『よるのばけもの』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
夜になると、僕は化け物になる。寝ていても座っていても立っていても、それは深夜に突然やってくる。ある日、化け物になった僕は、忘れ物をとりに夜の学校へと忍びこんだ。誰もいない、と思っていた夜の教室。だけどそこには、なぜかクラスメイトの矢野さつきがいて―。大ベストセラー青春小説『君の膵臓をたべたい』の著者が描く、本当の自分をめぐる物語。
「BOOK」データベースより
『君の膵臓をたべたい』、『また、同じ夢を見ていた』など大ヒット作を次々と生み出す住野よるさんの作品です。
今回も文庫化されてから購入しましたが、そろそろ待ちきれずに単行本で買おうかな、と思うくらい本当に心に触れてくる物語です。
タイトルの通り、主人公が『よるのばけもの』になるわけですが、それは外面的なことであって、本当の『ばけもの』とは何かについて内面的に考えることになります。
それは日常に潜んでいて、誰もが身に覚えがあるのではないでしょうか。
僕は大人になってようやくそういった思考から外れることが出来ましたが、学校という閉鎖的なコミュニティに入れられたら、当時に逆戻りするかもな、とちょっと怖くなりました。
以下は本書に関する住野よるさんへのインタビューです。
この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
ちなみに、本書には明言されないことがいくつかありますが、あらすじにはそこを含めずに、後述したいと思います。
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あらすじ
本書では章タイトルが曜日+昼or夜という形式をとっています。
これによって人間の時とばけものの時を区別しています。
また人間の時は一人称が『俺』、ばけものの時は一人称が『僕』になっていて、同じ人物とは思えない心情が描かれ、人間の二面性、もしくはそれ以上の表情を見ることができます。
火曜①
物語の主人公は中学三年生の安達で、クラスメイトたちはあっちーと呼ばれています。
彼は数週間前から深夜になると突然、化け物に変身してしまうようになり、困っていました。
全身を黒い粒で覆われ、六つの足に八つの目玉、たくさんの尻尾。大きさも自在に変えることができ、身体能力も人間の時の比ではありません。
朝には元の人間に戻りますが、化け物でいる間は眠りを必要とせず、安達は目的もなく化け物の姿で夜の街をひっそり出歩きます。
そんなある火曜の夜、安達はロッカーに忘れた宿題を取りに行くために学校に向かいます。
警備員に見つからないようにしながら教室に侵入しますが、教卓にはクラスメイトの矢野さつきが立っていて、彼女は安達の姿を見て悲鳴を上げます。
さつきは教室から逃げ出しますが、すぐに戻ってきて警備員に説明してきたからと化け物の安達に声を掛けます。
吃音症なのか、独特な言葉の切り方で話すさつき。彼女は化け物が安達であることをすぐに見抜きます。
声は人間の時と同じなので、誤魔化すこともできません。
さつきは、安達のことを黙っている代わりに、自分がここにいることも黙ってほしいと持ち掛け、安達は了承します。
さつきには聞きたいことがたくさんありましたが、彼女の携帯のチャイムが鳴ると、夜休みは終わりといって、さつきは帰ってしまいます。
安達は唖然としたまま自宅に戻りますが、肝心の宿題を持って帰ることを忘れてしまうのでした。
水曜①
日中、さつきから安達に話しかけてくることはなく、逆もあり得ません。
さつきは空気の読めない行動からクラスメイトのいじめのターゲットにされ、彼女に手を差し伸べた人は例外なく仲間外れにされます。
安達は周囲を気にし、クラスの常識から外れないよう心掛けていました。
矢野の自業自得だからと、安達はいじめを仕方ないものと考えています。
またクラスメイトの一部では、夜に怪獣が現れるという噂が上がっていて、どうやら化け物の姿の安達が誰かに目撃されていたようです。
夜、化け物になってから学校に行くと、昨日と同じくさつきは教室にいました。
彼女にとって、学校の昼休みは休みでもなんでもありません。
そこで学校で休みを味わうべくさつきが考えたのが夜休みで、警備員が見逃す一時間だけ、彼女は学校の休みを満喫することができます。
