『白い巨塔』原作小説の徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
国立大学の医学部第一外科助教授・財前五郎。食道噴門癌の手術を得意とし、マスコミでも脚光を浴びている彼は、当然、次期教授に納まるものと自他ともに認めていた。しかし、現教授の東は、財前の傲慢な性格を嫌い、他大学からの移入を画策。産婦人科医院を営み医師会の役員でもある岳父の財力とOB会の後押しを受けた財前は、あらゆる術策をもって熾烈な教授選に勝ち抜こうとする。
「BOOK」データベースより
1965年に発売以来、何度もドラマ化された作品で、医療制度の問題や医学界の権力争いなどが描かれた作品です。
今とは制度も治療法も違いますが、本質的なところでそう変わっていないのではないか。
そんなことを思わされる内容です。
新潮文庫版では五冊に分かれているので、読むのが大変だと感じる方もいるかもしれませんが、一癖も二癖もある登場人物たちのやり取りは目が離せず、あっという間に読めてしまいます。
この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
五冊というボリュームの関係上、かなり簡単なあらすじになっています。ご了承ください。
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タイトルの意味
内容に入る前に、タイトルの『白い巨塔』の意味について。
現実から逃避するような学者の生活や、大学の研究室などの閉鎖社会を『象牙の塔』といいます。
そして、医師の着る白衣、病院の真っ白な壁、こういったイメージから二つを合わせて『白い巨塔』となったと推測できます。
また、物語の中心となるのは浪速大学という医療業界を担う国立病院であり、単なる『塔』ではなく『巨塔』という言葉を使ったのだと思います。
三巻のラストで里見が使っている『白い巨塔』という言葉のニュアンスからも、この解釈で間違いないでしょう。
一巻のあらすじ・ネタバレ
ここからはあらすじ。
一巻では、浪速大学医学部第一外科助教授の財前五郎が現教授の東の後釜を狙い、ありとあらゆる工作を行う姿が描かれています。
天才外科医
財前五郎は食道外科の手術を得意とし、マスコミから脚光を浴びていました。
性格は傲慢で極めて上昇志向の高い、アクの強い人間ですが、自他ともに次期教授になるものと思っていました。
しかし、浪速大学医学部第一外科教授の東は、そんな彼の性格を嫌い、別の教授候補をぶつけることにします。
東は元々東都大学医学部の卒業であり、後輩の船尾教授に相談。
船尾は二人の候補者を推薦し、東は娘・佐枝子の夫にふさわしいという観点から金沢大学教授の菊川昇を選びます。
一方、財前も教授にならなければならない理由がありました。
彼は幼い頃に父親を亡くし、貧乏な生活を強いられてきました。
そんな中、将来を買われて財前家の婿養子となり、妻・杏子の父親で財前産婦人科医院院長、浪速医師会副会長の又一は財前を教授にさせるために巨額の投資をしました。
財前は義父や妻の期待に応え、地元・岡山で暮らす母親を楽させてやるためにも、教授選で負けるわけにはいきません。
ライバル
財前にはライバルとも呼べる存在がいて、それは浪速大学第一内科助教授の里見脩二です。
里見は学者肌で、出世に興味がなく、患者のことを第一に考える誠実な医師です。
財前とは同期生ですが、一見、正反対のように見えます。
しかし、二人とも医師としての能力という点では優秀であり、お互いにその点だけは認め合うような関係です。
熾烈な教授選
教授選を前に、財前は又一に相談し、医学部長の鵜飼をはじめ、有力者を味方につけていきます。
一方、東も菊川を教授にするべく奔走します。
本音では娘・佐枝子の夫としても迎えたい考えでしたが、佐枝子の気持ちは既婚者である里見に向いていました。
二巻のあらすじ・ネタバレ
ここからは二巻の内容です。
財前は教授選に勝ち、国際学会に招待され、栄光への道を踏み出したかのように見えました。
しかし、ある患者の登場により、彼の運命は大きく変わっていきます。
教授選の結果
第一外科後任教授を決める二回目の選考委員会が開かれ、財前はなんとか十名の候補者の中から最終選考に進む三人の中に選ばれます。
残りは東の推薦する菊川、そして財前の前任助教授である徳島大学の葛西が選ばれます。
財前はまだまだ油断できる状態ではなく、度重なる工作を行って選挙を迎えます。
予想では財前の勝利のはずでしたが、東はなんと白票を出して選挙権を放棄。
優秀な菊川を選びたいが、八年も徳島大学で我慢している愛弟子・葛西を無視することもできず、ならば放棄しよう。
これに心を動かされた教授がいて、結果は財前と菊川の票が拮抗し、再度この二人で選挙をやり直すことに。
これで東は心置きなく菊川に投票することができ、財前はさらなる策を練ります。
