『月夜の島渡り』あらすじとネタバレ感想!沖縄を舞台にした奇妙な短編集
鳴り響く胡弓の音色は死者を、ヨマブリを、呼び寄せる―。願いを叶えてくれる魔物の隠れ家に忍び込む子供たち。人を殺めた男が遭遇した、無人島の洞窟に潜む謎の軟体動物。小さなパーラーで働く不気味な女たち。深夜に走るお化け電車と女の人生。集落の祭りの夜に現れる予言者。転生を繰り返す女が垣間見た数奇な琉球の歴史。美しい海と島々を擁する沖縄が、しだいに“異界”へと変容してゆく。7つの奇妙な短篇を収録。
「BOOK」データベースより
『私はフーイー 沖縄怪談短篇集』が改題となって刊行された本書。
沖縄という日本の中で独特な文化・風土を持つ土地を舞台に、恒川光太郎さんらしい不気味さ、切なさが描かれています。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
弥勒節
沖縄の地にはヨマブリというものが伝えられていて、ヨマブリと接触すると命を失うのだといいます。
島の人間にとっては珍しいことではなく、当たり前のものになっていました。
隼人は久しくヨマブリを見なくなったある日、胡弓という弦楽器を持つ老婆と出会います。
その胡弓には様々な歴史、思いが込められていて、以後の隼人の人生を大きく変えます。
クームン
夏太は幼年期の黄昏時、もじゃもじゃ頭に着物姿の男性・クームンなる存在と出会います。
その後、隣の小学校区の女の子・真紀子と出会い、二人はひょんなことからクームンの家に行くことになります。
この一場面は幼年期の思い出ということで一旦片づけられますが、時を超えて意味を持つようになります。
ニョラ穴
和重という男性の手記。
アナカ島という無人島はニョラという存在に支配されていて、奥の洞窟には近づいてはいけないのだといいます。
これは和重がニョラと出会うまで、そして近づいてはいけない理由を描いた物語です。
夜のパーラー
私は小さなパーラーで食事をとります。
チカコという店員に惹かれ、通うようになりますが、彼女は娼婦で、私はお金で彼女を抱きます。
その後、チカコの置かれた状況を聞き、彼女の力になりたいと思いますが、後日、私は自分の置かれた状況の異常さに気が付きます。
幻灯電車
昭和の初期のこと。
ナコとチイコの姉妹がメインで描かれます。
二人の父親は彼女たちが幼い時にいなくなってしまいますが、絵葉書が届くことで無事が確認できていました。
母親含めて一見、三人で問題なく暮らしているように見えましたが、彼女たちを取り巻く環境の異常さが次第に明らかになります。
月夜の夢の、帰り道
大場彦一は同年代の少年を殴り、その少年が川で溺死したことで傷害致死の判決を下され、十九歳まで少年院で暮らしました。
それから大場の人生はうまくいかず、二十七歳のときに沖縄を訪れます。
そこでタイラという女性と出会い男女の関係になり、彼女は魔女と呼ばれ、旅行者連れ込むことがよくあったことから、次第に不穏な空気が流れ出します。
私はフーイー
フーイーと呼ばれる、異国の女性。
彼女は人の心を読めるような鋭さがあり、獣に変身することができました。
これだけでも不思議な存在ですが、彼女の人間とは異なる部分は他にもありました。
感想
土地の持つ力
沖縄という、日本だけれどどこか日本とは違う土地。
美しい風景と、閉鎖的な習慣や人間関係。
それらが織りなす物語はどれも異国情緒があり、恒川さんの持つ静謐さを相まって唯一無二の味わいを生み出していました。
よく沖縄の移住は慎重に考えた方が良いという声を聞きますが、こういった話からも人によって合う・合わないがはっきりする様子が見て取れました。
人間的な怖さ
本書には分かりやすい怪異はそこまで登場しません。
登場しても全貌が明らかになることはなく、底知れぬ怖さのまま物語が締めくくられます。
それよりも人間の悪意が怖く感じました。
僕の馴染みのない土地ということもあり、方言の影響もあって得体の知れなさが際立ち、ホラーとしての側面を際立たせていました。
おわりに
恒川さんの持ち味、舞台の雰囲気が見事にマッチした一冊でした。
沖縄のゆかりのない人でも、その地に思いを馳せ、得られるものがあるのでぜひ読んでみてください。
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