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森絵都『カラフル』あらすじとネタバレ感想!世界は色彩であふれていた

harutoautumn
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生前の罪により、輪廻のサイクルから外されたぼくの魂。だが天使業界の抽選にあたり、再挑戦のチャンスを得た。自殺を図った少年、真の体にホームステイし、自分の罪を思い出さなければならないのだ。真として過ごすうち、ぼくは人の欠点や美点が見えてくるようになるのだが…。不朽の名作ついに登場。

「BOOK」データベースより

実写映画、アニメ映画などを見てご存じの方も多いと思う本書。

実は出版されたのは二十年以上前の1998年で、もはや不朽の名作と読んでも差し付けないほどの地位を確立しています。

僕は今更になって読みましたが、これはぜひたくさんの人に読んでほしい名作だと思いました。

何かと肩身が狭くなり、誰もが心の余裕を失っている現代ですが、嫌な部分だけではなく良い部分も本当はあふれていて、世界は『カラフル』なんだと。

本書は教えてくれます。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

再挑戦

主人公のぼくは死んだはずでしたが、その魂の前にプラプラという天使が現れ、抽選に当たったことを告げます。

ぼくは大きな過ちを犯して死にましたが、抽選に当たったことで再挑戦のチャンスを与えられました。

チャンスとは、下界にいる誰かの体を借りて生活し、問題を起こさず順調にいけば生前の罪を思い出し、輪廻のサイクルに復帰できるというものでした。

突然の宣告に申し出を断ろうとするぼくですが、すでに決定事項で拒否権はありません。

プラプラが現世におけるガイドとなり、ぼくは現世に再び舞い戻ることに。

三日前に服薬自殺を試みて危篤状態になり、今もなお入院している『小林真』の体を借り、下界での再スタートを果たすのでした。

取り巻く環境

死ぬと思われていた真(魂はぼく)がよみがえり、家族は大喜びします。

ぼくは予想外に温かい家族に拍子抜けしつつも、そう簡単ではない状況を少しずつ把握します。

真は大人しい性格のせいで中学校では馴染めておらず、絵を描くことだけが生きがいでした。

ぼくは他人の体を借りているという気楽さから思うように過ごし、魂が入れ替わっていることを知らない同級生たちを事あるごとに驚かせます。

こうして少しずつ真を見る周囲の目が変わっていきます。

自殺の原因

ぼくはプラプラから真が自殺を図った理由を聞かされます。

真は同じ中学の後輩・桑原ひろかに初恋をしていました。

ところが自殺をした日、真はひろかが中年男性とラブホテルに入っていくところを目撃。

これが自殺の大きな原因の一つです。

しかし、原因はそれだけではありませんでした。

今度はラブホテルから母親とフラメンコ教室の先生が出てくるところを目撃してしまったのです。

この時点で真の精神は限界でしたが、帰宅後も悲劇は止まりません。

テレビのニュースで父親の勤める会社の重役が逮捕されたことが伝えられますが、父親は出世のチャンスと喜び、利己的な一面を見せて真を幻滅させます。

真には兄の満がいますが、彼は無神経で意地悪で、真のことをいつも馬鹿にしていました。

一見、温かそうに見えた小林家ですが、それは幻想に過ぎませんでした。

ぼくは小林家やその周囲から人間の本性というものを知り、幻滅するのでした。

ぼくに気が付く少女

周囲が真の変化に驚く中で、一人だけぼくの気配を感じ取っている少女がいました。

名前は佐野唱子。

真のクラスメイトで同じ美術部にも関わらず、彼女だけはプラプラのガイドブックにも記載がなく、正体が謎でした。

ぼくは真と同様、ひろかに夢中になって唱子のことなど気にも留めていませんでしたが、やがて唱子が重要な人物であることに気が付きます。

ぼくの罪

順調に下界での生活を重ねるぼくですが、このチャレンジに合格するためには生前の罪を思い出さなければなりません。

プラプラは至るところにそのヒントがあるといい、ぼくは毎日の生活の中で周囲を見渡します。

すると、人間には悪いところだけでなく良いところもあることに気が付き、世界は光彩をはなち始めます。

そして、ついに生前の罪を思い出すのでした。

感想

どこにでもいそうな人たち

小林真という冴えない少年を軸に、登場人物もわりと平凡でどこにでもいそうな人が多く、それこそが本書の魅力であり、本当に伝えたい部分なのではないかと考えています。

読者に近い目線で世界に溢れかえった汚れを見せ、でも実は素晴らしいこともあることを何気なく気が付かせてくれる。

『何者にもなれない』。

こう言って嘆く人、内心落ち込んでいる人は多いと思いますが、そんな人には特に本書を読んでほしいです。

人間、どうしてもポジティブな部分は当たり前と思いがちでネガティブな部分にばかりフォーカスしてしまいますが、本書は一度自分を客観的に見るチャンスをくれます。

そうすると、いつもは当然だと思っていたことへの感謝、今まで見ようとしていなかった良い部分が見えてきます。

世の中、選択肢がたくさんあるから迷います。

すぐに他人の良い部分をうらやましく、妬ましく思ってしまいます。

でも、それは他の人も同様で、あなたのことをそんな風に見ているのかもしれません。

だから難しいことだけれど、僕らは誰かと比べたりせず、自分にとっての幸せを見つければ良いのです。

世界が色彩を放ってカラフルであることに気が付ければ、僕らはすでに『何者である』ことを理解できるのかもしれません。

軽い文体と根深い問題のギャップ

本書は軽い文体でユーモアも交えながら物語を展開させるのでつい忘れがちですが、真の置かれた状況はかなりシビアです。

ぼくにとっては他人の人生とはいえ、そう簡単に背負えるほど軽いものではありません。

このギャップが本書の持ち味の一つで、この文体だからこそシビアな状況を必要以上に悲観的に捉えず、フラットな状態で読むことが出来ます。

いくつもの試練を乗り越えた先にある色鮮やかな世界。

それを読者に見せるためにも、この文章が必要だったのだと思います。

おわりに

非常に読みやすい文章からは想像ができないほど奥深い世界が広がっていて、老若男女問わず読まれている理由がよく分かりました。

読書の習慣がない人にも非常に読みやすい文章、内容なので、自分の生き方に迷った時に読むと何か答えが見つかるかもしれません。

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