『殺人記念日』あらすじとネタバレ感想!夫婦の絆を繋ぐのは殺人!
ふとしたことで人を殺し、その隠蔽という共同作業を経て夫婦円満となった「わたし」と妻。二人はもはや殺人を楽しむようになり、次なる獲物を求めていた。そんなとき、隠していたはずの被害者の死体を警察に発見されてしまう。そこにはある秘密があった――彼らは十八年前の連続殺人事件の犯人に罪をなすりつけようと画策するが……。数多くのミステリ最優秀新人賞にノミネートされ、国際的ベストセラーとなったサスペンス。
Amazon商品ページより
長らく愛読している『300books』というブログで紹介されていて、すぐに購入を決断した本書。
エドガー賞をはじめ数多くのミステリ文学賞にノミネートされ、映像化企画も進行中ということでかなりの話題作です。
『夫婦円満の秘訣は、殺人』。
この帯のフレーズがとにかく印象的で、文庫本にして五百ページ以上とけっこうなボリュームですが、ミステリ好きであれば外せません。
日常と殺人という非日常行為が地続きになっている点が恐ろしくも興味深い点で、読み終えると自分の周りにもこんな夫婦がいるのでは、とついそんなことを考えてしまうほど影響されまくりました。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
転機
テニスのコーチであるわたしと、わたしの妻で不動産仲介業の会社に勤めるミリセント。
二人には息子のローリーと、娘のジェンナがいて、一見、仲の良い家族にしか見えません。
ところが、夫婦には子どもたちにも言えない秘密がありました。
それは、二人が殺人鬼であり、それを楽しんでいるということです。
二人は最初から殺人に喜びを見出していたわけではありません。
ミリセントにはホリーというひどい姉がいて、ある日口論になり、わたしは家族を守るために咄嗟にテニスラケットで彼女を殺害。
その一年後、今度はホリー失踪についてわたしが関与していると疑うロビンという女性が現れ、再びピンチに陥ります。
すると今度はミリセントがロビンを殺害し、今度こそ平穏が戻ったはずでした。
ところが、夫婦は殺人を楽しむようになってしまい、ついに自らターゲットを決めて自分たちの意思で殺人に及ぶようになります。
なすりつけ
ある日、一年前に失踪したリンジーという女性が遺体となって発見されます。
わたしは激しく動揺します。
リンジーは二人が選んでミリセントが監禁しているはずの女性だったからです。
警察の捜査が自分たちに及ぶかもしれない。
わたしはとても平静でいられませんが、ミリセントは違います。
彼女は一年きっかりにリンジーが発見されるよう仕組んでいたのです。
なぜ、そんな危険なことをするのか。
それは、十八年前に消えた連続殺人鬼、オーウェン・オリバーに自分たちの罪をなすりつけるためでした。
オリバーは九人もの女性を殺害するも証拠不十分で釈放されており、今でもニュースで取り上げられるほどの知名度を誇っていました。
ミリセントはオリバーの犯行に似せることで彼に捜査の目が向くよう仕向けますが、リンジーだけでは足りません。
二人目以上が同様の被害にあって、はじめて連続殺人として取り扱われるからです。
わたしはミリセントの考えに賛同し、改めて最高のパートナーだと思います。
リンジーが失踪し、きっかりその一年後に遺体となって発見された日。
二人はその日を『殺人記念日』と決め、家族の平和のために新たな殺人計画を企てます。
綻び
ところが、話はそううまくいきません。
二人は決して殺人のエキスパートではなく、あくまで一般市民です。
本気で捜査されれば、自分たちが犯人だとバレてしまいます。
二人は細心の注意を払いますが、わたしは夜にこっそりいなくなることをローリーに知られてしまいます。
ローリーは浮気だと勘違いしていますが、このままではいつ計画がバレてしまうか分かりません。
またジェンナはオリバーの影におびえ、精神的にやられてしまいます。
家族を守るために、計画を続行するべきか否か。
物語はやがてスピードを増し、思わぬ展開を見せます。
感想
当たり前のように共存する二面性
本書の最も恐ろしいところは、わたしとミリセントはほとんどの部分で一般市民と全く同じだという点です。
当たり前のように働き、夫婦や家族を大事にする。
唯一違うのが、殺人という異常な方法で夫婦の絆を保っていることでした。
それゆえにどれだけ卑劣な計画を立てても、ローリーやジェンナのことを心配する夫婦を見てはつい感情移入してしまいます。
この設定はなかなか新鮮で、いつものミステリとは全く違った観点から楽しむことが出来ました。
記号のようなわたし
本書の特徴の一つとして、わたしの名前が最後まで明かされないことが挙げられます。
最後まで読んでも、わたしはテニスのコーチであり、良くあろうとする夫であり父です。
殺人鬼という点をのぞけば、それ以上の存在ではありません。
そのためわたしという人間の存在が曖昧で、まるで記号のように感じられます。
すると、想像力を働かせればわたしは読者の知る誰かに置き換えることができ、全く違った物語を頭の中で作り上げることだってできます。
僕が冒頭に書いた、自分の周りにもこんな夫婦がいるのではと考えたのはこれが理由です。
わたしという存在は決して特別なんかではなく、どこにでも潜んでいる可能性があり、案外自分の近くにいるかもしれない。
そんな妄想の隙間を与えてくれる点が面白く、従来のミステリとは一線を画した場所に位置する作品だと思います。
おわりに
妻と二人きりの夜に、殺人計画について話し合うことでお互いの愛を確かめ合う。
想像したらけっこうトキめくものがあり、夫婦の問題の大部分に目をつむれば恋愛小説として見ることが出来るかもしれないとふと思いました。
まあ、その後すぐに、目をつむれるほど小さな問題ではないことに気が付いたので、やはり本書は最高に楽しいミステリ、サスペンス小説です。
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