小説

又吉直樹『火花』原作小説のあらすじとネタバレ感想!純文学作品から伝わる芸人の世界

売れない芸人の徳永は、天才肌の先輩芸人・神谷と出会い、師と仰ぐ。神谷の伝記を書くことを乞われ、共に過ごす時間が増えるが、やがて二人は別の道を歩むことになる。笑いとは何か、人間とは何かを描ききったデビュー小説。第153回芥川賞受賞作。芥川賞受賞記念エッセイ「芥川龍之介への手紙」を収録。

「BOOK」データベースより

本書の作者が、あのお笑いコンビ『ピース』の又吉直樹であることはすでによく知られていると思います。

本書は第153回芥川龍之介賞を受賞し、ドラマ化もされています。

本書に対するインタビューは以下の通り。

又吉直樹が受賞前に語った『火花』創作秘話「小説もお笑いも共通する部分がある」

つい色物で見られがちですが、又吉さんの読書からくる膨大な知識、お笑いに対する真摯な気持ちがしっかり作品に反映されているので、ぜひ先入観を抜きにして読んで欲しい作品です。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

あらすじ

出会い

『スパークス』というお笑いコンビで活動する徳永は、四歳上の先輩芸人・神谷と出会います。

神谷は『あほんだら』という名前のコンビで活動し、その名の通り、あほんだらだけれど、天才的な才能を持っていました。

徳永はすぐに神谷の才能に惚れ、弟子にしてもらいます。

ここから二人の日々が始まりました。

漫才師とは

徳永も神谷も売れていない芸人という意味で同列ですが、神谷には漫才師に対するこだわりがあり、それは他の芸人にはない魅力でした。

漫才中だけではなく、あらゆる日常の行動すべてが漫才のためにある。

神谷はその心情に従い、好き勝手生き、徳永は冷や冷やしながらもその姿に憧れます。

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映し鏡

徳永は神谷に褒められたい一心で頑張ります。

それは徳永が一方的に神谷に依存しているように見えます。

しかし、物語が進行するにつれて、神谷もまた徳永に依存していることが分かり、二人はお互いを映し鏡にして自分を見ていたのです。

こうでありたいと願う自分と、本当の自分。

徳永も神谷もそのギャップに苦しみ、それでも人生を前に向かって歩きます。

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感想

印象が変わった二度目

最近、又吉さんの著書『劇場』を読む機会があり、それがきっかけで本書を再読しました。

正直、発表された当初はあまり引っかかるところがなく、面白いともつまらないとも感じず、ただ短かったという印象でした。

それが今回、ちゃんと読んでみると違う印象を受けました。

相変わらず、神谷をはじめ彼らの漫才の面白さは分かりません。

しかし、そこにかける情熱や舞台を離れてからの苦悩や葛藤がこれでもかと伝わってきて、華々しさよりも生々しさ、残酷さを突きつけられました。

あくまで推測ですが、はじめて読んだ時よりも人生はうまくいかないことを実感し、どこかしらの部分で登場人物たちに感情移入したから起きた変化だと思います。

人生は成功した時にではなく、躓いてからどう起き上がるのかが大切だと思えるようになったので、本は読むタイミングも大事なんだと再認識しました。

苦しいのに可笑しい

もう、アホなやつが多い。

特に神谷は破滅に自ら突き進む変態的な天才で、見てて痛々しく思うことが何度もありました。

神谷を尊敬する徳永ですらそう思うことが何度もあるわけですから、彼に何の気持ちも抱かない僕からしたらもうただのアホとしかいいようがありません。

一方で、不器用で悪気がないからこそああいう生き方になるわけで、それも人間らしさだと受け入れることが出来ました。

人の数だけ人生があり、生き方の正しさが本当に分かる人なんてこの世にいません。

あとは生きている本人がその生き方に満足できるかどうかではないでしょうか。

自分のために生きるのか、誰かのために生きるのか。

これははじめて読んだ時にはできなかったことで、自分の成長を少しだけ感じました。

受け入れてしまえば何だかんだ愛しいもので、徳永と神谷の人生は見ていて苦しいのに、やっぱりおかしいとつい頬が緩んでしまいました。

おわりに

再読しても、分からない部分は多くありました。

しかし、以前よりも感じるものが多くあり、芸能人の世界のことをちょっとだけ知ることができました。

彼らが身を削って得た知識、技術で笑わせてもらっている僕は、ただ幸せです。