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『七月に流れる花/八月は冷たい城』あらすじとネタバレ感想!夏の城への林間学校の意味とは?

harutoautumn
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呼ばれた子どもは必ず行かなければならない―。「夏のお城」への林間学校へ招待された少年少女たち。全身緑色をした不気味な「みどりおとこ」の引率のもと、古城での共同生活がはじまった。彼らはなぜ城に招かれたのか?同じひと夏を少女の視点で描く「七月」と、少年側から描く「八月」を一冊に収録。

「BOOK」データベースより

2018年に講談社タイガより発売された『七月に流れる花』、『八月は冷たい城』が合わさった本書。

講談社タイガの表紙も良いですが、講談社文庫版は北見隆さんがカバー装画・デザインを担当していて、より恩田陸さんの作品という感じがして個人的には好きです。

同じ時間軸の物語が少女側『七月に流れる花』、少年側『八月は冷たい城』と両面から描かれていて、お互いを補完するような構成になっています。

内容的には七月である程度の謎が解け、それを踏まえた内容が八月になっているので、文庫の収録順に読むことを強くオススメします。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

七月に流れる花

夏の人

大木ミチルは引っ越してきたばかりで、中学校でも友だちができずにいました。

美術の授業で『夏の人を描く』という課題を与えられ、ミチルは意図が分からないまま一般的にイメージする夏の風景と人を描きます。

ところが、ミチル以外のクラスメイトはみな同じ絵を描いていました。

それは、緑色の人間でした。

授業が終わってクラスメイトに聞いても答えを濁され、ミチルの疑問に誰も答えてくれません。

しかし、ミチルは『夏の人』と思われる緑色の人間に町で遭遇し、実在することを知ります。

そのことをクラスメイトの佐藤蘇芳(さとうすおう)に話しますが、彼女は信じてくれませんでした。

夏の城への招待

戸惑うミチルのもとに、謎の封筒が届きます。

それは、夏流城(かなしろ)というお城で行われる林間学校への参加を強制するものでした。

夏休みになぜそんなものに参加しないといけないか。

疑問を抱いたまま、ミチルは列車に乗って目的地に向かいます。

林間学校に参加するのはミチル含めて女子中学生六人で、年齢も学校も違う。

その中には蘇芳も含まれていました。

六人を出迎えたのは夏の人で、ミチル以外の五人は何の迷いもなく夏の人についていきます。

こうして夏の城での生活が始まりました。

理由の分からない規則

夏の城での生活はどこか奇妙なものでした。

二日に一度、食料が運ばれ、六人で自炊をする。

鐘が一度鳴ったら、食堂に集合する。

鐘が三度鳴ったら、いつであろうと夏の城の隅にあるお地蔵様にお参りに行かないといけない。

水路に花が流れてきたら、その色と数を報告すること。

城の中に六人以外はおらず、迎えが来るまで外には出られない。

ミチルには何一つ理解できず、何かを知っている様子の五人を次第に疑うようになります。

しかし、蘇芳たちが理由を説明してくれないわけがあり、ミチルはやがて自分が夏の城に呼ばれた理由、夏の人の正体を知ることになります。

八月は冷たい城

この物語は『七月に流れる花』をうけた内容になるので、林間学校の意味や夏の人の正体が最初から開示されます。

詳細を書くとどうしても『七月に流れる花』のネタバレがかなり含まれてしまうので、必要最小限の内容にとどめます。

ご了承ください。

集められた四人

『七月に流れる花』と同時期の話。

嘉納光彦含めて四人の少年が夏流城に招待されました。

光彦は夏の人から招待状を渡された際に、気を付けないとカマキリに喰われると忠告されます。

光彦は、そのことを小さい頃から交流がある蘇芳に相談。

蘇芳いわく、城の近辺にだけとても珍しい、花を食べるカマキリが生息しているという噂があるのだといいますが、真偽のほどは分かりません。

夏の城での生活は男女分かれていて、そのカマキリは男子側にしか現れないのだといいます。

いないはずの五人目

光彦たち四人は蘇芳たちと同じ日に入城。

こちらではすでにこの林間学校の意味が読者にも明示されているので、謎はあまりないように思えます。

ところが、城に入ってすぐに光彦たちは違和感を抱きます。

自分たち以外のいる痕跡があり、光彦は鎌を持って立つ謎の人物を実際に見かけました。

人なのか、それとも本当にカマキリなのか。

この後も謎は増え、『七月に流れる花』とは違った展開を見せます。

そして、夏の人の全てが明かされます。

感想

瑞々しい思春期の感性

恩田さんの作品はいつでも登場する少年・少女が瑞々しく、一瞬で青春時代の感覚が呼び起こされます。

加齢とともに当時の感覚はだんだん薄れつつあるので、恩田さんはどうしてこんなに彼らの気持ちが分かるのだろうと不思議でなりません。

この瑞々しさを感じる度に恩田さんの作品が大好きだと再認識します。

そして、本書はただの青春ではなく、ミステリやSFなどの要素が混ざり合い、子ども向けにしてはかなりダークに仕上がっています。

前半の『七月に流れる花』では明かされないことが多く、林間学校の期間がまるでひと夏の幻のような出来事のように感じられます。

一方で後半の『八月は冷たい城』では、色々なことを知っている上で少年たちは林間学校に参加するので、青春と呼ぶにはかなりダークです。

しかし、ラストに描かれた夏の城の去り際はどこか清々しく、少年たちが大人の階段を一歩のぼったことがうかがえます。

惹かれる謎

前半は謎の散りばめ方がうまく、ミチルの不安な気持ちがよく分かります。

そして明かされる真実にはしっかり驚きがあり、軽やかに読めるけれどしっかり読み応えがありました。

そして後半。

謎が明かされたことをうけて書いているのですが、実はまだ明らかになっていない真実があり、意表をつかれました。

個人的にはこちらで明かされる真実の方が衝撃度が高く、二冊揃って素晴らしい作品だったと思います。

余韻は賛否が分かれるかも

物語は余韻を残して終わります。

全てに説明がされたわけではなく、推測が多分に含まれます。

そのため物事をはっきりさせたい人からすれば、どこか物足りない結末かもしれません。

これは本書に限らず、恩田さんの作品ではよく見られることです。

この余韻を楽しめるか。

それとも消化不良と感じてしまうのか。

賛否が分かれるかもしれません。

個人的には、本書は少年少女に向けて描かれているので、この余韻があることで彼ら彼女たちの中に何かが芽生えて、後々かけがえのない財産になるのではと思っています。

おわりに

二つの物語に分けた点をうまく利用していて、スッキリまとまって読みやすかったです。

少年少女時代に本書を読んでいたら、きっと小説の世界にもっと興味を持っていた気がします。

一方で大人が読むにあたって物足りないと感じる可能性もあるので、その点はご留意ください。

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