『怖ガラセ屋サン』あらすじとネタバレ感想!あらゆる手を使って相手に恐怖を与える連作短編集
誰かを怖がらせてほしい。戦慄させ、息の根を止めてほしい。そんな願いを考えてくれる不思議な存在――。「怖ガラセ屋サン」が、あの手この手で、恐怖をナメた者たちを闇に引きずりこむ!
怪談は作りものだと笑う人、不安や恐怖に付け込む人、いじめを隠す子供、自分には恐ろしいことは起こらないと思い込んでいる人……。こんなヤツらに、一瞬の恐怖なんて生ぬるい!気づいたときは、あとの祭り。
Amazon商品ページより
“怖がらなかったこと”を、後悔させてあげる――。
一話ごとに「まさか! 」の戦慄が走る、連作短編集。
都市伝説のような存在である『怖ガラセ屋サン』が、あらゆる手を使って恐怖を与えてくれる本書。
自分がそんな目に遭うとは思っていない相手が対象ということで、恐怖だけでなく、一種の爽快感すらあります。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
第一話『人間が一番怖い人も』
浦部の会社の後輩・司馬戸は怪談の愛好家で、怪談話を蒐集していました。
浦部は可愛い後輩に協力しようと家族に話を聞きますが、妻の美里は人間が一番怖いと理解を示してくれません。
その後、司馬戸が婚約者の安藤郁を連れて浦部家を訪れます。
郁もまた怪談が好きで、話は怪談のことで一度は盛り上がりますが、美里はまたしても人間が一番怖いと反論。
浦部が何とか取り持とうとすると、司馬戸と郁の様子がおかしくなります。
第二話『救済と恐怖と』
とある女性が、自分の過去を話すという形で展開します。
彼女は母親の樹理亜と二人で暮らしていましたが、その生活は困窮していて、樹理亜の知識が乏しいこともあってこの状況から脱出する兆しが見えずにいました。
そんな時、樹理亜はネットでパワーストーンのアクセサリーを購入します。
どう見てもインチキ商品でしたが、それを身に着けた翌日に十万円の当たりくじを拾い、樹理亜はそのブランドのアクセサリーを買いあさるようになります。
このまま女性とその母親が不幸になる話かと思われましたが、話は次第に予想外の方向に展開します。
第三話『子供の世界で』
小学二年生の角光太郎は、転校先の小学校で友達ができます。
そのうちの一人が緑川矗(みどりかわのぶ)でした。
光太郎は矗の紹介で二人の友達ができ、楽しい毎日を送っていました。
しかし、二学期に入ると四人の関係にひびが入り、矗が除け者にされるようになります。
光太郎も強制的にいじめに参加させられることになり、その先に悲劇と恐怖が待っていました。
第四話『怪談ライブにて』
客席のおおよそ埋まった会場。
そこで怪談イベントが実施されていて、何人かの人物が怪談を披露します。
それぞれネタ、話し方に特徴があり、それだけでも怪談を楽しむことができます。
最後の四人目に会場のオーナーが自身の怪談を披露し、それが終わると客席に怪談を募ります。
すると女性が手を挙げ、怪談を披露するのですが、そこで会場の空気が一変します。
第五話『恐怖とは』
カメラマンの菊池は、雑誌編集部にゴシップ情報を売り、その報酬で生活していました。
今回のネタは、人気俳優の不倫でした。
菊池は自分だけが掴んだネタだとシャッターチャンスを待っていると、彼の乗る車に一人の女性がやってきます。
女性は恵子といい、今回のネタを提供してくれた情報屋でした。
二人は車内で待機中に他愛のない話をしますが、そこから恵子の様子がおかしくなります。
第六話『見知らぬ人の』
私はくも膜下出血で入院することになり、手術を受けます。
後遺症がいくつもあり、今はリハビリをしながら日々を過ごしていました。
私の入院生活の中で気になることは、同じ病室の徳永という老人を見舞いに訪れる女性の存在でした。
女性は毎日訪れていますが、二人がどんな関係かは分かりません。
私は妻と女性について話したりもしますが、やがておかしな事実が判明します。
第七話『怖ガラセ屋サンと』
かつて『映画地獄』という雑誌があり、そこでとあるライターが連載を持っていました。
連載では怪談の舞台である場所、または怪談がささやかれている地域をライターが訪れ、取材した内容が書かれていました。
次の連載では『怖ガラセ屋サン』が掲載される予定でしたが、突如休載されることになり、掲載されることはありませんでした。
この話では、怖ガラセ屋サンを追った人間の様子が描かれます。
感想
あの手この手の恐怖
本書はタイトルにある通り、『怖ガラセ屋サン』なる存在が依頼主の意向を受け、対象の人間を怖がらせるところが見どころになります。
対象者はそのような目にあって仕方ない、あるいは当然という背景を有していて、罪悪感はあまりありません。
あるのは、どのようにして恐怖を与えるのかです。
短編ということで展開の道筋は限定されていて、先を読むことはそう難しくありません。
しかし、分かっていても怖い。
それが本書の本書たる所以です。
恐怖をなめていて、それゆえに想像以上の恐怖を与えられてしまうのは、読者もそうなのかもしれません。
バリエーションの多さ
本書は設定ゆえにシチュエーションがかなり限定され、七つも短編があると飽きがくるのではと懸念していました。
ところが、それが懸念であることが中盤あたりで分かります。
怖ガラセ屋サンが登場することは決まっているのですが、登場の仕方や関わり方に違いがあり、それによって予想を上回る数の恐怖が生まれます。
エンタメ性も十分で、ホラーがそんなに得意でないという人でも読みやすいホラー小説ではないかと思います。
おわりに
澤村伊智のホラーの中でも、リアリティに寄っている本書。
たかがホラー小説だとなめて読むと、あなたもまた怖ガラセ屋サンによって恐怖を与えられてしまうかもしれません。
もちろん、それは素敵な体験ですので、しっかりと堪能してください。
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