『船玉さま 怪談を書く怪談』あらすじとネタバレ感想!恐怖体験が詰まった短編集
海が怖い。海は死に近いからーー。山では、「この先に行ったら、私は死ぬ」というような直感で足がすくんだこともある。海は、実際恐ろしい目にあったことがないのだけれど、怖い。ある日、友人が海に纏わる怖い話を始めた。話を聞いているうちに、生臭い匂いが立ちこめ……。(「船玉さま」より)
Amazon商品ページより
海沿いの温泉ホテル、聖者が魔に取り込まれる様、漁師の習わしの理由、そして生霊……視える&祓える著者でも逃げ切れなかった恐怖が満載。
「”これ本当に実体験! ?”と驚くことばかり。ぞくぞくします。」 高松亮二さんも絶賛の声! (書泉グランデ)
文庫化にあたり、メディアファクトリーから刊行された『怪談を書く怪談』を『船玉さま 怪談を書く怪談』に改題し、書下ろし「魄」を収録。
二〇一三年に発刊された作品が加筆修正の上、文庫化された本書。
加門さんらしい表現、捉え方で描かれる目に見えない不思議・恐怖。
とはいえ、そこまで怖くはなく、ちょっとした隙間時間に楽しめる短編集なので、なんとなくホラーが読みたいくらいの軽い気持ちでもオッケーです。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
船玉さま
死に近い、という理由で海が嫌いな加門さん。
ある年の晩秋。
友人の真希子と二人でよく通ったレストランで食事をしますが、味が落ちていることに気が付きます。
するとそのことについて真希子が謝罪します。
料理がなんでも生臭いのは、自分が体験していることに関係しているのだと。
真希子はとある霊能者と出会ったこと、そのあとに起きたことについて語ります。
とある三味線弾きのこと
加門さんは知人の紹介で沢村という三味線弾きと知り合います。
男性だが美人と称するのが相応しい美しい容姿に、本能的にすごいと感じる三味線の音色。
加門さんは一発で虜になり、その後も彼との交流は続きます。
これは沢村と、彼の所有する志乃々めという三味線に関する物語です。
郷愁
変わってしまった土地には、それ以前の思いが残っているといいます。
これはそれを描いた三ページの短編です。
誘蛾灯
加門さんはとある怪談専門誌のイベントを終え、他の作家や編集者と共にバスでホテルに向かっていました。
道中、嫌な予感がしていましたが、集団行動ということもあって明るく振舞います。
ところがホテルではおかしなことが起こり、自分の感覚が間違っていなかったことを痛感するという話。
カチンの虫
怖いものの上位に位置する『生きている人間』。
生霊の場合、供給元である人間がいなくなることはまずないため、対処が難しいといいます。
これは、そんな生霊に関する物語です。
いきよう
取材で遠野を訪れた時の話。
加門さんは幽霊となったなにものかのつぶやきを耳にします。
島の髑髏
沖縄では人骨自体は珍しくないといいますが、これは人骨にまつわる話です。
浅草純喫茶
加門さんは純喫茶が好きだという。
不特定多数の人間が、ある程度の時間を過ごす場所には人の思いが残り、醸成されるのだといいます。
純喫茶もそんな場所の一つで、浅草にある純喫茶が描かれます。
茶飲み話
加門さんは引っ越す前の家のご近所さんだった野口と今も交流がありました。
そんな彼女から茶飲み話として、かつてあった椎の木が伐られてしまったことを聞きます。
知っている風景がなくなってしまう独特の喪失感を味わっていましたが、この話はそれで終わりませんでした。
聖者たち(一)
とある冬、加門さんはショッピングセンターで浮浪者と見かけます。
何の気なく顔を見ると、そこには微笑みがありました。
加門さんは、その浮浪者を聖者だと思う、という話。
聖者たち(二)
加門さんは昔から色々なものをもらう特性があるのだといいます。
そんな頂き物の中でも、特に忘れられないものというのがこの話です。
怪談を書く怪談
何かを気にしていると、それに関する情報が勝手に入ってくるというのはよくあることです。
怪談も同様で、怪談を書くことによって怪談を呼び寄せるのだといい、この話ではそれが描かれます。
魄
書き下ろし。
怪談になるかどうか微妙と断った上で、怖い夢を描いた話です。
感想
事実は小説より奇なり
本書は加門さんの体験談が元となった短編がぎっしり収録されています。
どこまでが本当のことか分かりませんが、こんな不思議なことが世の中にあるのかと、そう思いたくなるような不思議、恐怖がふんだんに描かれています。
作中で加門さんも言及していますが、創作よりも現実で起こったこと、体験したことのほうがよっぽど不思議だし、怖いのだそうです。
本書に描かれた出来事だけでも相当で、これでも懲りずにホラーを書いているのですから、加門さんはすごいというかなんというか、もはや尊敬しかありません。
表題作である『船玉さま』のような分かりやすいホラーもあれば、もしかして怖いことだった?と後になって分かるものまで、ホラーといっても非常にバラエティー豊かです。
短いものは十五分もあれば読めてしまうので、気軽に読める点もグッドです。
当たり外れがある
僕は本書を本屋で見つけ、絶対面白いという根拠のない感覚を得ていました。
そのため、並々ならぬ期待を持って読んだわけですが、ちょっと当てが外れたというのが正直なところです。
確かに体験談として、こんなに不思議で怖いことはないし、飽きさせないバラエティー豊かさも申し分ありません。
ただし、単純にホラー小説で恐怖を味わい楽しみたいという観点からいうと、本書は短編によって当たり外れがあります。
序盤の作品は引きが強く、満足度の高い作品が多かったのですが、中盤以降は読んでも特に感想がわかないようなあっさりした話もあり、それでいちいち冷めてしまうところが残念でした。
それでも特に期待していた表題作はかなり好みだったので、その点においては文句なしです。
おわりに
加門さんならではの恐怖体験がぎっしり詰まった一冊でした。
彼女の作品が好きな人であれば、気に入ること間違いなしなので、安心してお読みください。
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