしつつも、登場するに至った背景や主人公の心情が鮮明に描かれ、いつの間にか超常的なもの以上の恐怖がそこに生まれていました。
加えて悲しさや切なさも含まれているので、まとわりつくような湿り気があり、僕はけっこう好みでした。
意外性は期待しない
収録作はいずれも意外性はそこまでありません。
こうなるだろうという方向に展開し、着地点を明確に目指しながら読んでいるという感覚が強めでした。
もちろん予測できても、そこで味わえる感覚は期待通り、あるいは期待以上だったのでなんの不満もありませんが、意外性を求める人にとっては物足りないかもしれません。
小池さんの作品は意外性というよりも、分かっているつもりのことを鮮明に描くことで解像度を上げていくところに味わいがあると思っているので、その点を考慮しながら読んでいただければと思います。
おわりに
本書を読むなら夜、あるいは雨が降ってジメジメした日でしょうか。
体でも頭でも湿り気のある恐怖を楽しんで、この世界観にぜひ溺れてください。
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