わざわざ学校に来なくても自宅で出来ることばかりですが、それでも学校に来てやる意義あるのだとさつきは主張します。
しかし、安達の話すことも一理あると考えたさつきは、二人で学校を探検することにします。
この時、安達は分身を作ることが出来ることに気が付き、以後、分身のことを『シャドー』と呼び、偵察や見張りをさせることにします。
学校の怪談でよく出てくる音楽室を調べますが、特に変わったことはありませでした。
最後に、安達は昼間、さつきのことを蹴ってしまったことを謝りますが、昼のことを夜に謝らないでと彼女はいうのでした。
木曜①
昼の学校は相変わらずでしたが、一つの変化が起こります。
授業中、矢野が消しゴムを落とし、クラスメイトの井口がそれを反射的に拾ってしまうのです。
すぐに事の重大さに気が付いた井口は誰にともなく違うのと言い訳しますが、このことがきっかけとなり、周囲と井口の間に明確な壁が出来てしまいます。
またこの頃、野球部の部室の窓が割られる事件が発生します。
その夜、学校で会う安達とさつき。
ここで安達はハリーポッターが好きなこと、矢野のノートが何者かによって落書きされていること、安達は火を吐くことができることが判明します。
また、さつきは野球部の部室の窓は割っていないと明言します。
金曜①
朝から雨が降っていますが、さつきは誰かに傘をとられてしまい、ずぶ濡れになっていました。
彼女は安達に声を掛けますが、彼はそれを無視。それでもさつきはなぜか笑顔でした。
ホームルームの時、安達は気が付きます。
井口の机の中に、さつきと同じく落書きされたノートが入れられていて、それは昨日井口のことを責めた誰かの仕業だと思われます。
放課後、井口はノートのことを安達が気が付いていることを分かっていて、自分のしたことを話します。
彼女は昨日、さつきを無視しなかったことを問い詰められ、彼女をクラスメイトだと思っていない証明として、さつきのノートに落書きしたのでした。
だから、同じことを自分がされても仕方ない、と井口は考えていました。
その夜、安達はさつきに井口が話していたことを伝えます。
するとさつきは、安達が井口のことを好きなんだと勘違いします。
また、井口のノートに落書きしたのもさつきではありませんでした。
月曜①
先週の金曜、野球部の元田が忘れ物を取りに夜の学校に侵入したところ、化け物姿の安達が学校近くにいるところを目撃してしまいます。
さつきの夜休みは大丈夫だろうか。
安達は心配になり、すぐに自分が井口にあてられて周囲からずれてしまっていることに気が付き、自分を律します。
さつきが登校しますが、井口に近づくなり彼女の頬をビンタし、クラスが荒れます。
クラスの中心にいる女子たちは井口と一緒にさつきのノートに落書きしたことを告白すると、クラスメイトはさつきが復讐としてビンタしたのだと勘違いします。
誰もがビンタはいけないことだと認識しているのに、落書きのことは咎めないのです。
その夜、安達は昼間のことをさつきに聞きます。
彼女は答えます。ああすることで、井口は周囲から無視されないようにするためだと。
昼の話はこれで終わり、今度は化け物の姿で学校に入るところをクラスメイトに見られてしまったことについて考えます。
さつきは、夜休みを守ろうとしてくれる安達に嬉しそうですが、その時、警報ベルが鳴ります。
安達はシャドーで学校のジャージを着た人物を捉えますが、なぜかシャドーは消えてしまい、誰なのかは結局分かりませんでした。
火曜②
クラスの女子・中川の上履きがボロボロになっているのが発見され、クラスメイトたちは根拠もなくさつきが犯人だと決めつけ、いじめはエスカレートします。
一方、元田は自分の手で怪獣を捕まえてやるんだと意気込んでいることが漏れ伝わってきます。
その夜さつきは、保険教諭の能登の誕生日が近づいていること、彼女にプレゼントを渡したいことを明かします。
そして能登から、大人になったら自由になるから生き延びなさい、と教わったことを安達にも伝えます。
次に中川の上履きを誰が中庭に捨てたのかという話題になり、昨日の夜の侵入者が思い当たります。
安達は背丈と髪が短いことから、そんな女子は自分のクラスにいないといいますが、さつきは納得しておらず、侵入者のことを『クラスの馬鹿な子』と表現します。
結局、侵入者の正体ははっきりしません。
