『無貌の神』あらすじとネタバレ感想!暗黒童話のような短編集
赤い橋の向こう、世界から見捨てられたような場所に私は迷い込んだ。そこには陰気な住人たちと、時に人を癒し、時に人を喰う顔のない神がいた。神の屍を喰った者は不死になるかわりに、もとの世界へと繋がる赤い橋が見えなくなる。誘惑に負けて屍を口にした私はこの地に囚われ、幸福な不死を生きることになるが…。現実であり異界であり、過去であり未来でもある。すべての境界を飛び越える、大人のための暗黒童話全6篇!
「BOOK」データベースより
恒川さんらしい、怖さだけでなく切なさや哀愁のようなものも内包した短編集である本書。
現実にありそうなところから、気が付いたら非現実世界に迷い込んだような感覚は本当に極上です。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
無貌の神
世界から見捨てられたような集落。
私は気が付くとそこにいました。
人々は陰気で、与えられる仕事もなければ義務もない。
私は集落で唯一の子どもで、アンナという女性に拾われ、ここで生きていくための術を教えてもらいます。
そんな集落には古寺があり、そこにはのっぺらぼうのように顔のない神が坐していました。
青天狗の乱
昔、私は伊豆に向かう交易船の船員をしていました。
交易船は江戸を出て、様々な場所を経由して再び江戸に戻りますが、その中で私には父祖の代から受け継がれてきた副業がありました。
それは、島流しされた人に対して縁者からの差し入れ(見届物)を運んで渡すことでした。
違法なことではないし、同じような副業をする人たちともしっかり住みわけが出来ている。
ある日、私は見届物として一つの長櫃を受け取ります。
中には天狗に似た、青く角が生えた化け物の面でした。
死神と旅する女
舞台は大正時代。
十二歳のフジは、田園地帯で二人の男がいました。
中年男性は天狗の面を頭に載せ、山伏の白装束を着ていて、手には錫杖を持っている。
その男は、もう一人の男の度胸試しのために切られてくれないかと言い、危うく刀で斬られそうになります。
しかし怯える男はフジをうまく切ることができず、彼女は逆に男を斬れば助けてやると言われ、思考を捨てて男を刺し殺します。
助かったと思われましたが、これがフジの人殺しの旅の始まりでした。
十二月の悪魔
神楽坂タカシは若い頃、警察に逮捕され、出所して数年が経ち、現在はおそらく七十歳くらい。
彼には記憶がありませんでした。
影男という存在が神楽坂の心を食べてしまったからなのだといいます。
あてもなく歩いていると、森の中に一軒の家を見つけ、アカネという女性と出会います。
アカネは、町の住人のほとんどがゾンビ状態で、誰もが自分が誰で何をしているのか分かっていないのだと言います。
それは悪魔のせいだといい、二人は悪魔に歯向かうことを決意しますが、この町には大きな秘密が隠されていました。
廃墟団地の風人
私は廃墟で目を覚まします。
私は風で、誰にも気が付かれることなく存在していて、自らのことを風人(かぜびと)と名付けます。
ある日、廃墟に十歳くらいの男の子・裕也と出会います。
裕也には風人のことが見えて、二人は遊ぶような仲になります。
カイムとラートリー
カイムルという獣は人間に捕らわれてしまいます。
彼は人の言葉を理解するだけでなく、自ら話せるほどの賢さを持っていましたが、それゆえに恐れられ、皇帝に献上されます。
カイムルは第三皇女のラートリーに飼われることになり、足が不自由な彼女と友情を育みます。
しかし、それは決して幸せな日々などではありませんでした。
感想
形容しがたい作品
本書は表題作をはじめとした六つの短編で構成されているのですが、読み終わった後でも一言でなんと説明していいのかよく分かっていません。
説明にある暗黒童話集といえばもちろんその通りなんだけれども、もっと何かある気もする。
でもそれが何か分からない。
そんな不思議な気持ちでいます。
あらゆるジャンル、あらゆる時代を内包するだけのスケールがあり、それを描けてしまう恒川さんのすごさを改めて実感しました。
前半が特にオススメ
僕は輪郭が曖昧な話よりも、分かりやすく面白い、怖いなどのストレートな作品が好きです。
そういう人であれば、前半三作品が特にはまるのではないでしょうか。
時代背景など異なりますが、どちらかというとストレートなホラー要素が強く、分かりやすい恐怖の対象があります。
後半は暗黒童話要素が強く、まとわりつくような不快感を楽しめます。
おわりに
言語されているのに、自分の中に落とし込むと言語化から離れていく不確かさ。
不思議な感覚をぜひ味わい、それを無理に言語化せずありのままを受け止めてもらえたらと思います。
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