三浦しをん『月魚』あらすじとネタバレ感想!透明感と幻想感が魅力的な物語
古書店『無窮堂』の若き当主、真志喜とその友人で同じ業界に身を置く瀬名垣。二人は幼い頃から、密かな罪の意識をずっと共有してきた―。瀬名垣の父親は「せどり屋」とよばれる古書界の嫌われ者だったが、その才能を見抜いた真志喜の祖父に目をかけられたことで、幼い二人は兄弟のように育ったのだ。しかし、ある夏の午後起きた事件によって、二人の関係は大きく変っていき…。透明な硝子の文体に包まれた濃密な感情。月光の中で一瞬魅せる、魚の跳躍のようなきらめきを映し出した物語。
「BOOK」データベースより
古書にまつわる話で、本好きにはたまらない本書。
主人公である真志喜と瀬名垣の関係にも注目で、愛情に近い友情のようなものが二人の間にあって、過去のしがらみ含めて濃密に描かれています。
タイトルにあるように、まるで月の光が差し込むような幻想的な雰囲気をまとっていて、とても神秘的な読書体験を楽しめます。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
兄弟のような二人
古書店『無窮堂』の三代目当主である本田真志喜と、幼い頃から友人である瀬名垣。
瀬名垣もまた父親の影響で若くして古書の業界に身を置き、二人は兄弟のように育ちました。
しかし幼い頃、瀬名垣の意図しない行動により真志喜に大きな傷を負わせてしまい、それが原因で二人の関係はどこか歪んでいました。
依頼
瀬名垣はある日、真志喜に自分の受けた依頼について相談を持ち掛けます。
とある山奥に住んでいた人物が亡くなり、その妻から故人の所有している本を買い取ってほしいと依頼されたのです。
真志喜は瀬名垣を手伝うために同行しますが、状況はやや複雑でした。
妻以外の親戚は古書店に本を売り払うことに反対していて、かつ真志喜や瀬名垣が若いことからその実力に懐疑的でした。
そこで町の古本屋にも依頼して買い付け金額で競うことになり、本来であればルール違反ですが、瀬名垣はその条件を呑みます。
再会
故人に思いを馳せ、値付けをしていく真志喜と瀬名垣。
そこに町の古本屋が登場しますが、その人物を見て真志喜は驚きます。
呼ばれた古本屋の店主とは、真志喜を置いて疾走した実の父親だったのです。
思わぬ再会を果たし、その父親と本来であればあり得ない対決をすることになった真志喜。
どちらが勝負に勝つのか。
この一件が、真志喜と瀬名垣の関係にどう影響するのか。
二人の関係の変化はもちろんのこと、古書を扱う上で大切なことなど、丁寧に描かれています。
感想
穏やかだけれど複雑な心理描写
本書はそれほど大きな事件が起こるわけではなく、比較的淡々と進行していきます。
しかし、淡々とした物語とは裏腹に、真志喜や瀬名垣の心中には複雑な思いが絶えず巡っています。
二人は間違いなく親友で、それはお互いに分かっているはずです。
ところが、過去の一件が二人を縛り付け、その関係性を歪めてしまいます。
相手を必要とし、大切にしたいと思うのに、最後の一歩が踏み出せない。
片方が意を決して踏み出そうとしても、現状に甘えたいもう一人がさえぎってしまう。
作中で色々な出来事がありますが、結局は二人の関係性がどう変わるのかが本書のテーマかなと思います。
静かだけれど、濃密に描かれた複雑な心模様。
とても読み応えがあります。
透明感と幻想的な雰囲気がマッチ
真志喜も瀬名垣も、タイプこそ違えど気持ちの良い青年で、彼らが物語の中心にいることでぐんと透明度が増します。
一方、タイトルの『月魚』が表す通り、本書には月が印象的な場面がいくつも登場します。
淡い月明かりの下で広がる物語はどこか儚く幻想的で、夢を見ているような心地になります。
この感覚が非常に気持ち良くて、いつまでもゆったりと浸っていたい、そんな気分にさせてくれます。
はじめ、これはBL小説かな?と勘ぐってしまいましたが、そう括ってしまうことが失礼であるとすぐに気づかされました。
三浦しをんさんが生み出すこの空気感は本当に愛しく、ぜひたくさんの人に読んでほしいと思います。
おわりに
何か大きなことが起こるわけでもないのに、物語を漂う中で実にたくさんの感情を本書はくれました。
ぜひ本書という海を、魚のように気持ち良く泳ぐ感覚で読んでみてください。
ここまで自然に物語に溶け込める作品は少なく、貴重です。
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