水曜②
安達はクラスメイトの笠井から、元田が今日、学校に侵入するという情報を入手します。
その夜、なぜかいつもより化け物になる時間が遅くなり、安達は化け物の姿になると慌てて学校に向かいます。
幸い、さつきは教室の掃除道具箱に隠れていて、元田たちの姿は見えません。
安達はそのまま隠れているようさつきに指示し、元田たちを探しに校内を歩きます。
すると唐突に元田たちと遭遇します。
相手は三人で、元田以外の二人は完全にビビッてしまいますが、元田だけは怯えながらも安達に対してバットで攻撃してきます。
一方、安達は化け物の姿で攻撃したことがないため、被害が予測できずに防戦一方になってしまいます。
しかしなんとか撃退し、元田たちへの心配はとりあえず解消します。
こんな時でもさつきは笑顔でしたが、それには理由がありました。
彼女は怖いと無理に笑う癖があり、決して楽しいわけではなかったのです。
安達はようやく気が付きます。
日中いつも笑顔なのは、楽しいからではなく怖かったからなのです。
そして、夜の安達に対して、さつきがにんまりと笑わなくなったことにも気が付いてしまいます。
木曜②
夜、安達は学校の屋上にいました。
さつきの言葉を聞いて、自分がクラスメイトからずれ、彼女に寄ってしまったのではと怖くなったのです。
いつの間にか夜休みが夜の中心になっていたことを知り、さつきのいないところで遊び明かしますが、誰も安達のことを知りません。
金曜②
安達の心情が複雑に絡み合う様子が描かれていますが、あらすじ的に特記することはありません。
月曜②
安達はいつまで化け物になるのか、いつまで今の環境が続くのかを考えます。
その日、安達はクラスのことを地雷原と称し、クラスメイトの基準を踏み外さないよう気を引き締めて登校します。
一年生が骨折してしまい、保険教諭の能登は付き添いで学校を後にしますが、それ以外はいつもと変わりません。
ところが、安達の足元にさつきの持っていた紙袋が転がり込んできて、井口と同じ状況に立たされます。
安達はそれを踏みつけ、正しい行動をとったつもりでいましたが、紙袋を見て気が付きます。
それは、能登への誕生日プレゼントでした。
不運にも能登が付き添いで病院に行ってしまい、教室に持ち込むしかなかったのでした。
その夜、久しぶりに教室に行きますが、さつきはいつもと同じように安達を迎えてくれます。
野球部の窓が割られなくなったことについて言及すると、さつきは『多分追いつかなくなったんだと、あの馬鹿』と何かを知っているようなことをいいます。
二人が体育館に行くと、天井にボールが挟まっていることに気が付き、安達がそれをとります。
さつきはボールを『この子』といい、ハリーポッターの世界では物も生きているという話になると、さつきは『だからあの馬鹿やめたんだ』と一人で納得しています。
それから、自分は昼も夜も一緒なのに、安達は昼と夜で全然違うとさつきはいいます。
さつきはどっちが本当の安達か知りたいといいますが、安達の口から出たのは昼間のことに対する謝罪の言葉でした。
しかし、さつきは怒っていません。怖いとも思っていません。
彼女にとって、安達だけが自分のことをちゃんと見てくれているのです。
一方、安達は彼女のことが分からなくて怖いといいますが、さつきからしたら、同じ人なんて一人としていません。
彼女は具体的な名前こそ挙げませんが、クラスメイトの特徴を上げてみんな違うんだと説明しますが、それでも安達は納得ができず、さつきが悲しいとこぼして夜休みが終わります。
別れると、安達は考えます。
どんなにいじめられていても悲しいと言わなかったさつきが、自分が怖がっていることを知って悲しいといいました。
それはつまり、彼女が安達のことを信じていることになります。
彼女は昼間にひどいことをされても、夜には謝る彼のことを信じ、夜の安達こそが本物だと確かめたかったのです。
安達は謝っても、昼間になればまたさつきのものを踏みつけるかもしれないのに。
安達は、さつきが化け物である自分を待っていることを知り、本当の化け物とは何かを考えます。
火曜(結末)③
夜の雨に打たれて体調が悪い中、学校に向かう安達。
彼は友人との会話の中で、友人はちゃんと本当の自分を知っていることに焦りを感じます。
自分が誰なのか分からないまま、安達は教室に入ります。
教室に化け物がいても、誰も気が付きません。
