『たまうら~玉占~』ネタバレ感想!あらすじから結末まで!
「あんた、迷いを晴らしたいんだろ。いくら出せるかね?」昔も今も、人の悩みはつきぬもの。藁にもすがりたい人々の間で、ある噂が流れていた。「玉占~たまうら~」という行燈を掲げて、どこからともなく現れる不思議な老婆が、どんな望みもかなえてくれるというのだ。鍵を握るのは、まるまる太った金色の瞳の猫と、青い複雑な模様の描かれた白い大きな壺。「この壺の中の玉をひとつ選ぶのさ。ほれ、試しに引いてごらん」玉の導く運命は? 地獄から、「もう来るな」と言われた業突く占い婆さんの真の目的は? あなたの心を柔らかくする、“あやかしエンタメ”開幕!
「BOOK」データベースより
今回ご紹介する本は、星乃あかりさんの『たまうら~玉占~』です。
調べた限り、本書が星乃さんのデビュー作のようで、『たまうら』シリーズ第一弾と書いてありますので、これから続編が発売されるようです。
表紙を見て、中を数ページ見てビビッとくるものがあったので購入しましたが、買って良かったなと思える作品でした。
設定は最近よく見かけそうなものだったのでそこまで目新しさは感じませんでしたが、ちょっとした日常が愛おしく思えるような心温まるストーリーで、読んで決して損はしないと思います。
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物語の流れ
この物語の基本型は、何かに困った人が玉占の老婆と出会い、まずは壺に手を入れて引き寄せられたガラス玉を一つ抜き、自分の置かれた現状を老婆に知ってもらいます。
その後、大福と呼ばれる太った白い猫に老婆がお願いすると、今度は大福が壺に頭から入り、問題を解決するために必要なガラス玉を探してくれます。
もちろん無料ではなく、ガラス玉を一日八文、今でいう260円ほどで貸してくれます。
人生変わるほどのご利益がある玉であれば安いように感じますが、この価値は江戸時代のある時期の貨幣価値を現代に合わせて換算してるだけです。
事実、登場人物は皆この金額が高いと老婆に文句を言っていので、この時代の数百円はとんでもない価値なのかもしれません。
あらすじ
第一話 みれん玉
いつだって、大事なものを、ここぞという時になくしてしまう。
そう落ち込むおみつ。
その彼女が玉占で引き当てたのがみれん玉です。
その名前の通り、なくしたものにいつまでも未練を残してしまう効果があり、おみつの心そのものです。
そんな彼女の悩みを解決するために大福が壺から取り出したのが、えにし玉でした。
縁をしっかりと結んでおく効果があり、枕の下に入れて、取り戻したいものだけを一心に思い浮かべながら寝ると、なくしたものが戻ってくるという不思議な石です。
おみつはこのえにし玉に願い、最初は想いを寄せる京さんからもらったかんざしを思い浮かべます。
すると、老婆の言う通り、かんざしはおみつの手元に戻ってきました。
えにし玉の効果を実感するおみつ。
しかし、今度は京さんに縁談が持ち込まれ、結婚すると打ち明けられます。
おみつは本当に大事なものはかんざしではなく、京さんだと思い直し、今度は京さんを思い浮かべながら寝ようとします。
しかし、浮かんでくるのは父や一緒に住む源八、病に伏す母のことで、一向に効果が現れません。
そんなある日、えにし玉と一緒に川へ落ちてしまい、溺れて意識を失ってしまいます。
気が付いた時には家の布団で寝かされていて、源八が助けてくれたことが分かります。
そこでおみつは、本当に大切なのは家族だとようやく気付くことが出来ました。
身近にいる人の大切さに気付けない人が多い中で、えにし玉に助けてもらい、おみつは本当に大切なものを失わずに済んだのです。
第二話 やっかい玉
おこうと呼ばれる女性は、一膳めし屋の丸亀屋で働く三十歳くらいの女性で、誰かに好かれることはなく、いつもみんなに嫌われています。
そんなおこうが引き当てたのはやっかい玉で、みんながおこうに感じていること、そのものでした。
その悩みを解決するために、大福が引き当てたのが好かれ玉でした。
やっかい玉と正反対、誰からも好かれるようになる効果を持つ玉です。
おこうは当然怪訝な顔をしますが、持ち帰ってみると効果はてきめん。
いつも嫌われているおこうにある男はちょっかいを出し、ある男は別嬪だと言い、おこうは生まれて初めてちやほやされます。
