『まぐだら屋のマリア』あらすじとネタバレ感想!尽果に集まった人たちによる再生の物語
“尽果”バス停近くの定食屋「まぐだら屋」。様々な傷を負った人間が、集まってくる。左手の薬指がすっぱり切り落とされている謎めいた女性・マリア。母を殺したと駆け込んできた若者。乱暴だが心優しい漁師。そしてマリアの事をひどく憎んでいる老女。人々との関わりを通して、頑になっていた紫紋の心と体がほどけていくが、それは逃げ続けてきた苦しい現実に向き直る始まりでもあった…。生き直す勇気を得る、衝撃の感涙長編。
「BOOK」データベースより
原田マハさんの作品である本書。
はじめ、本書は『マグダラのマリア』に関する絵画にまつわる話かと思っていました。
ところがそうではなくて、それをもじった定食屋の話で、しかもただもじったわけではなくて、そこには関係するだけの深い話があります。
原田さんならではの夢中になって読んでしまう展開で、何か気持ちが塞がっている人に特に読んでほしい一冊です。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
絶望
及川紫紋は神楽坂にある老舗料亭『吟遊』に勤めて五年になる料理人で、まだまだ一人前とはいえませんが、そうなれるよう必死に努力していました。
しかし、彼はとあることをきっかけにそこから離れ、死を考えていることが分かります。
犯罪者ではないけれど、取り返しのつかないことをしてしまった。
意味深なフレーズとともに、その件には後輩の料理人・浅川悠太が関係していることが冒頭、明かされます。
まぐだら屋
紫紋は絶望を抱え、一人あてもなく旅に出ます。
所持金がなくなった時、紫紋がバスでたどり着いたのは『尽果(つきはて)』という土地でした。
まるで人生の終わる場所のようだと思い、自分も終わりを迎えようと考えました。
そんな時、紫紋が見つけたのは崖っぷちに立つ小屋でした。
『まぐだら屋』という定食屋で、そこで紫紋を出迎えてくれたのはマリアという女性でした。
それぞれの過去
マリアは本名ではありませんが、マリアのように人々を愛で包み込む女性で、無一文の紫紋に温かい食事を提供し、家に泊めてくれます。
紫紋は彼女の温かさに触れ、料理人としての経験を活かしてマリアの手伝いを始めます。
次第に紫紋はマリアが何らかの事情を抱えていることを察します。
彼女の左手の薬指が欠落しているが、それが何を意味するのか。
マリア以外にもこの地には深い傷を負った人たちがいて、まるで尽果に吸い寄せられるに集まっていました。
その中で紫紋は生きる力を取り戻し、少しずつ傷を負った人たちと向き合うようになります。
感想
ギャップがすさまじい
マグダラのマリアという言葉と、それにまつわる話はなんとなく知っていました。
そのため、本書のタイトルとの温度差がすさまじく、どんなコミカルな話かと思って読み始めました。
ところが、冒頭から死の匂いがぷんぷんする暗い展開で、まずはそのギャップにやられました。
読み進めると、紫紋同様、マリアの温かさに救われ、彼女との生活に喜びを見出すようになります。
物語が進行するとマリアに深い事情があること、マグダラのマリアとの関連が見え始め、物語から受け取る印象に変化が現れます。
展開の変化、スピードが的確で、リーダビリティも圧倒的。
おまけに話が面白いと文句のつけようがなく、原田さんの作品の中でも読者を選ばれず愛される作品なのではないかと思います。
ラストが良い
本書のラストで紫紋とマリアの今後について描かれますが、それがすごく良かったです。
お互いに癒えることのない深い傷を負い、だからこそお互いを慰めあえる二人。
そんな二人が前に進めるための選択肢として、最高のものだったのではないでしょうか。
くどすぎない、けれどその短い中に二人の気持ちが凝縮されている。
引き際までお見事で、本書は誰にでもオススメしたい一冊だと素直に思うことができました。
おわりに
原田さんは感動作をいくつも出していますが、本書はその中でも頭一つ抜きんでている印象を受けました。
それくらいリーダビリティが高く、誰の心にも染み渡る感動を与えてくれる作品です。
また『マグダラのマリア』についてもその実際を知る良い機会になると思うので、タイトルと表紙が気になった人もぜひ手に取ってみてください。
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