そこにさつきが現れ、おはようといいます。
次の瞬間、あれだけ考えても答えが出なかったのに、気が付くと安達はおはようと挨拶を返していました。
彼女だけが、昼間の自分も夜の化け物の自分もちゃんと見ていてくれていたのです。
安達は、おはようをもう一度繰り返します。
ようやくさつきは誰に向けられたものなのか気が付き、怖い時のにんまりではなく、少しだけ口の端を上げて笑います。
『やっと、会え、たね』
この行為はクラスメイトへの裏切りかもしれませんが、それよりもっと大事な意味があります。
難しく考えず、はじめからこうしていれば良かったのです。
安達はこの時、さつきに指摘されて、はじめて自分が泣いていることに気が付きます。
クラスメイトは、さつきに挨拶する安達を不審に思いますが、そんなことは関係ありません。
昼の自分も夜の自分も、どちらも安達という人間で、さつきを助けることはできないけれど、声を受け止めて返すことくらいはできます。
自分が井口と同じようになることを予想しつつも、みんなが理解してくれることに希望を持っていました。
しかし、今まで会話をしていた友人が、仲間外れするような視線を向けてくると、心の底から悲しく思い、それを仕方ないと思えないことに気が付いてショックを受けます。
それでもこの日の夜、久しぶりにぐっすりと眠ることができるのでした。
考察
1 侵入者の正体
月曜①の夜、何者かが学校に侵入し、さつきは正体に気が付いているような素振りを何度も見せます。
彼女がいう馬鹿、それはクラスメイトの緑川だと考えられます。
この記事ではあらすじ上、彼女のことは割愛していますが、緑川だと考える根拠がいくつかあります。
まず警報ベルが鳴った時、安達は髪が短いことから、そんなクラスの女子はいないといっていますが、さつきは髪を短くしたのかもと反論しています。
侵入者を知っているさつきがこう言うのであれば、侵入者=女子であることが想像できます。
次に馬鹿という呼称について、さつきは『文字ばっかり読んでたら馬鹿になりそうだー』と口にしています。
そして、緑川は読書ばかりしています。
しかし決して馬鹿にしているわけではなく、あくまで親しみを込めて『馬鹿』と呼んでいることが読み取れます。
というのも、さつきとは元友達で、彼女がいじめられているため仲直りできずにいますが、こうして彼女のために仕返しをし、さつきもそのことをちゃんと分かっているからです。
それから野球部の部室の窓が割られたり、中川の上履きが中庭に捨てられていたことについて、これも緑川の仕業だと考えられます。
彼らがさつきをいじめたため、その復讐をしたのです。
途中で窓が割られなくなった時、さつきは緑川復讐が追い付かなくなったのだと考えていましたが、体育館でボールを見つけて、安達がハリーポッターの世界では物も生きていることを教えてくれた時、さつきは本当の理由を知ります。
それ以前の描写で緑川はハリーポッターを読んでいて、このことを知ります。
すると、窓や上履きも生きているのだと思い、傷つけることができなくなったのでしょう。
2 笠井のこと
本書の中で、緑川は笠井のことを『悪い子』だといっています。
表面上、笠井は明るくてみんなの人気者のように描かれていますが、実際は情報を安達や元田、他のクラスメイトに流し、自分が面白いと思う展開へ誘導する節が何度も見られました。
元田が夜の学校に侵入して怪物を捕まえようと考えたのも笠井の情報提供があってのことで、笠井は元田が警備員に捕まることを望んでいました。
また、彼は直接手を下すことはしませんが、さつきいじめの張本人であること可能性が高く、学校という場所がいかに闇を抱えているのかが分かる箇所となっています。
おわりに
ラストを迎え、安達にとって辛い時間がこれから待っていることは安易に予想できます。
しかし、それでも彼が本当の自分に気が付き、化け物にならずに済んだということは、それ以上に意味のあることのように思えました。
いつかみんなが理解してくれる日を、迎えることを心から祈るばかりです。
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なかなか手に取れない数千円、数万円するような本を読むのもアリ。
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