筆頭助手の佃と次席助手の安西を金沢に向かわせ、菊川に教授選から降りるよう説得しますが、見事に失敗。
何としても菊川を当選させたい船尾は、権力を使って票集めに奔走します。
そして、迎えた決戦投票。
ほんの僅差ではありましたが財前が勝利し、第一外科教授を勝ち取るのでした。
国際学会
教授となり、ますます傲慢になる財前。
そんな彼のもとにドイツで開催される国際外科学会の招聘状が届きます。
教授になったばかりで、人事異動の余波などで落ち着ていないという懸念もありますが、財前は参加する決意を固めます。
不吉な影
そんな中、里見は佐々木庸平という患者を診ていました。
行った検査の所見からは慢性胃炎だと見て取れますが、里見は胃癌の可能性を捨てきれずにいました。
そこで外科の見地から調べてほしいと財前に依頼。
財前も難しいケースということで診断にあたります。
結果、透視で早期の噴門癌が見つかりました。
転移の可能性もあるため、庸平の受持医・柳原は断層撮影が必要であると財前に進言しますが、財前はこれを却下。
里見も同様の依頼をしていましたが、財前は了承したものの、実際の検査は行っていませんでした。
里見は検査するよう申し出ますが、財前は国際学会の準備で忙しいことを理由にのらりくらりとかわします。
そして手術は無事に成功し、術後も順調に見えました。
異変
ところが庸平は術後の合併症を引き起こし、苦しみ出します。
柳原は外出中の財前に指示を仰ごうとしますが、手術は完璧だったと財前は怒り、適当な指示だけして病院に戻りません。
それでも庸平と容態は良くならず、里見は肺に癌が転移した可能性を財前に指摘します。
しかし、財前は外科病棟の患者だと里見の意見に耳を貸しません。
結局、財前は庸平を術後、一度も診ないままドイツへ旅立つのでした。
三巻のあらすじ・ネタバレ
ここからは三巻の内容です。
財前はドイツでの経験に大満足しますが、その間に庸平は死亡。
遺族は財前の医師としての不誠実な態度に怒り、裁判に訴えます。
外遊中の不幸
財前はドイツに降り立つと、現地の医師たちに歓迎され、その手術の腕前を見せつけます。
一方、庸平の容態はさらに悪化し、亡くなってしまいます。
解剖の結果、胃噴門の癌は肺に転移していました。
庸平の妻・よし江はその話を聞いて激怒。
術後、一度も庸平を見てくれなかった庸平を相手取り、訴える決意をします。
よし江と息子・信平は弁護士の関口に依頼し、裁判の準備を始めます。
帰国
財前が日本に帰国すると、報道陣が殺到しますが、様子がおかしいことに気が付きます。
この時、財前ははじめて自分が誤診で訴えられていることを知ります。
財前は動揺しつつも、又一に相談して今後について相談します。
医学部長の鵜飼は財前を教授に推した手前、裁判に負けてもらうわけにはいかず、総力を持って財前を勝たせる準備をします。
大阪弁護士会会長で、医療紛争裁判に詳しい河野に弁護を依頼。
証言台に立つ人間には口裏を合わせるよう徹底します。
裁判が始まり、あの柳原も今後のキャリアを考え、財前と口裏を合わせて財前にミスなどなかったことを主張します。
一方、里見は医師としての良心にかけて、真実を法廷で話しますが、柳原はそれすらも否定。
その結果、判決は財前側の勝利。
今回の癌の転移を鑑別することは困難であり、財前の怠慢があったかもしれないが、法的責任があるとはいえないといいます。
よし江と信平、関口は愕然とするも、すぐに控訴の準備をします。
一方、里見は財前に不利な発言を法廷でした責任をとらされ、山陰大学医学部への赴任を命じられます。
里見は真実を訴えても届かないことに怒り、それと同時に絶望し、赴任を辞退するのでした。
四巻のあらすじ・ネタバレ
ここからは四巻の内容です。
裁判に勝訴した財前のもとに、学術会議選挙出馬の話が持ち掛けられます。
もちろんこの話にも裏がありますが、財前は選挙を勝ち抜くために意欲を見せます。
一方、裁判の控訴審も控え、そちらも気が抜けない状況です。
日本学術会議選挙出馬
里見が退職届を出して半年後。
恩師で病理学教室の大河内教授の計らいにより、里見は近畿癌センターの第一診断部に籍を置くことになりました。
一方、財前は鵜飼に呼ばれ、日本学術会議の会員選挙への出馬を要請されます。
二期続けて当選した洛北大学系に対抗するために、浪速大学系の強力な候補者として財前が選ばれたのです。
財前は控訴審を控えていて出馬を躊躇しますが、鵜飼がしつこく推薦し、話を受けることにします。
後に、対立候補である洛北大学の神納教授と鵜飼は、内科学会理事長の後任問題で対立していることが判明。
鵜飼は、神納を担ごうとしている派閥の出鼻を今回の選挙で挫いてやろうと目論んでいました。
事情は分かりましたが、財前は自分の勝利のために最善を尽くします。
控訴の準備
