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太田愛『幻夏』あらすじとネタバレ感想!二十三年前のあの夏から始まった事件

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毎日が黄金に輝いていた12歳の夏、少年は川辺の流木に奇妙な印を残して忽然と姿を消した。23年後、刑事となった相馬は、少女失踪事件の現場で同じ印を発見する。相馬の胸に消えた親友の言葉が蘇る。「俺の父親、ヒトゴロシなんだ」あの夏、本当は何が起こっていたのか。今、何が起ころうとしているのか。人が犯した罪は、正しく裁かれ、正しく償われるのか?司法の信を問う傑作ミステリ。日本推理作家協会賞候補作。

「BOOK」データベースより

本書は日本推理作家協会賞候補作に選ばれた作品で、著者の太田愛さんはテレビドラマ『相棒』の脚本家としても知られています。

そのため非常に多くの人に読まれていますが、一定数の方は読み始めてから気が付きます。

本書、実はシリーズものの第二弾で、第一弾は『犯罪者』になります。

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事件としては全くの別ものなので本書からでも十分楽しめますが、どうしても主役の相馬、鑓水、修司のやり取りは前作を踏まえた部分がありますので、未読の方は『犯罪者』から読むことをおすすめします。

もし戻れないところまで読んでしまっても内容は分かるように書かれているので、気にせず読み進めても構いません。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

依頼

前作『犯罪者』から数年後の話。

小さな興信所を営む鑓水は、水沢香苗から二十三年前に失踪した息子・尚の捜索依頼を受けます。

まず達成できるはずのない依頼に鑓水は断ろうとしますが、大金を受け取ってしまったために一応着手します。

鑓水の興信所には、前の会社が倒産して職を失った繁藤修司が雇われていました。

失踪当時のことを調べると不審な点が多く見つかり、鑓水と修司は失踪前から尚が何らかの事件に巻き込まれていたと考え、調査を進めます。

謎の印

相馬は『犯罪者』での事件をきっかけに交通課に左遷され、今は常盤理沙という少女の失踪事件を捜査していました。

理沙は大企業の財務部長の長女で、警察の捜査はかなり気合が入ったものです。

相馬は、現場で樹の表面につけられた謎の印を見つけて驚きます。

それは相馬が二十三年前の夏に目撃したものと同一のものでした。

相馬は今回の失踪事件が二十三年前の事件、つまり尚の失踪と関係していると考えますが、警察は疫病神である相馬の言うことなど聞きもせず、早期解決のために犯人をでっち上げようとしていました。

あの夏

二十三年前、相馬が十二歳の時に尚、その弟の拓と知り合います。

三人はすぐに仲良くなり、夏休みをずっと一緒に過ごします。

ある日、相馬は尚たちの父親・柴谷哲雄が殺人の罪で捕まっていることを知ります。

しかし事件から九年後、この夏にそれが冤罪だったことが判明。

哲雄は出所して香苗や尚、拓に会いに行きましたが、謎の転落死を遂げ、その四日後に例の印を残して尚が失踪しました。

相馬が何も知らなかった裏で、何かが起きていたことは明白です。

相馬と鑓水はそれぞれの事件が繋がっていることに気が付いて連絡を取り、違う方面から真実を追いかけるのでした。

正しさとは

その後、二つの事件の間に、同じ印が残されていていた事件が三つ起きていたことが判明。

はじめは五つの事件の共通点が分かりませんでしたが、やがて事件の真相が見えてきます。

そして、犯人の正体、目的が分かりました。

事実を都合の良い風に解釈する日本の司法。

その在り方が問われる結末でした。

感想

フィクションでは済まない司法の在り方

前作『犯罪者』では企業の隠蔽体質とその真実をどう暴くかが描かれていました。

次作である本書の一番のポイントはやはり『冤罪』だと思います。

先日、とある番組で、警察が犯人の証言だけで無実の人を逮捕し、自白を強要させようとしたという衝撃的な内容を伝えていました。

その後に本書を読んで、やはりこういったことは珍しいことではないのだなと痛感させられました。

人員不足など様々な要因があるにせよ、真実を見つけることをないがしろにして、都合の良い方向に真実を捻じ曲げる。

ひと一人の人生などどうでもいいと言わんばかりの傲慢な態度で、読み進める中で何度も悔しい思いをしました。

僕にできることなどほぼ無いに等しいですが、もし自分が何かを証言する立場になった場合、その時のことはしっかりメモして、記憶の風化だけは防ごうと心に誓いました。

鮮明なあの日

本書では相馬の過去が掘り下げられ、尚や拓と過ごした夏休みの一日一日がどれだけ輝いていたのかが鮮明に描かれています。

子どもの頃に食べたインスタントラーメンの衝撃的なおいしさや、大したことではないのにまるで小さな冒険のように感じられた出来事の数々。

残酷な現実と対比するように懐かしい二十三年前の思い出が描かれ、だから真実が見えてくるに従って胸が苦しくなりました。

あの夏は幻だったのだろうか。

タイトルの『幻夏』にふさわしい内容で、でも決して幻ではなかったと思える結末が待っていました。

厳しい現実を突きつけるだけでなく、ノスタルジックな気分にも浸れる作品です。

今後にさらに期待

これまで修司、相馬の過去に焦点を当ててきましたので、次は鑓水でしょうか。

彼がなぜテレビ局をやめたのか。

相馬とはどのように知り合ったのか。

この辺りから物語を広げると、鑓水のファンである読者は嬉しいかもしれませんね。

おわりに

どちらかというと長編の中でも長めの作品ですが、文字通り、あっという間に読めてしまうだけの魅力が本書にはあります。

文章力、構成、作品を通じて訴えたい思い。

小説にしか出せない、小説だからこそ出せる魅力を久しぶりに教えてくれる作品でした。

次の話はこちら。

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