『シーソーモンスター』あらすじとネタバレ感想!時空を超えた種族が争う中編集
バブルに沸く昭和後期。一見、平凡な家庭の北山家では、元情報員の妻宮子が姑セツと熾烈な争いを繰り広げていた。(「シーソーモンスター」)
アナログに回帰した近未来。配達人の水戸は、一通の手紙をきっかけに、ある事件に巻き込まれ、因縁の相手檜山に追われる。(「スピンモンスター」)時空を超えて繋がる二つの物語。「運命」は、変えることができるのか――。
Amazon商品ページより
八作家による『螺旋プロジェクト』の一冊である本書。
参加しているのは他に朝井リョウ、天野純希、大森兄弟、乾ルカ、澤田瞳子、薬丸岳、吉田篤弘という錚々たる顔ぶれ。
数千年にわたって『山族』と『海族』が対立していて、様々な時代を切り取っていますが、決まったルールがあるなど、新しい楽しみ方のできる作品です。
プロジェクトの作品全てを読まなくても十分楽しめるので、気楽に読んで大丈夫です。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
シーソーモンスター
物語の舞台は昭和後期。
嫁姑関係にある北山宮子と北山セツはいつも争っていました。
一緒に暮らすことが決まった時、お互いにうまくやれると思っていました。
ところが、実際に顔を合わすとなぜかうまくいかず、いつも相手と張り合ってばかり。
これは螺旋プロジェクトに共通する山族と海族の争いで、山族は耳が大きく、海族は瞳が青いという特徴を持っています。
つまり、二人の争いは二人の意志に関係なく、数千年前から続く争いのせいということです。
それだけでも面白い設定ですが、宮子には夫にも言えない秘密がありました。
それは、かつて機関の情報員だったということです。
かつての仕事のせいもあってか、宮子の周りではトラブルが絶えず、その矛先は夫の直人に向かいます。
スピンモンスター
舞台は近未来。
デジタル化が進んだ結果、大事な情報が簡単に改変されてしまうという問題が発生し、大事な情報ほどアナログで届けられるようになりました。
水戸直正は手書きのメッセージを人力で運ぶ仕事をしていて、まさに時代ならではの仕事といえます。
そんな彼にとって、唯一の天敵ともいえる存在がいました。
名前を檜山景虎といいます。
昔、お互いを乗せた自動操縦の車がぶつかり、二人を残して家族は全員死亡。
その後、二人は総合学校で出会い、会った時から相容れないものを感じていました。
これもまた山族と海族の争いの一つです。
ある日、水戸は新幹線の中で謎の男から手紙を運んでほしいと頼まれます。
そしてその新幹線の中で檜山と再会し、二人の運命は再び交差します。
感想
プロジェクトだけど伊坂さんらしい
本書は螺旋プロジェクトというガッチガチにルールが決められた中で執筆された作品です。
気を付けないとルールに囚われて、個性が失われてしまいそうですが、そこは伊坂さんがうまくやってくれています。
ルールを守りつつも、持ち味を失わずに全面的に押し出す。
その結果、上質なエンタメに仕上がっています。
僕は螺旋プロジェクトのことを知らずに買ったので、はじめは八作家の合作として『シーソーモンスター』が生まれたのだと勘違いしていました。
しかし、実際は共通の設定を用いた八作品なので、伊坂作品をじっくり読みたいという人はご安心ください。
宮子が可愛い
僕はその中でも『シーソーモンスター』を特に気に入っています。
宮子が情報員ということで、『殺し屋シリーズ』を想起させるような設定。
加えて、直人に好意を寄せる宮子が単純に可愛いなと思いました。
巻頭にある年表のイラストからは想像もできないようなキャラクターだったので、このギャップが良かったのかもしれません。
それだけで読む価値ありです。
さらにセツ、直人も良いキャラをしていて、螺旋プロジェクトの設定を抜きにしても一作品としてよくできていました。
現実的に八作品を読むのはかなり厳しいのですが、本書単体でも問題なく楽しめるので、気楽に読んでもらえればと思います。
おわりに
中編二作で五〇〇ページ近いのでなかなかの分厚さですが、サラサラと読めてしまうので、肩肘張らずに楽しんでもらえればと思います。
二作を読んで螺旋プロジェクトに興味を持ったという人は、興味のある作家さんの作品から挑戦してみるのもありです。
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