弁護士の関口は控訴のために全国を駆けずり回っていますが、裁判に有利な証拠はなかなか入手できません。
庸平を失った佐々木商店の経営は悪化し、苦しい生活を強いられていました。
そんな中、元病棟婦長の亀山君子が、断層撮影など必要ないと財前が言っていたことを証言し、東前任教授の娘・佐枝子が裁判に出廷してほしいと説得にあたります。
しかし、君子は妊娠中で、極度にストレスのかかる裁判を避けたいという要望がありました。
そこに君子の夫の反対もあり、説得は失敗に終わりました。
裏工作
財前は今回の選挙も勝ち抜くためにあらゆる手段を尽くします。
票集めはもちろんですが、控訴の方も不安材料を一つずつ潰していきます。
柳原には学位論文の提出を促します。
これは出せば通すことを暗に示していて、その代わりに証言を合わせるよう強要しているのと同様です。
また野田薬局という大手薬局の娘との縁談を持ちかけ、ますます手中に収めていきます。
不穏因子は他にもあり、それは第一外科の医局員です。
彼らは現代の体制に不満を抱き、反旗を翻る準備を整えていました。
ところが財前たちはそれを事前に察知し、不穏な考えを持つ医局員を他所の病院に送り、代わりに票を集めるのでした。
それから君子について、財前側もその脅威に気が付き、裁判に出ないでほしいと君子の夫に訴えかけます。
大金も掴ませますが、これが君子の夫の逆鱗に触れ、状況は一変。
君子は証言台に立つことを決意します。
弱気
順調に出世コースを歩んでいるように見える財前ですが、庸平の死を彼は引きずっていました。
患者に何かあれば簡単な手術でも自ら執刀し、心に余裕がありません。
仕事中も庸平のことを思い出して取り乱すこともあり、弱気になっているのは明らかです。
五巻のあらすじ・ネタバレ
ここからは五巻の内容です。
関口や里見たちの努力によって控訴審の行方は分からなくなります。
一方、財前の身に病魔が忍び寄り、その結末が描かれます。
選挙結果
一筋縄ではいかない選挙でしたが、結果は財前の勝利。
本来であれば喜ばしいことですが、財前にはまだ控訴審が残っています。
その控訴審も、財前側の有利と思われましたが、君子の証言によって流れが変わります。
佐々木商店はついに倒産してしまいますが、よし江と信平は真実を明らかにしたいと諦めていません。
医師の良心
両者譲らぬ裁判ですが、ついに柳原は嘘をついていたことを認め、真実を話します。
そして、それを証明する証拠も見つかり、財前側が追い詰められます。
それから二か月後、今度はよし江たちが勝訴となりました。
財前側の弁護士たちは愕然としますが、財前は一ミリたりとも諦めていません。
すぐにでも上告の準備にとりかかろうとしますが、その時、財前は突然倒れてしまいます。
検査の結果、胃癌が見つかりますが、財前には胃潰瘍としか伝えませんでした。
因果応報
財前は一通り説明を受けますが納得できず、里見に再検査を依頼。
ここでも胃癌が見つかりますが、里見も胃潰瘍だと嘘をつきます。
それでも早急の手術が必要だと話すと、財前は前任教授の東を執刀医に指名。
里見も財前の要望を東に伝え、一人の命を救うためにしがらみを捨て、東が執刀します。
ところが、癌はすでに転移して手の施しようがなく、重度の貧血のために化学療法を厳しい状況でした。
東や里見は必死に財前を助ける方法を探しますが、結局見つかりません。
ただの胃潰瘍なのに日に日に悪化する体調、自分の症状から財前は自分が胃癌なのではと薄々気が付いていました。
また、執刀した東に気にかけてもらい、はじめて患者視点に立ち、自分のしてきたことの愚かさを痛感するのでした。
結末
財前が不利になる証言をしたことで柳原の婚約は破棄となりました。
柳原は浪速大学をやめ、四国の無医村で医師をすることにしました。
それから財前について。
どれだけ症状が悪化しても彼が癌であることは誰も言わず、最後は財前の意識が混濁し、そのまま亡くなってしまいます。
彼が亡くなった後、大河内に宛てた手紙が見つかり、そこには自分の遺体を解剖し、医療の発展に役立ててほしいということが書かれていました。
財前は死の間際になって、医師としての本分を取り戻したのです。
大河内は遺言に従って財前の遺体を解剖。
その目には医師としての神聖と尊厳が満ち溢れていました。
解剖されることで財前の魂は清められ、里見は財前の死を弔い祈るのでした。
おわりに
序盤は医療の光と闇という大きな部分につい目がいきがちですが、次第に財前や里見といった個人の生き方に目を向けられるようになり、最後に医療の神聖さが見られたことで少し救われた気持ちになりました。
非常に内容の濃い作品なので、読書が苦手だという方は映像版をお楽しみください。
制作された時期、キャストによってかなり受ける印象も違うので、見比べてみるのも面白いと思います。
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