『対怪異アンドロイド開発研究室』あらすじとネタバレ感想!相反する二つが新たな恐怖を生み出す
恐怖を感知しないアンドロイドが予測不能な「怪異」に挑む、新感覚ホラー!
「おばけは怖くありません。機械ですから」
Amazon商品ページより
彼女にはいくつかの優れた機能がある。話題が無限分岐し堆積していく雑談でも自然言語による受け答えができる。ZMPを見極めながら階段や斜面の昇り降りができる。補給なしに六時間以上の連続稼働ができる。ドアノブを掴んで回すことができる。――おばけが見える。
白川研究室は「出る」と言われる場所や噂を調査する対怪異アンドロイド・アリサを開発した。機械の彼女は、呪いも祟りも受け付けない。ゆえに、恐怖心もない――。深夜に山奥の廃村を調査したアリサは、搭載された機能を駆使して、さまざまな異常を検知する。白川教授の研究テーマに興味を惹かれ、初めて研究室を訪問した新島ゆかりが、アリサが持ち帰ったデータを見ると……。
恐怖を感知しない美麗アンドロイドVS.予測不能な「怪異」。第8回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉特別賞を受賞した新感覚ホラー・エンターテインメント!
著者は饗庭淵(あえばふち)さんで、近年熱いカクヨムから世に送り出されたのが本書です。
怪異を全く怖がらないアンドロイドが視点なのに、ちゃんと怖い。
この相反する感覚が共存していて、ホラーの新たな可能性を見せてくれました。
『領怪神犯』の木内おうみさんとの対談はこちら。
ここがホラー小説の最前線! 『領怪神犯』木古おうみ×『対怪異アンドロイド開発研究室』饗庭淵 カクヨムWeb小説コンテスト受賞者対談
https://kadobun.jp/feature/talks/entry-84483.html
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あらすじ
アンドロイド
本書のタイトルにある通り、怪異に特化したアンドロイド『アリサ』が登場します。
見た目は二十代の美しい女性ですが、体重は百三十キロもある立派な一端末です。
本人は超高性能AIを自称し、基本的な命令に則り、怪異を調査することに特化しています。
判断に迷うところでも柔軟に対応できるあたり、確かに超高性能AIであります。
彼女は専用のセンサーによって怪異が存在するのかどうか見極めることができ、それによって一見普通の風景にも違和感を見出すことができます。
さらに恐怖という感情がなく、怪異の調査が第一のため、怖い方向へどんどん突き進みます。
恐怖しない存在の視点で怪異を見るという体験が新鮮でした。
研究室
近城大学・白川研究室。
三年生の新島ゆかりは見学で研究室を訪れましたが、掲げている研究テーマ同様、研究室自体がかなり変わっていました。
研究室は『対怪異アンドロイド開発研究室』と名乗っていて、上述のアリサを製造し、メンテナンスしています。
何のために怪異を研究しているのかは終盤まで謎ですが、ゆかりはこの研究室が気に入り、所属することになります。
研究の裏側
本書は基本的にアリサの視点で怪異を調査し、その結果を研究室で考察するという流れで進行します。
感覚としては、短編集という感じです。
しかし、次第に本書がただの怪異調査譚ではなく、調査の目的があることが明かされます。
アリサにはモデルとなった人間がいますが、その女性は何者でなぜアリサが生まれたのか。
怪異をなぜ調査しているのか。
全てが明かされると物語は一気に変容し、新たな作品へと変貌を遂げます。
感想
新たな切り口
恐怖を感じないアンドロイドが、死亡フラグガン無視で危険に突き進む。
この感覚は恐怖というよりも、愉快ですらありました。
本書で感じたのは、恐怖というのは理解できないからであり、理解できてしまうともう恐怖がなくなってしまうのだなということです。
何かが起きても、アリサが冷静に解説してくれるので、読者は「そういうものなのか」と納得してしまい、恐怖がはがされてしまいます。
単なるホラーを所望する人からすると物足りないかもしれませんが、しっかりとしたホラーは中盤以降描かれますのでご心配なく。
アリサの存在
あらすじでも簡単に書きましたが、なぜアリサが開発され、怪異を調査しているのかはずっと秘匿されていました。
研究室メンバーはずっと疑問に感じ、その度に教授に聞きますが、教授はのらりくらりかわして教えてくれません。
変わり者の教授がしていることだから、大して意味はないのだろうか。
そんな風にも思えましたが、物語が進むにつれて教授がどうやって今の姿に行き着いたのかが明かされるので、必然的にアリサが開発された経緯にも触れることになります。
ここまでくると本書はちゃんとホラー然としてくるので、ホラー好きには嬉しい展開になります。
またここで追記しておくと、アリサは超高性能AIと言い張りますが、そもそも超高性能AIはそんなことを主張しません。
つまり、そういうことです。
アリサはアンドロイドでいてキャラクターが立っているので、純粋なホラー小説というよりも、少しライトノベルのようなキャラクターものという感覚で読むことが出来ます。
おわりに
なんだか最近はホラーの勢いがすごいなと嬉しく思っています。
この盛り上がりに乗じて、もっともっとホラーの新たな代表作が生まれることを切に願っています。
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