吉田修一『路(ルウ)』原作小説のあらすじとネタバレ感想!日本と台湾を繋ぐ人生の物語
台湾でも大反響! 国を越え、溢れる想い
台湾に日本の新幹線が走る! 巨大プロジェクトに、それぞれの国の人々の個々に抱いてきた想いが繋がる。確かな手触りの感動傑作!
1999年、台湾~高雄間の台湾高速鉄道を日本の新幹線が走ることになった。 台湾新幹線開発事業部に勤務する多田春香は、正式に台湾出向を命じられた。春香には大学時代に初めて台湾を訪れた6年前の夏、エリックという英語名の台湾人青年とたった一日だけすごし、その後連絡がとれなくなってしまった彼との運命のような思い出があった。
1999年から2007年、台湾新幹線の着工から開業するまでの大きなプロジェクトと、日本と台湾の間に育まれた個人の絆を、台湾の季節感や匂いとともに色鮮やかに描いた、大きな感動を呼ぶ意欲作。 「生きる感触を伝える物語の力」「国境を越える絆を描く傑作」「戦後文学の終焉、新しい感動を味わわせてくれる必読の小説」と各紙誌で絶賛された傑作長編。
「BOOK」データベースより
本書は日本・台湾共同制作で『路(ルウ)~台湾エクスプレス』ドラマ化され、主演は波瑠さん。
2020年5月より土曜ドラマ枠として、総合テレビで全三回で放送されました。
NHKの速報はこちら。
【日台共同制作ドラマ】主演・波瑠 日本人と台湾人のあたたかな心の絆を描く
『犯罪小説集』を読んだ時も思いましたが、吉田修一さんの描く人間はどこまでも深く、ついつい感情移入させられてしまいます。
本書でもそれは健在で、序盤こそ多少の我慢を強いられますが、その分、後半の畳み掛けは圧巻です。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
高速鉄道事業
台湾の台北ー高雄を結ぶ台湾高速鉄道の入札が行われましたが、日本は欧州連合に敗北。
しかしあくまで優先権が与えられたにすぎず、日本はわずかな可能性にかけてもう一度チャレンジします。
その二年後の一九九九年、日本は台湾新幹線受注を勝ち取ることに成功します。
大井物産の多田春香は、入社四年目にして台湾新幹線のために台湾に行かないかと打診を受けます。
期間は五年程度が予想され、簡単に返事ができるものではありません。
しかし春香は台湾に新幹線を走らせたいという情熱を胸に、恋人の池上繁之を日本に残して台湾に旅立ちます。
台湾に新幹線を走らせたいという気持ちは本当ですが、春香には別の思いもありました。
思い出の人
春香は大学生の時に一人で台湾を訪れ、英語名でエリックという大学生と偶然知り合います。
たった半日しか一緒にいる時間はありませんでしたが、二人はお互いを意識し、再会を約束して別れます。
しかし春香は彼の連絡先をなくしてしまい、今に至るまでエリックの消息を知りませんでした。
台湾に来ればもう一度会えるのではと淡い期待を抱いていると、現地のスタッフを通じてエリックと思われる人物の存在を知り、そこから何年もかけて再会を果たします。
一方、繁之は仕事が忙しいせいか、春香と離れたせいか精神的に参ってしまい、春香とうまくいかない日々が続きます。
春香は繁之とこのまま付き合いたいのか、そもそもエリックとどうなりたいのか判断がつかず、高速鉄道事業と並行して頭を悩まされます。
価値観の違い
高速鉄道事業は日本と欧州の良いところ取りを狙っていますが、両者の衝突は頻繁に起こり、油断すれば悪いところ取りになりかねません。
さらにスケジュールに関する認識の違いなど、日本と台湾の価値観の違いは大きく、日本から春香と同じく赴任してきた人の中には精神的にやられてしまう人もいました。
春香はその点において台湾が肌に合っていたようですが、エリックや繁之とのこともあり、仕事だけでなくプライベートでも悩みを抱えることになります。
物語は春香だけでなく、様々な年代、国籍の人物の視点を通じて進行しますが、はじめはそれぞれ別々の話のように思えます。
しかし、後半になると一つずつが繋がりを見せ、最後に一つの物語として収束します。
感想
思い浮かぶ異国の情景
本書は吉田さんが実際に台湾を訪れ、そこから得られたインスピレーションをもとに描かれています。
僕は台湾を訪れたことがありませんが、本書を読んだだけで台湾を訪れたような、もっといえばそこで暮らしているような錯覚を覚えました。
湿っぽい暑さ、昼と夜で変わる街の姿、屋台をはじめとしたおいしそうな数々の料理。
そして、そこで暮らす人の価値観。
どれも日本にいては絶対に体験のできないものです。
僕は本を読むことで自分の知らない人生、世界を味わえると思っていて、本書はそれを見事に描いています。
それも完成度が群を抜いて高いので、没入感がすさまじく、台湾の香りが実際にするようでした。
人生の深さが感じられる
春香は日本を離れ、台湾で高速鉄道事業に携わりますが、その期間は八年です。
子どもでいえば、小学一年生が中学卒業間近という長さです。
本書では高速鉄道事業と平行して、各登場人物たちの時間経過にともなう状況、心情の変化を丁寧に描いていて、その深さに驚かされました。
春香を例にとると、仕事のキャリアはもちろんのこと、繁之との関係、エリックとの距離感は戸惑いと悩みの連続で、時がちゃんと流れていることが感じられました。
今まで見えていなかったことが、年を重ねて見えてきたり、受け入れたりできるようになる。
この感覚は、三十代以上の方ならピンとくるのではないでしょうか。
どのエピソードも好きですが、個人的には安西の行く末にほっとしました。
はじめは神経質で気に食わないと思っていましたが、読み終えるとなんだかんだ憎めない人になっていたのか自分でも意外です。
人生でもなんでもそうですが、なるようになると気楽に構えるくらいがちょうど良いのかもしれません。
後半から本領発揮
本書は序盤から中盤にかけて、春香をはじめとした様々な人物の視点から物語が進行します。
人数が多いのもそうですが、台湾の名前に馴染みがないこともあって頭になかなか話が入ってきませんでした。
また先の見えない台湾での高速鉄道事業をはじめとして、それぞれが問題や後悔を抱え、それが読み進めるごとに心に積もっていくのて、読み進めるのにかなり苦労しました。
そして、話がどう繋がるのか一切予想がつかず、投げ出してしまおうかと何度も思いました。
しかし、中盤を越えると、話は一気に繋がり、高速鉄道のように待ったなしで進行します。
それも良い方向で。
この爽快感は読み進めて良かったと心の底から思えるもので、事業を成し遂げた春香たちの達成感に繋がるものがありました。
もし途中で挫けそうになった方は、どうかその先に待つ明るい未来を信じて読み進めてもらえないでしょうか。
春香たちが経験した八年に比べれば、この本の長さなんて一瞬です。
登場人物たちの苦労を共有したからこそ味わえる感動は必見で、読んで損はないと僕が保証します。
おわりに
本書は交通としての路だけではなく、日本と台湾の人をも繋げる路だと思いました。
高速鉄道事業がおまけだと思えるくらい人物、そして台湾の地の描写が濃厚で、一度読めば台湾を訪れて本書の答え合わせをしたくなるはずです。
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