からかうんじゃないとつい邪見にしてしまうおこうですが、内心悪い気はしていません。
そんな日が続き、おこうもこの状況に慣れていきますが、なぜか言い寄ってくる男誰一人として惹かれません。
しかしある日、おこうはその男を見つけただけで、この男だと直感します。
彼の名前は勇二といいました。
お互いに惹かれあい、駆け落ちまでしようと考えますが、そこである事実が判明します。
なんと、勇二も好かれ玉を持っていたのです。
からくりを知り、好かれ玉を二人分返すおこう。
これで元の生活に戻るはずでしたが、玉がなくなっても勇二との縁はなくなっていませんでした。
情けない勇二にため息をつくも、おこうも満更ではありません。
この先、きっといいことが待っているのでしょう。
第三話 びびり玉
俵兵衛は若殿に仕える男で、若殿の運命を見てもらうために玉占を探したのに、なぜか自分を見てもらうはめになります。
そこで俵兵衛が引き当てたのがびびり玉で、俵兵衛にはぴったりの玉でした。
結局若殿の命とは関係なくなり、びびりを解消するために大福が引き当てたのが、肝っ玉でした。
その玉を握ると不思議と力が湧いてきて、いつもであればできないようなことをいくつもしていきます。
しかし、それでも事態は好転せず、老婆からはここぞという時に肝っ玉を飲むと良いとアドバイスされます。
俵兵衛はその言葉通り、ここぞという時に肝っ玉を飲み込むと、勇気が出て怖いものがなくなってしまいます。
結果として若様から首を言い渡され、肝っ玉も便と一緒に外に出てしまいますが、俵兵衛は憑き物がとれたようにすっきりとした表情になり、新たな人生を歩むのでした。
第四話 忘れ玉
正太は小間物を扱っているひょうたん屋の一人息子。
しかしもの忘れが激しく、客の名前や住所もすぐに忘れ、道に迷ってしまいます。
そこで玉占に出会い、引いた玉は忘れ玉でした。
正太にぴったりの玉です。
そんた正太の悩みを解決するために、大福が取り出したのは覚え玉でした。
覚え玉の効果で、正太は見たもの聞いたことを忘れることなく、想いを寄せるおりんにもいいところを見せることができました。
そんなある日、おりんから相談を持ち掛けられます。
なんでもおりんの兄が高名な学者に弟子入りするために勉強をしているが、無理がたたって熱を出してしまったというのです。
おりんは正太の持つ覚え玉を貸してほしいと頼み、正太は覚え玉を貸すことを決めます。
しかし、覚え玉がなくなった途端、また物忘れが激しくなり、それがもとでピンチに陥りますが、おりんの助けもあってなんとか乗り越えることができました。
結局、おりんの兄には覚え玉は効果を発揮せず、おりんにも嫌われたと思っていた正太でしたが、今回の件で本来持っている良い部分を出すことができ、ちょっと覚えが悪くても、私がいれば大丈夫と、半ばプロポーズのような言葉までもらう正太。
この件に懲りた正太は覚え玉を返し、しかしひょうたん屋を継ぐための自信をつけるのでした。
第五話 よくばり玉
トメは団子屋を手伝うことでいくらかの賃金を得ますが、今の生活に満足いかないと日々不満を抱えています。
そんなトメが玉占で引いたのが、よくばり玉でした。
トメは自分が欲張りであることを否定しますが、この状況を解決しようと大福が取り出したのは、あきあき玉でした。
あきあきするくらいお金が手に入る効果を持っています。
それからというもの、最初こそ小銭でしたが、次第に大きな金額を手にするようになり、今までしたことのないような贅沢な生活を送ります。
しかし、羽振りの良いトメの噂があちこちに立ち、仕舞には泥棒に入られてしまいます。
危うく死にかけますが、そこにトメが良くしていた寅吉が助けに入り、なんとか難を逃れました。
これに懲りて贅沢をしたいという気持ちはなくなったトメ。
しかし一方で、寅吉という親身になってくれる人間を得て、あきあき玉を返した後でも、トメのもとには大切なものが残るのでした。
おわりに
大げさな話じゃないからこそ、身近で心がふっと温かくなる瞬間があり、読んでいてとても心地の良い物語でした。
まだシリーズ第一弾ということで、老婆と大福の謎も残っていますので、これからの展開に期待せずにはいられません。
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