『コンビニ人間』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
「いらっしゃいませー!」お客様がたてる音に負けじと、私は叫ぶ。古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる。ある日婚活目的の新入り男性・白羽がやってきて…。現代の実存を軽やかに問う第155回芥川賞受賞作。
「BOOK」データベースより
第155回芥川賞受賞作です。
そもそも芥川賞ってなに?という人はこちらの記事をご参照ください。
普段、僕があまり読まなそうなタイトル、そして二百ページもいかない手軽な分量。
気が向いて読んでみたのですが、これがすごい。
こんなに短い内容なのに、何度も笑ったり苦笑したり、とにかく面白かったです。
コミカルで軽快なテイストなのに、突き付けられる現実は他人事ではない現在の日本を表していて、改めてこれからの生き方を考えさせられました。
以下は本書に関する村田さんへのインタビューです。
【新春・芥川賞作家インタビュー】「コンビニ人間」37歳村田沙耶香は今もコンビニで働いているのか コンビニで好きな仕事「○○」(1/5ページ) – 産経ニュース
この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意下さい。
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あらすじ
コンビニ店員として生まれた日
古倉恵子、三十六歳独身。
コンビニのアルバイト。
彼女はいわゆる普通の環境下で、普通の両親に育てられますが、周囲からは奇妙に思われる子どもでした。
小鳥の死骸を見て、悲しむ友達や母親を尻目に焼いて食べようと言ったり、友達のケンカを止めてと言われてスコップで殴りかかったり、非常に合理的な思考の持ち主で、感情と呼べるものが感じられませんでした。
恵子は両親や妹の麻美が悲しむ姿を見たくなかったため、必要以上に喋らないようにした時期もありましたが、それはそれで問題視され、両親からはどうしたら『治る』のかと思われる始末。
恵子自身も治らねばと思いながら大人になり、とある出会いを果たします。
大学一年生の時、スマイルマート日色町駅前店がオープニングスタッフを募集し、興味を持った恵子は面接を受けて、見事合格。
完璧なマニュアルによって動く『コンビニ』という世界に希望を見出し、初めて世界の正常な部品として誕生したことを感じるのでした。
家族はその変化を喜び、恵子は『普通』に向かって一歩を踏み出すのでした。
世界を摂取して変わる
コンビニでアルバイトを始めて社会に溶け込んだように見えますが、接客以外でのコミュニケーションにはマニュアルなどありません。
そこで恵子は周囲の言葉遣い、服装、趣味などを取り込み、それに似せることでコミュニケーションがとれているように見せます。
恵子は、他の人も同じなのではと考えていました。
そのため、店長やアルバイトスタッフが変われば言葉遣いや服装も変わり、久しぶりに旧友に会うと『変わった?』とよく聞かれます。
それでもこれまではうまくやってきているつもりでした。
しかし、三十六歳という年齢を迎え、周囲は恵子が結婚しないこと、ずっとコンビニでアルバイトをしていることを疑問に思い、持病があって体が弱いという嘘の理由だけでは乗り切れない場面が増えてきました。
社会不適合者
そんなある日、白羽という新しいアルバイトが入ってきますが、彼は初めから態度が大きく、周囲を見下すところがありました。
口癖は現代は『縄文時代』で、多様化しているにも関わらず現代も縄文時代も変わりないことに憤りを感じています。
そんな彼がコンビニでアルバイトをする理由、それは婚活でした。
仕事や結婚の有無で人間性を決めつけられることにうんざりな彼は、手っ取り早く相手を同僚、もしくは客から見つけようというのです。
しかし、ろくな相手がいない、いても強くて出来る男にばかり色目を使ってこっちを見もしないなど不満だけ垂れ流し、何の収穫も得ることが出来ません。
そして案の定、多くの問題行動が目につき、面談の末、退職することになりました。
異物にならない方法
いつもの平穏を取り戻したコンビニですが、恵子はますます周囲との不和に気が付き、社会に馴染めない白羽と同じく、異物として排除されようとしていました。
そんなある日、コンビニの外で偶然白羽に出会い、言いたいことを言った後に泣き出す彼を置いておくわけにもいかず、ファミレスで話をします。
相変わらず周囲のせいにして自分を保つことに必死な白羽ですが、その言い分には頷ける部分もあり、恵子はとんでもない提案をします。
それは、婚姻届を出して書類上結婚してはどうかというものでした。
さらに家賃を滞納してルームシェアしていた家を追い出されてかかっている彼を家に住まわせ、さすがの白羽もドン引きです。
しかし、麻美やコンビニの仲間、旧友たちは恵子のこの変化を喜び、彼女と白羽は『普通』に近づきます。
やがて白羽も慣れ、世界から干渉できないよう自分を隠すことを条件に奇妙な生活が始まります。
一緒に暮らすといっても寝るところも生活をするところも別で、恋人らしいことなんて皆無。
さらに恵子は食べ物に頓着がないため、ご飯を餌と呼び、内容も肉や野菜に火を通すだけの文字通り餌。
恵子は、白羽を飼うと表現しているため、表面以外は全くに『普通』になっていません。
失った基準
世間体を考え、白羽の提案で、恵子はコンビニを辞め、就職活動を始めます。
しかし、彼女の日常は全てコンビニでの仕事を基準に動いていたため、コンビニの仕事がなくなってしまった今、何時に寝て何時に食べたらいいのか分かりません。
爪は伸びても切らないし、ムダ毛の処理もしない。
コンビニという基準を失ったら、人間の本能に任せて種族繫栄に貢献するのはどうかと思いますが、白羽の弟の妻からは『そんな遺伝子は残すな』と言われ、恵子も納得してしまいます。
結末~コンビニ店員という動物~
白羽に連れられ、恵子は初めての面接に向かいます。
面接まで時間があったため、コンビニに寄る二人ですが、恵子はコンビニに入るなり、体が勝手に動き出します。
彼女の耳には『コンビニの声』が聞こえ、何もどうしたら一番合理的なのかが分かります。
スーツを着ているため社員と勘違いされ、店員までもありがたがる始末。
忙しい時間帯を終えると、店員たちにアドバイスをし、白羽が戻ってきて激怒。
しかし、恵子は言い放ちます。
自分はコンビニ店員という動物なのだと。
人間であれば白羽と一緒にいていいことがあったかもしれませんが、コンビニ店員だと気が付いた今、白羽など全く必要ありません。
捨て台詞を吐いて去っていく白羽には目もくれず、恵子はコンビニ店員としてすぐに機能し始めます。
そして、コンビニの窓ガラスに映る自分を見て、初めて意味のある生き物に思えました。
その感動で、麻美が産んだ甥っ子と出会った病院のガラスを思い出し、コンビニ店員として細胞全てが動き出すのを感じるのでした。
おわりに
恵子は幸いにも意味を見出して前向きになっていますが、このラストは決してハッピーエンドとは断言できません。
そして、この不和は現代に生きる誰もが日々感じていることなのではないでしょうか。
多様性を認めようと口では言っても、人が自分と違う人間を受け入れることはそう容易ではないありません。
しかし、こういう生き方も出来るのだと、一つの選択肢を本書は提示してくれたのではないでしょか。
もし、あなたの中に基準となる何かがあるのであれば、周囲に惑わされずにそれに従うことも幸せになれる道なのかもしれません。
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