『グラスバードは還らない』あらすじとネタバレ感想!希少生物に隠された秘密に迫るシリーズ第三弾
マリアと漣は、大規模な希少動植物密売ルートの捜査中、得意取引先に不動産王ヒュー・サンドフォードがいることを掴む。彼にはサンドフォードタワー最上階の邸宅で、秘蔵の硝子鳥や希少動物を飼っているという噂があった。捜査打ち切りの命令を無視してタワーを訪れた二人だったが、あろうことかタワー内の爆破テロに巻き込まれてしまう!同じ頃、ヒューの所有するガラス製造会社の社員とその関係者四人は、知らぬ間に拘束され、窓のない迷宮に閉じ込められたことに気づく。傍らには、どこからか紛れ込んだ硝子鳥もいた。「答えはお前たちが知っているはずだ」というヒューの伝言に怯える中、突然壁が透明になり、血溜まりに黄たわる社員の姿が…。鮎川哲也賞受賞作家が贈る、本格ミステリーシリーズ第3弾!
「BOOK」データベースより
『マリア&漣』シリーズ第三弾となる本書。
前の話はこちら。
これまで変わらず物語は大きく二つのパートに分かれ、読者をミスリードする役目を果たしています。
本書ではビルの爆破現場にマリアたちが居合わせたことでこれまでになかった緊迫感が漂い、前半はアクション、後半はミステリの趣が強くなっています。
光の透過性、屈折率など難しい話が多くついていけないという人もいると思いますが、その部分が分からなくても十分楽しめますので、難しいと思ったら適度に読み飛ばしてもらえればと思います。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
不動産王
ヒュー・サンドフォードは不動産王として莫大な資産と権力でものを言わせ、一年前から高層ビル『サンドフォードタワー』の最上階に居を移しました。
成功者であれば人に言えない秘密の一つや二つはあると思いますが、ヒューの場合はそんな生易しいものではありません。
彼には希少生物をコレクションする趣味があり、例え法律違反だろうがなんだろうか欲しいものは手に入れます。
その中には前作『ブルーローズは眠らない』に登場した、『深海』と名付けられた青バラも含まれていました。
ヒューは限られた関係者にだけこのコレクションを見せ、秘密を共有させることで自分への忠誠を誓わせ、思いのままに動かしていました。
ところが、ヒューでも操れないものがあり、それは娘のローナでした。
ローナはヒューに無断で恋人のチャックにこのコレクションを何度も見せ、チャックはそこで『グラスバード』と呼ばれる言葉では語れないほど美しい生物に魅了されてしまいます。
グラスバードの中でも『エルヤ』と呼ばれる個体は格別に美しく、いつしかチャックは恋人のローナよりもエルナに心惹かれていくのでした。
希少生物密売の裏
刑事のマリア・ソールズベリーと九条漣は、ヒューが希少動植物の違反取引に関与しているという情報を入手します。
すぐにでも捜査に乗り出したいところですが、警察上層部は早々に捜査の打ち切りを宣言。
何らかの力が働いていることは明らかでした。
マリアは自分の立場が危うくなることを覚悟の上で独自に捜査を開始し、漣もそれに付き合うことにします。
ヒューには怪しい噂が絶えませんでした。
三年前、ヒューが設立したガラス製造会社SG社の研究所で爆発事故が起きていて、数名の死者が出たものの、現場作業員による装置の操作ミスの可能性として片付けられています。
また、十年前にヒューの所有していたビルが爆破された事件もあり、これが事件を隠蔽するようになった原因と思われます。
マリアたちは正面からヒューに面会を求めますが、当然会えるはずもありません。
仕方なく二人はヒューの住むこのビルに希少動植物がいる可能性を探るべく分かれて聞き込みを開始しますが、思わぬ事態が発生しました。
ビルの爆破
ビルが突然爆破され、中にいた人たちはパニックに陥ります。
漣は中にいた人たちを誘導しますが、マリアの姿がないことに気が付きます。
その頃、マリアは高層階にいて、下におりるためのルートを全て爆破によって潰されていました。
諦めずに生き残る方法を探すマリアは、ダメ元で閉ざされた防火扉を力づくで破ろうと試みます。
ところがその瞬間、扉の電子ロックが火災によって偶然解かれ、その先に待っていたのは希少生物のコレクションと、複数の死体でした。
監禁
ビルの爆破と同時進行で語られるもう一つのパート。
SG社のプロジェクト関係者および関係者と親しい四人はヒューのビルに呼ばれ、懇親パーティーに参加します。
ところが全員がパーティーの途中で眠ってしまい、気が付くと見知らぬフロアに閉じ込められていました。
フロアには四人の他にヒューのメイド・パメラもいて、ここに四人を閉じ込めたのはヒューの意思であることを伝えます。
パメラもなぜヒューがこんなことをしたのかは分からず、彼からの伝言は『その答えはお前たちが知っているはずだ』でした。
出口には鍵がかけられていて、例えパメラでさえも開けられないといいます。
彼女の言っていることは本当だろうか。
四人は疑心暗鬼になりながらもここから出る方法を探しますが、事態が急変します。
この閉ざされた空間で、殺人が起きたのでした。
感想
飽きさせない展開
本書ではヒューの所有するビルが爆破されますが、その騒ぎが収まるまではまるでアクション映画を見ているような緊迫感を味わうことが出来ました。
孤立したマリアは、どうやって窮地を脱するのか。
普段、部下らしからぬ態度をとる漣ですが、マリアの無事を案じて冷静さを欠くことがあり、彼の意外な一面を見られたのは一つの収穫でした。
ミステリ好きからすれば、いつになったら推理が始まるのだとヤキモキするかもしれません。
しかし、心配はありません。
アクション映画ばりの大騒ぎの裏では着実に事件が進行し、一連の騒動が終わると、残された証拠から事件の全貌、犯人の正体を暴く推理パートに移行します。
たくさんのネタが仕込まれているだけあって、一つずつ真実を明らかにして進むのに時間がかかりますが、謎が全て解き明かされた時の高揚感をシリーズの中で一番でした。
シリーズ作を活かした面白さ
本書にはシリーズ第一弾の核となった小型飛行船『ジェリーフィッシュ』、そして第二弾で事件の中心にあった『青バラ』が登場しますが、ただ登場するだけではありません。
それぞれ物語を成立させる上で重要な役目を担っていて、シリーズものだからこそ出来た世界観の広がりを見せてくれました。
シリーズを通して、作品同士で影響し合うということは、本書で起きたこと、登場した人やものがやがて大きな影響力を持つかもしれません。
そう考えると、次作以降が待ち遠しくなり、二度目以降の読書でもそういった点に目を向けるという楽しみ方が増えました。
納得のいかない部分もある
基本的に非常に面白い作品でしたが、一連の事件の真相についてはちょっとしたモヤモヤが残りました。
犯人も動機も分かりますが、ここまで大風呂敷を広げてその程度なのか。
そんなことを思ってしまいました。
あと、せっかくタイトルに据えた『グラスバード』を、もっと活かす余地があったのではと、思わずにはいられません。
具体的にアイディアがあるわけではありませんが、素晴らしい題材なだけにもったいないと感じてしまうのは、僕のわがままなのかもしれません。
おわりに
シリーズとしてお決まりのパターンが見つかって落ち着くかと思いきや、新しい要素も取り入れてさらに攻めていこうという姿勢が見られて本当に嬉しかったです。
マリアと漣、その他の面子の掛け合いはもちろんのこと、二人のキャラクター性の掘り下げなど本シリーズの楽しみ方はまだまだありそうなので、今後がますます楽しみです。
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