『ひとんち 澤村伊智短編集』あらすじとネタバレ感想!日常にまぎれた恐怖を描く八つの短編
他人の家とは何か「ズレて」いる――。友人の香織の家に遊びに行った「わたし」。近況報告するうち、各々の家に伝わる独自のルールの話になり……。(「ひとんち」)「私」は食玩コレクターの柳から、「シュマシラ」という聞いたことのないUMAをモチーフにしたロボットを見せられ……。(「シュマシラ」)ホラー小説の新鋭・澤村伊智による、日常のすぐそばに潜む恐怖を描いた全8編!
Amazon商品ページより
日常の中に潜むわずかな違和感。
それが瞬く間に恐怖に変わる様を描いた八つの短編で構成されている本書。
似たものはなく、どれも違った怖さを有していて、あなたの身に覚えのある話が一つは見つかるはずです。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
ひとんち
歩美はアルバイト先で仲良くしていた恵、香織と就職以来、久しぶりに交流を持つことになり、恵の提案で香織の家に遊びに行くことになります。
恵、香織はそれぞれ家庭をすでに持っていて、三人は近況を報告しあいます。
話の中で生活における習慣が話題に挙がり、家庭ごとに違うことを実感する三人。
香織の家ではワンちゃんを二匹飼っていて、時折足音のようなものが聞こえます。
不意に話題が犬のことになりますが、ここで歩美と恵は自分たちと香織の間で犬に対する認識にズレがあることに気が付きます。
不安は少しずつ広がり、やがて恐怖が一気に襲い掛かります。
夢の行き先
晃は小学五年生の時、薙刀を持ったババアに追いかけられる夢を見ます。
それも一日だけでなく、三日も連続で。
晃はすがるような思いで本に書いてある除霊を行い、そのおかげか翌日からババアの夢を見なくなります。
ところがクラスメイトもまた同じ夢を三日連続で見ていることが判明します。
時期が微妙にずれていて、ババアの夢が席順に移っていることが判明し、クラス全体が恐怖に陥ります。
闇の花園
この話では、魔女のような不気味な文章と小学校の臨時教員・吉冨視点の描写が交互に登場します。
吉冨は飯降沙汰菜がクラスメイトと打ち解けられていないこと、服だけでなくあらゆるものを黒で統一していることを気にしていて、思い切って声を掛けます。
彼女の母親は魔女だと噂されていて、色々なことを母親に強いられているのだと吉冨は解釈。
母親を呼び出して話を聞いても埒が明かず、吉冨は少しずつ沙汰菜との距離を縮め、彼女の置かれている状況の理解に努めます。
やがて沙汰菜のSOSを聞くことができ、吉冨は彼女のための行動に移りますが、思いがけない結末が待っていました。
ありふれた映像
津田真理はスーパーで買い物中、息子の亮太から店内で流れている映像にくぎ付けになっていることに気が付きます。
何の変哲もないスーパーの宣伝映像でしたが、亮太に言われた部分を見て驚きます。
そこには男性の死体としか思えないものが映っていたのです。
映像はすぐに回収され、最悪の事態は免れたように思えました。
ところが不吉なことは他にも起きました。
宮本くんの手
澤田は同じ編集部で働く宮本の荒れた手が気になっていました。
キーボードのタイピングも辛いほどひどい状態ですが、宮本の家族にそういった皮膚の病気などはないといいます。
宮本は荒れた手を『バグ』だと楽観的に捉えていますが、症状はひどくなるばかりで病院に行っても一向に改善されます。
そんな時、東日本大震災が起こり、宮本はしばらく会社に来なくなってしまいます。
数週間して復帰した時、なんと宮本の手は綺麗になっていました。
澤田はそのことを単純に喜びますが、宮本は全く違うことを考えていました。
シュマシラ
私はマニアでもコレクターでもありませんでしたが、かつてとある食玩を熱心に集めていました。
たまに話題に出すと盛り上がることがあり、気をよくして様々な人にその食玩のことを話します。
するとどこからかその話が広まり、私の家を柳という熱心なコレクターが訪れます。
柳は私が集めていた食玩の類似品を集めていて、そのうちの一体のことが気になっていました。
その食玩は日本のUMA(未確認生物)をモチーフにしていて、モチーフの名前が『シュマラン』だといいます。
知らないUMAですが、私はすっかり気になって調べるようになります。
しかし、これが恐怖の始まりでした。
死神
作家をしているぼくは、知人の知人である植松からこんな話を聞きます。
新卒で入社した会社を三年でやめた植松は、わけあって一か月帰省しないといけない友人から植物、ペットの世話を頼まれます。
植松は引き受けますが、それから意識が飛ぶことがたまに起こるようになります。
さらに不在の間に二匹のハムスターが殺し合うことがあり、植松は友人に謝罪しますが、彼はそんなことは一切気にしていないと思えるほどドライでした。
友人は一か月経っても引き取りに現れず、いつの間にか家を引き払っていました。
それから植松の周りでおかしなことがいくつも起き、やがて彼の預かったものの正体が判明します。
じぶんち
十四歳の卓也が三泊四日のスキー合宿から戻ると、家には誰もいませんでした。
母親の残した書き置きから嫌な予感がし、父親と母親の携帯電話にかけます。
運よく父親に繋がりますが、卓也はすぐに父親の様子がおかしいことに気が付きます。
刺々しい声に、詰問のような鋭い質問。
電話の終了後、卓也は少しずつ違和感を覚えるようになり、少しずつ自分の置かれた状況が明らかになります。
感想
一瞬で変わる恐怖
『ぼきわんが、来る』などのように、本書に恐ろしい化け物は登場しません。
あるのはただの日常です。
ところが、よくよく観察してみると日常にはちょっとした違和感が紛れ込んでいて、一度気にし出してしまうとそれは不安、恐怖に変わります。
今まで安全だと思えていた場所が一変し、逃げ場のない恐怖が襲い掛かる戦慄。
数十ページという短い中でどの短篇も起承転結がしっかりつけられていて、極上のホラーでした。
怖がりの人は注意
ホラーなので怖いものが苦手な人は読まない、あるいは注意して読むと思いますが、それでもお気をつけください。
本書を読むことで、あなたも身の回りのちょっとした違和感に気が付いてしまうかもしれません。
それによって日常生活が一変し、恐怖を抱えながら生活しないといけなくなるかもしれません。
一人の時に読もうが、人の多いところで読もうが関係ありません。
大げさに書きましたが、それくらいリアルに感じられる恐怖を楽しめるということです。
おわりに
澤村さんのホラーは本当に絶品です。
その中でも本書は単独作かつ短編集なので、手軽に読めるのがまず良いです。
サクっと上質なホラーを楽しみたい人にとにかくオススメです。
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