『ミステリークロック/コロッサスの鉤爪』あらすじとネタバレ感想!緻密なトリックが積み重ねられた極上ミステリ
防犯探偵・榎本径、史上最難の推理。時計だらけの山荘、奇妙な晩餐会。「事故死」は「秒単位で仕組まれた殺人」へ変貌する。
「BOOK」データベースより
何者かに海中深くへ引きずり込まれた元ダイバー。無残な遺体には鉤爪で付けられたかのような不審な傷が残されていた。現場は、ソナーで監視され、誰も近づけないはずの“音の密室”。事件の調査依頼を引き受けた、防犯コンサルタント(本職は泥棒!?)の榎本と弁護士の純子は、大海原に隠された謎に挑む!(「コロッサスの鉤爪」)。表題作ほか計2編収録。『ミステリークロック』と2冊で贈る、防犯探偵・榎本シリーズ第4弾。
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『防犯探偵・榎本シリーズ』の第四弾となる本書。
前の話はこちら。
ハードカバーをベースに考えると、前作から実に六年ぶりに刊行されたわけですが、その時間が空いたことも納得の極上密室が四つの短編でそれぞれ描かれています。
防犯コンサルタントの榎本径と弁護士の青砥純子が狂言回しとして登場し、謎に挑むというスタイルは変わりませんが、これまでのシリーズ作との関連はあまりありません。
なので、本書から防犯探偵・榎本シリーズを知ったという人は、本書から読み始めても特に問題はありません。
以下は本書に対する貴志さんのインタビューです。
【刊行記念インタビュー】貴志祐介『ミステリークロック』 時計コレクターでもある女性作家の不審な死。“防犯探偵”榎本径が挑む4つの密室トリック!
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
ゆるやかな自殺
暴力団員の野々垣は組の規則に違反したことを若頭に指摘され、薬のビジネスのことがバレるのも時間の問題でした。
そこで殺害に及びますが、逃走するところを団員のミツオに目撃されてしまいます。
野々垣はミツオが自分の車のナンバーまで記憶していることを確認すると、ミツオのいる部屋を密室にして、自分にアリバイのある状態でミツオが死ぬよう細工します。
組はこのことを警察に通報するわけにいかず、組長の知人である榎本に調査を依頼。
犯人を間違えれば命がない極限の状態で、榎本は文字通り、命がけの推理を求められます。
鏡の国の殺人
美術館の館長・平松は美術館にセキュリティに疑問を抱き、突破できるか検証してほしいと榎本に依頼。
榎本は依頼に従って美術館内に侵入しますが、そこで見たのは平松の死体でした。
すぐに榎本は何者かによって事件の犯人に仕立て上げられてしまったことを悟ります。
警察は防犯カメラの映像から侵入者の姿を見ていますが、仮面を被っていたことで特定には至っていません。
いち早く榎本であることを確信した刑事の鴻野は純子に相談。
二人は榎本の無実を晴らすために捜査に乗り出します。
犯人はすぐに絞られますが、現場は密室で普通の考えた方では犯人を特定することはできません。
数日後に展示を控えていた『鏡の国のアリス』をモチーフにした迷路。
純子は榎本や鏡の国のアリスに精通する専門家にアドバイスをもらいながら、謎に挑みます。
ミステリークロック
表題作。
小説家として成功を収めている森怜子。
彼女は山荘に親しい人たちを呼び、夜会を開きます。
その場に榎本と純子も居合わせていました。
話が盛り上がる中、怜子は仕事のために部屋に引き上げますが、悲鳴が聞こえて一同が駆け付けると、彼女は何者かが仕込んだ毒によって殺害されていました。
夫の時実は銃を持って参加者を脅し、犯人をこの場で暴き、処刑することを宣言。
一同は自分の命を守るために推理を始めますが、山荘に置かれた多すぎるほどの時計によってそれぞれのアリバイは証明されてしまい、一向に犯人が掴めません。
誰もが疑心暗鬼になる中、榎本だけは冷静にちょっとした違和感をヒントに密室のトリックに気が付くのでした。
コロッサスの鉤爪
