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『日本SFの臨界点[恋愛篇] 死んだ恋人からの手紙』あらすじとネタバレ感想!

harutoautumn
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『なめらかな世界と、その敵』の著者・伴名練が、全力のSF愛を捧げて編んだ傑作アンソロジー。恋人の手紙を通して異星人の思考体系に迫った中井紀夫の表題作、高野史緒の改変歴史SF「G線上のアリア」、円城塔の初期の逸品「ムーンシャイン」など、現在手に入りにくい、短篇集未収録作を中心とした恋愛・家族愛テーマの9本を厳選。それぞれの作品への解説と、これからSFを読みたい読者への完全入門ガイドを併録。

「BOOK」データベースより

伴名練さんが『恋愛』をテーマに日本のSFを集めて編んだ本書。

基本的には男女の恋愛が中心になりますが、同性愛や家族愛などをテーマにした作品も収録されていて、広い意味での愛とSFの融合を存分に楽しむことができます。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

死んだ恋人からの手紙

本書は、女性のもとに恋人から届く手紙、という形で描かれています。

恋人は女性のことをあくび金魚姫と呼び、軍人なのか戦闘に参加していることが分かります。

手紙は時系列がバラバラで、途中から違う差出人からの手紙が混じるなど仕掛けが施されており、それが独特な感覚を読者に与えます。

奇跡の石

バブル経済の真っただ中にある日本。

私は電機メーカーのエスパー研究室で働いていました。

エスパー研究室には超能力があるという被験者が次々に訪れ、その技を披露しますが、それが会社にとって利益を生み出すことはなかったし、それで問題がないほど余裕がありました。

そんなある日、私は仕事で東欧の小国ロベリア共和国を訪れることになり、ドリスとイオナという姉妹と出会います。

生まれくる者、死にゆく者

赤ちゃんが少しずつ生まれ、老人が少しずつ死んでいく不思議な世界を描いた本書。

ヤジ・マニの夫婦のもとには、五年近くの歳月をかけてもうすぐ子どもが生まれようとしていました。

すでに体の特徴や服装も分かっていて、夫婦の期待は日に日に高まります。

一方で、おじいちゃんは死に向かい始めて三年が経過し、姿が見えないことが多くなってきていました。

ちょっと生まれた者と、たくさん死んだ者が顔を合わせる確率は低い。

その中で夫婦は、おじいちゃんに一目でも孫の顔を見せようと努力します。

劇画・セカイ系

小原正樹はライトノベル作家で、デビュー作のセカイ系ラノベがそれなりに評価されます。

しかし、彼は次作が書けず、苦しんでいました。

それもそのはず。

小原が書いたデビュー作は、事実をほぼそのまま書いたからです。

彼の人生は、十五年前から止まっていました。

小原はいなくなってしまった彼女のことを思いながら無為な日々を過ごしていましたが、そんな日々を覆す出来事が起こります。

G線上のアリア

当世随一の去勢歌手(カストラート)・ミケーレは、作曲家のことを羨んでいました。

それは、彼らが自分を残すことができるからです。

作曲家は楽譜を残して、それが演奏される限り、何百年先にだって生き返ることができます。

しかし、ミケーレの歌声はそうではない、

そんな悩みを恋人のウラニアもまた共有していました。

二人が滞在するフランクフルトの屋敷には電話機が存在していて、それが物語で大きな役目を果たします。

この物語は、実際の何百年も前に電話機が存在する中世という特徴を持っています。

アトラクタの奏でる音楽

現実世界が技術の発達によって拡張した世界。

朝比奈鳴佳はいつもギター片手に歌っていましたが、そんな彼女のログを見ている人は誰もいません。

そんなある日、一人だけ鳴佳のログをリアルタイムで見ている人がいて、それが陸奥待理との出会いでした。

待理は鳴佳の歌を気に入り、とある実験に協力してほしいと申し出て、ここから二人の交流が始まります。

人生、信号待ち

寺西は一生のうち、何日間を信号待ちに費やしているのだろうと疑問に思います。

そんな時、同じマンションに住む女性と偶然信号待ちをすることになります。

いつ青に変わるのだろう。

その時を待ちますが、青になっても極端に短く、いつまで経っても向こうに渡ることができません。

二人はこの異常な事態を前に、会話をするようになり、どうやったら向こうに渡れるのかを考えます。

ムーンシャイン

とある講義室。

中央に机がベッドのように集められ、そこに十代の女性が横たわり、それを中年女性が見守っていました。

それから二人に背を向け、ホワイトボードに群がる八人の教授たち。

主人公の僕は銃を手に、少女を守っていました。

そんな謎のシチュエーションからこの物語は始まります。

月を買った御婦人

メキシコ帝国にはアナ・イシドラという十五歳のご令嬢がいて、大変な美貌を誇っています。

そこに五人の求婚者が現れて我こそはとアナを奪い合おうとしますが、彼女は求婚者たちに対してあるものを差し出すよういいます。

それは空に浮かぶ月でした。

『竹取物語』をオマージュした作品で、SF要素を取り入れただけあって思わぬ展開をします。

感想

SFから見た恋愛

本書は恋愛、もっといえば広く愛と呼ばれる要素が入ったSFが収録されていますが、一般的にいう恋愛小説とは異なる趣をしています。

恋愛要素が背景にあることは間違いありませんが、それがメインかというとそうではありません。

そこはやはりSF小説で、常識では考えられない世界観が広がり、予想もできないことが次々に起こります。

SF小説好きをも唸らせること間違いなしです。

一方で、そこに恋愛という読者にも共感しやすい感情が入ることで物語と読者の親和性が増し、SF小説が身近に感じられるように作用しています。

あくまでSFとして読む

僕は恋愛小説が好きなので、ついその感覚で期待を持って本書を読みました。

その結果、やや当てが外れてしまいました。

それは本書が面白くない、というよりも、僕のスタンスというか認識が誤っていたように感じます。

本書は恋愛篇をうたっていますが、それはSF小説であることが大前提であって、純粋な恋愛小説ではありません。

そのため、恋愛小説であるという認識を一度捨て、フラットな状態でSF小説における恋愛要素を楽しむくらいがちょうど良いのかもしれません。

おわりに

僕はSF小説における恋愛をあまり読んだことがなかったので、かなり新鮮に読むことが出来ました。

二つの異なるジャンルの融合が何を生み出すのか。

ぜひその目でお確かめください。

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