ミステリ
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『人間標本』あらすじとネタバレ感想!美しい狂気の裏に隠された真実とは?

harutoautumn
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イヤミスの女王、新たなる覚醒

人間も一番美しい時に標本にできればいいのにな――。ひどく損壊された6人の少年の遺体が発見されると、社会はその事件の異様さに衝撃を受けた。大学の生物学科で蝶の研究をする榊史朗は、蝶の世界を渇望するあまり、息子を含む6人の少年たちを手にかけたと独白する。蝶に魅せられ、禁断の「標本」を作り上げたという男の手記には、理解しがたい欲求が記されていた……。耽美と狂おしさが激しく入り乱れる、慟哭のミステリ。

Amazon商品ページより

湊かなえさんが一年の休業の末、十五周年に辿り着いた渾身の一作である本書。

親の子殺しをテーマに、目を覆いたくなるような惨状を描きつつも、それは同時に美しくて読むのを止められませんでした。

最後まで油断できない進行で、一番面白い作品だと湊さんが自負されるのも納得の一冊です。

本書に関する湊さんへのインタビューはこちら。

【インタビュー】作家生活を15年続けてきた中で、一番面白い作品が書けました――湊かなえ『人間標本』

プライムビデオで映像化もされます。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

手記

序盤は大学で蝶の研究をしている榊史朗の手記、あるいは作品のような体裁である『人間標本』がそのまま掲載されています。

画家である父親が世間から絶縁したいという理由で山奥に引っ越すことになり、史朗は幼少期にそこで蝶と出会います。

最初は捕って楽しんでいましたが、虫かごの蝶はすぐに死んでしまいます。

そんな時、普段あまり口を開かない父親が標本を作らないかと提案します。

標本

父親が道具を揃えてくれ、史朗ははじめて標本を作ります。

残酷な作業でありながら、そうやって標本にされた蝶は美しく、父親が手放しでほめてくれることは史朗にとって嬉しいことでした。

これが現在の猟奇殺人に繋がるのですが、要因は他にもあります。

それは父親が、人間を一番美しい時に標本にしたいという願望を持っていて、それゆえに業界から追放された事実を知ったことです。

一枚の絵

父親の藝大の友人・一之瀬佐和子は病気でそう長くない命でした。

彼女は史朗の父親に自分の絵を描いてほしいと依頼して、父親はその絵を完成させます。

夫婦はそれを気に入ってくれますが、娘の留美だけは今の母親の方が綺麗だと怒ります。

これをきっかけに史朗は留美を交流を持つようになり、しばらく交流が途絶えるものの、お互いに子どもを持つ年齢になった頃に再び会います。

留美は史朗がかつて住んでいたアトリエを購入していて、そこに史朗やその息子の至を招待してくれたのです。

そこには他にも娘の杏奈、五人の少年たちがいて、留美は少年たちの中から『色彩の魔術師』と呼ばれる自分の後継者を選ぶことを宣言しました。

感想

美しさと狂気

序盤は史朗の手記が描かれ、彼がどのようにして蝶に惹かれ、やがて人間標本という狂気に辿り着いたのかが描かれます。

描写を見る限り、彼はごく平凡な少年で、父親が標本について知識があり倫理観を適用させない価値観を持っていたからこそ、今の考えに至っています。

つまり、環境がそうさせたのではないかと。

文字面だけ見ればとんでもない話ですが、本書の蝶の描写やそれを標本にした時の美しさを見ていると、そんな欲求もあって当然かもしれないと思うようになりました。

耽美という言葉が似あう作風で、僕の大好物なので、湊さんからそんな作品が読める日がくるとはと感動していましました。

少年たちの魅力

本書では至含めて六人の少年が標本にされます。

作品解説がありますが、それに留まらず、彼らが生前どんな様子だったかもあわせて描かれます。

異なる魅力を持った六人。

それを史朗が標本にしたいという欲求を持ちながら、どのように見つめていたのか。

これだけでもとんでもない狂気を孕んでいて、それが淡々と事実ベースで描かれていることに怖さと面白さを感じました。

ただでは終わらない

本書は順当にいけば、犯人の動機を当てる系統の作品になりそうですが、それだけでは終わりません。

読者の認識を揺るがすようなことが幾度となくあり、その度に世界がひっくり返ります。

どうやってこの人間標本が出来上がったのか。

それを追いかける中で読者はより深い狂気にはまり込み、そこで極上の美しさを見付けます。

この快感に、イヤミスの女王という称号が嫌味などではなく、正しく素晴らしい評価だったのだと思わずにはいられませんでした。

おわりに

映像化の予告を見て、小説の映像化されたものをこんなに見たいと思ったのは久しぶりかもしれません。

2025年は年末に差し掛かって、僕の好みの急所を的確に攻めるような作品ばかりを出してきました。

嬉しすぎます。

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