純子は海洋開発を仕事にする会社の社長令嬢・近江有里に婚約者である布袋悠一の死について相談されます。
布袋の死はゴムボートが転覆したことによる事故と考えられていますが、優秀なダイバーだった布袋からは考えにくく、また説明かつかないことがいくつもあり、有里は事件だと考えていました。
しかし、現場となった海域ではソナーによって外部の人間がいなかったことが証明されています。
これは特殊な密室環境だったことを意味します。
当時、三人のダイバーが深度300メートルを泳いでいて、通常であればこのうちの誰かが浮上して布袋を殺害したと考えられます。
しかし、地上と深度300メートルでは気圧が全く異なり、潜水病にならないよう減圧するには十二日間必要となります。
この特殊な密室の中で、犯行は可能なのか。
今回も榎本と純子が挑みます。
感想
過去一番考え込まれたミステリ
これまで貴志さんは防犯探偵・榎本シリーズの中で様々なミステリを描いてきました。
正統派な密室もあれば見方を少し変えた変則的なものもあるし、コメディや喜劇のような貴志さんからはあまり想像できないものまでありました。
そんな中で、本書で描かれているミステリはシリーズを通して一番考え込まれ、作り込まれていると断言します。
特に『鏡の国の殺人』と『ミステリークロック』ではそれが顕著に表れています。
図解によって文章だけでは理解しにくい部分を補っていますが、それでも複雑なトリックが次から次へと披露され、理解するために何度前のページに戻ったことか分かりません。
五〇〇ページ以上とかなりのボリュームですが、その倍以上の長さに感じる濃密な読書でした。
モチーフが興味深い
個人的に良かったと思った点が、作品の中で取り上げられているモチーフがそもそも興味深かった点です。
『鏡の国の殺人』は『鏡の国のアリス』をモチーフにしていて、僕は数年前にモチーフとなった作品を読んでいたので、どうミステリに組み込んでいくのか楽しみで仕方ありませんでした。
モチーフとなった作品のアイディアを取り入れつつも、ちゃんと現代の技術などと組み合わせてオリジナリティを出しているのがさすがでした。
もし興味を持った人は『鏡の国のアリス』も読んでみることをオススメします。
そうすれば本書の楽しみ方が増え、前回とは違った面白さを見出せるはずです。
それから『ミステリークロック』について、トリックもそうですがミステリークロック自体の素晴らしさに惹かれ、読了後にすぐに調べてみました。
あまりの金額に目玉が飛び出そうでした。
世の中には自分の知らない素晴らしいものがたくさんあるのだと、作品の内容以外の部分でも満足することが出来ました。
爽快感は少なめ
『ミステリークロック』の中で今後のミステリの在り方について語られていましたが、単体で独創的なトリックを生み出すことはもはや不可能に近く、様々なトリックの組み合わせによって差異を出していくしかありません。
それでもかなりの難易度なわけですが、この作品では誰も考え付かないような複雑で緻密なトリックが描かれています。
貴志さんの引き出しはいつになったら空になるのだろうと恐ろしくなってしまいました。
読み応えは保証しますが、その一方で、読んですんなり理解することは困難で、自分の頭で組み立てることでようやく理解に至ります。
それゆえに解けた時の爽快感は少なめで、サラッと流し読み程度に読書を楽しみたい時には正直向きません。
トリックの難易度が高すぎるせいか純子のおバカっぷりがさらにひどくなっているので、エンタメとしても十分楽しめますが、やはりトリックの難易度を考慮すると、じっくり腰を据えて読むことをオススメします。
おわりに
もはや当初あった榎本と純子のキャラクターは薄れ、狂言回しとしての役割がいよいよ強まってきました。
本当にシリーズの必要ある?とちょっとだけ思ってしまいました。
しかし、ミステリとして手抜きは一切なく、ここ数年でもお目にかかったことのないほどの極上ミステリですので、これからも首を長くして新刊を楽しみにしたいと思います。
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