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『逡巡の二十秒と悔恨の二十年』あらすじとネタバレ感想!単著未収録作満載の一冊

harutoautumn
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わたしは20年前の記憶に苛まれ続けていた。
子供の頃のたった20秒の迷いが、川で一緒に遊んでいた幼馴染を見殺しにしたのだ。
当時の「記憶」は次第に「現在」を崩壊させ始め……?(「逡巡の二十秒と悔恨の二十年」)

表題作ほか、食用の人間がいる世界を描く問題作や、落語と都市伝説の有名人たちを掛け合わせたユーモア作、代理出産をめぐる壮大な物語まで――。
ホラー、ミステリ、SFのジャンルを超えて読者を驚愕させてきた著者の、単著未収録作品集!

Amazon商品ページより

小林泰三さんの単著として未収録作が合計十作品収録された作品です。

純粋なホラーからユーモアの聞いたもの、さらにSFものなどバリエーションに富んでいて、改めて小林さんの発想や筆力のすごさが分かる作品になっています。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

玩具

主人公の少女は、遊んでいる時の拍子で友人のみっちゃんに重傷を負わせてしまいます。

辛うじて生きてはいますが、このままでは死を待つだけです。

少女は必死になってとある場所に向かうのですが、終始おかしな雰囲気が漂っています。

小林さんの代表作『玩具修理者』に通ずる作品です。

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逡巡の二十秒と悔恨の二十年

表題作。

わたしは幼い頃、友人の寿と定子と遊んでいました。

三人は船で遊ぶことにしますが、船が流されわたしは咄嗟に定子を連れて陸に戻り、結果として寿だけが流されてしまいました。

わたしはやがて定子と結婚しますが、二十年経った今でもその時のことを後悔していました。

ある日、わたしは会社の同僚に自分の後悔を語り始めますが、やがて違和感に気が付きます。

侵略の時

わたしはある日、妻の様子がいつもと違うことに気が付きます。

話が通じず、まるで別人のようです。

会社でも同様のことが起こり、正常そうな人間だけを集めて状況把握に努めようとしますが、彼らの世界はとんでもないものに侵略されていました。

イチゴンさん

わたしは十五年前、子どもの時に殺人現場に遭遇しました。

何とか逃げることに成功しますが、その時のことは覚えていません。

わたしは大学の夏休みを利用して故郷に帰ることにします。

その村ではイチゴンさんと呼ばれる一言主神、あるいはそれを祭る神社があり、わたしは村の人にその名前を口にします。

ところが、村人の反応はイマイチ。

わたしは不思議に思い、イチゴンさんについて少しずつ話を聞きますが、やがてわたしが十五年前に経験したものの正体が明かされます。

草食の楽園

人間は理想郷を作るために、善人しかいない世界を作ります。

それから時は経ち、宇宙を漂流していたミノキリとヤマタツは人の住む惑星を見つけそこに向かいます。

その惑星こそ人間がかつて作り上げた理想郷で、純粋で無垢な社会が実現していました。

完璧に思えた世界ですが、完璧な世界などあるはずもなく、そこにも問題がありました。

メリイさん

メリイと名乗る女性から電話が何度もあり、少しずつ自分に近づいている有名なホラー。

本書はそれをベースにしていますが、一味も二味も違います。

メリイさんに狙われた夫婦は唯一頼れる甚兵衛という男に助けを求め、甚兵衛は思いもよらぬ方法でメリイさんに立ち向かいます。

流れの果て

十ページ程度の短編。

気の遠くなるような時の流れの中で、あらゆるものが移ろいでいく様子が描かれています。

食用人

様々な家畜と同様、食用の人間が容認された世界の話。

わたしは職場の宴会で行ったお店で食べた食用の人間に魅了され、全てを捨ててその世界を追求します。

心配した同僚の洋子がわたしの家を訪れますが、そこで起きたのは信じられないことでした。

吹雪の朝

登美子は毅と結婚し、彼の実家に引っ越します。

ある嵐の日、毅の友人たちが観光ついでに立ち寄りますが、吹雪によって身動きがとれなくなってここに泊まることになります。

翌朝、毅は亡くなっているところを発見されます。

登美子には毒をコレクションする趣味があり、それが殺害に用いられたことが分かっています。

クローズドサークルでの謎解きが見どころです。

サロゲート・マザー

『サロゲート』とは『代理』の意味。

序盤の話からして、代理出産を望む女性とその夫、それに反対する人の話なんだと分かります。

代理出産に対して報酬を得るのがいけないのか。

出産した子どもに責任を持たないといけないのか。

そのあたりの議論かと思われましたが、この代理出産には恐ろしい事実が隠されていました。

感想

飽きのこない多彩な短編の数々

本書はとにかく収録された短編のバリエーションが豊富で、角川ホラー文庫から刊行されているものの、ホラーだけでは括れません。

吹雪の中で起こる殺人という王道ミステリだったり、人が宇宙に飛び出して別の惑星で生命体を邂逅するSFだったり、とにかく飽きません。

長編だと途中で飽きてしまう。

そこまで集中力が持たない。

そんな人でも簡単に読めてしまいます。

また小林さんならではの視点、発想でどの短編も面白く、数十ページとは思えないほどの満足感を得られます。

小林さんファンは必見ですが、そうでない人にもぜひ読んでほしい一冊です。

基本はホラー

バリエーション豊富ですが、大半のエピソードは何らかのホラー要素を含んでいます。

直接的に怖い話でなくても、考えるだけでゾッとしてしまう物語もあります。

そこまで濃厚な描写ではないので心配しすぎることはありませんが、倫理観から逸脱したような話が苦手、という人は購入前によく検討した方が良いかもしれません。

おわりに

小林さんが亡くなった後も、こうして新たな作品を手に取れるのは純粋に嬉しいです。

思うだけではどうしても記憶から薄れてしまうので、新刊を読むことで改めて偉大な作家さんであったことを思い出し、タイミングを見計らって過去の作品にももう一度挑戦してみたいと思います。

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