ミステリー

『魔力の胎動』あらすじとネタバレ感想!ラプラスの魔女に繋がる前日譚

悩める人々の前に現れた彼女は、魔女

成績不振に苦しむスポーツ選手、息子が植物状態になった水難事故から立ち直れない父親、
同性愛者への偏見に悩むミュージシャン。彼等の悩みを知る鍼灸師・工藤ナユタの前に、物理現象を予測する力を持つ不思議な娘・円華が現れる。挫けかけた人々は彼女の力と助言によって光を取り戻せるか?円華の献身に秘められた本当の目的と、切実な祈りとは。規格外の衝撃ミステリ『ラプラスの魔女』とつながる、あたたかな希望と共感の物語。

Amazon商品ページより

映画もされて話題となった『ラプラスの魔女』の前日譚的なポジションにある本書。

https://www.youtube.com/watch?v=LN1k2yAXab4

単行本の発売時期的に映画『ラプラスの魔女』を盛り上げるために刊行された感は否めません。

僕もそう思いながら本書を読みました。

ところが実際に読んでみると、『ラプラスの魔女』がなくても立派に成立している作品で、新キャラにも重要な役目を担わせて作品の魅力を高めているところに好感が持てました。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

あらすじ

第一章 あの風に向かって翔べ

鍼灸師の工藤ナユタは師匠の後を継ぎ、体の不調で悩める人たちに施術を行っていました。

今回の施術相手は、板屋というスキージャンパーです。

長年の疲労によって怪我を抱え、ここ最近は勝ちから遠ざかっていました。

北陵大学で流体工学を研究する准教授・筒井のもとでフォームの確認をしていると、思わぬ来訪者が現れます。

その人は羽原円華といい、筒井の知り合いである天才脳外科医の娘でした。

円華の母親は七年前に竜巻に巻き込まれて亡くなっていて、それ以来、竜巻に関係するような研究に興味を持っていました。

円華は一目で板屋のフォームの問題点を見抜き、周囲を驚かせます。

しかし、本当に驚くべきことはここからです。

円華は試合当日の風を読み、板屋を勝たせると言い出したのです。

第二章 この手で魔球を

石黒はプロ野球の投手として目立たない選手でしたが、ナックルボールによって一躍有名になり、華々しい活躍をしてきました。

彼のナックルは打つどころから捕ることすら難しく、唯一捕球できた捕手・三浦は石黒の恋女房として彼を支えてきました。

ナユタにとって石黒も顧客の一人で、今回、ナユタのお願いということでとある実験が行われます。

それは、筒井によるナックルの変化に関する秘密の解明でした。

そこには円華も同席していましたが、ナックルの解析とは別に課題がありました。

三浦は怪我によって引退を目前にしていましたが、後継者となるべき山東という捕手が石黒のナックルを捕球できないのです。

このままでは石黒は投手としてこれまで通りの投球が出来ず、三浦と共に引退するしかありません。

円華は石黒のナックルに惚れこみ、山東の自信をつけさせるためにとある秘策を講じます。

第三章 その流れの行方は

ナユタは偶然、高校の同級生である脇谷と再会。

懐かしい話をする中で、話題は高校自体の担任だった石部のことになります。

石部の息子・湊斗は去年、水の事故によって意識不明状態になり、円華の父親の勤める開明大学に入院しているというのです。

ナユタは円華を通じて湊斗の状態を知り、そこから石部の置かれている状況を知りました。

恩師のために力になりたいナユタは、円華に協力してもらって彼の後悔を晴らすために行動を始めます。

第四章 どの道で迷っていようとも

ナユタの顧客に朝比奈というピアニストがいて、重度の視覚障害を負っていました。

彼には尾村という公私共に支えてくれるパートナーがいましたが、一ヶ月前に崖から落ちて亡くなっていました。

朝比奈はゲイでそのことを公表しましたが、それが尾村を自殺に追い込んだのだと信じていました。

一方で、円華は甘粕才生という映画監督のことを知るためにナユタと会います。

ここでナユタがかつて子役として芸能界にいて、甘粕の作った映画『凍える唇』に出演していたことが判明します。

ナユタの知られざる過去と、朝比奈の今。

この二つが重なり、話は思わぬ方向に進みます。

第五章 魔力の胎動

『ラプラスの魔女』の三年前の話。

地球化学の研究をする青江は調査の依頼を受け、同じ研究室の奥西と共に灰堀温泉村を訪れます。

ここでは硫化水素中毒事故が起こっていて、夫婦と小学生の息子の三人が亡くなっていました。

以前にも調査をしていて、三人の亡くなっていたポイントは危険な場所として注意していたはずですが、不運が重なってその情報がうまく伝わっていませんでした。

これは村側の落ち度ですが、他にも疑問点があります。

このポイントには何もなく、家族三人で来る理由がないということです。

三人はなぜこの場所を訪れたのか。

青江は事故の真相を解き明かすと共に、新たな事件にも遭遇します。

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感想

単なる前日譚ではない

僕が本書を面白いと感じたのが、冒頭でも書いた通り、『ラプラスの魔女』を知らなくてもしっかり作品として成り立っていると感じたからです。

読者の視点として立ち回るナユタは話を進むごとにキャラクターとしての厚みを増し、やがて彼自身の抱える問題などが浮き彫りになっていきます。

やや展開がいきなりという感じもありましたが、元々まるで未来予知のような特殊能力が中核にある常識では片付けられない作品なので、僕はそこまで気になりませんでした。

円華のお付きである桐宮や武尾の存在自体が漫画やアニメでよくあるテンプレートのような設定なので、非現実的な設定・展開が苦手だという人はおそらく『ラプラスの魔女』の段階でやめているような気がします。

単なる前日譚と片付けてしまうにはもったいない、良い作品だと思います。

表題作が今一つ

ナユタ×円華が中心となる第四章までは楽しんで一気に読むことが出来ました。

そして、いよいよ表題作である『魔力の胎動』。

この話こそが一番『ラプラスの魔女』と繋がっていると思いますが、個人的にはこれが一番微妙でした。

『ラプラスの魔女』で主人公の役目を果たす青江が登場し、『ラプラスの魔女』の三年前を回想するという形で物語が進行するのですが、ちょっと平坦すぎて退屈だというのが正直なところです。

登場人物、事件の内容、あるいは真相。

いずれかがずば抜けて面白ければ良いのですが、どれもイマイチだったのが残念でした。

タイトル的にはすごく好みだったので、期待が大きかった分、拍子抜けという感じです。

しかし、読んで損をするということはないと思うので、『ラプラスの魔女』を楽しむ上で必読だと断言してもいいのではないでしょうか。

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おわりに

『ラプラスの魔女』の前日譚ということだけでなく、ナユタと円華の働きかけによって周囲の人が幸せになる明るい話で、前日譚として捉えるにはもったいないほどの魅力を持った作品でした。

久しぶりに東野さんの作品を読んだせいか、安定して面白いということがいかに難しいのかがよく分かり、改めて東野さんすげーっな一冊です。

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