柚月裕子『あしたの君へ』あらすじとネタバレ感想!家庭調査官見習いが悩み苦しむ人に救いの手を差し伸べる物語
家庭裁判所調査官の仕事は、少年事件や離婚問題の背景を調査し、解決に導くこと。見習いの家裁調査官補は、先輩から、親しみを込めて「カンポちゃん」と呼ばれる。「カンポちゃん」の望月大地は、少年少女との面接、事件の調査、離婚調停の立ち会いと、実際に案件を担当するが、思い通りにいかずに自信を失うことばかり。それでも日々、葛藤を繰り返しながら、一人前の家裁調査官を目指す
「BOOK」データベースより
柚月裕子さんの作品には様々な職業の主人公が登場しますが、本書の主人公は家庭裁判所調査官(家裁調査官)を目指す見習いです。
刑事事件のような凶悪性はないものの、抱える問題は多種多様で、問題の本質を見抜く力が求められます。
見習いとして未熟ながらもひたむきに頑張る家裁調査官補(カンポちゃん)の姿は初々しくてまっすぐで、これまでの柚月さんの作品を読んできた人にとっても新たな発見があること間違いなしです。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
第一話『背負う者(十七歳 友里)』
望月大地は家庭裁判所調査官補として福森家庭裁判所に配属され、家裁調査官になるための実務を学んでいました。
家庭裁判所の中でも家事事件担当と少年事件担当で別れ、大地はまず少年事件担当になります。
はじめて担当となったのは、十七歳の友里という少女でした。
友里はラインで知り合った男性をラブホテルに誘い、相手がシャワーを浴びている内に財布を持って逃走。
その後、逮捕されています。
友里は犯行を認め、遊ぶためのお金が欲しかったと供述していますが、彼女の話を聞く限り、友だちもいないしお金のかかる趣味があるわけでもありません。
真面目にバイトをしていたにも関わらず、なぜここで犯罪に手を染めたのか。
大地は口を開いてくれない友里以外に家族にも話を聞きますが、そこから少しずつ友里の置かれた状況が見えてきました。
第二話『抱かれる者(十六歳 潤)』
次に大地の担当になったのが、潤という十六歳の少年です。
潤はネット上で知り合った真奈と交際していましたが、別れを切り出されて次第にストーカーと化し、カッターをちらつかせたことで逮捕されました。
大地の話した印象としては優等生で、問題を起こしそうなタイプには見えませんでした。
しかし、家庭環境や両親の話を聞くにつれて、潤がなぜ犯行に至ったのかが見えてきました。
第三話『縋る者(二十三歳 理沙)』
大地は年末年始を利用して帰省し、中学時代の同窓会の場で理沙と再会します。
理沙は大地にとって初恋の人で、今は結婚をして子どももいました。
幸せそうな理沙を見て穏やかな気持ちになる大地ですが、帰り道、離婚することを告げられます。
理沙は自分の置かれた状況を教えてくれ、その言葉は家裁調査官として自信を失っていた大地にとって救いとなります。
第四話『責める者(三十五歳 可南子)』
大地は家事事件担当になり、はじめての担当は離婚調停でした。
妻の可南子は子どももいないためなんの要求もなく離婚だけを望んでいましたが、夫の駿一には納得ができず話がもつれていました。
大地から見た駿一は反省をしているし、そこまで問題があるように思えませんでした。
一方、可南子は調停委員から辛抱が足りないと一方的に注意され、本音を言えていない様子でした。
このままではどちらが正しいのか判断がつかないため親戚や可南子の通う精神科医をたずね、第三者の意見を聞きます。
すると、これまで見えてこなかった夫婦関係が明らかになりました。
第五話『迷う者(十歳 悠真)』
大地は再び離婚調停の案件を引き受けますが、今回の争点は子どもの親権をどちらに渡すかが焦点になっていました。
夫の意見も妻の意見もある程度の合理性があり、子どもである悠真はどちらでも良いという態度で判断がつけられません。
大地は悠真から慎重に話を聞き出す中で、悠真が口にしたのは『親ってなに』でした。
親とは何か。
悠真はどんな答えを期待しているのか。
大地は不器用ながらもその質問に真摯に向き合い、やがて悠真の本心に辿り着きました。
感想
既存の柚月作品とは一味違う
これまでの柚月裕子さんの作品といえば、芯の通った女性が主人公が多く、男性が主人公の場合も『孤狼の血』シリーズの日岡、『佐方貞人』シリーズの佐方など、どちらかというと自分に自信のある人が主人公を務めるイメージでした。
それに対して本書の主人公・大地は壁にぶつかっては自信を失い、家裁調査官に向いていないと悩み、一度はやめようかと思うほど弱気です。
単純で物事の表面的な部分に目がいきがちなど、あまり有能というイメージではありません。
しかし素直な性格で、人のアドバイスを受けて成長する姿、悩み苦しむ人のことを誰よりも真剣に考えてあげられる優しさがとにかく眩しく、大地がいることで救われた読者もいるのではないでしょうか。
はじめて柚月さんの作品に触れるという人にはもちろんのこと、既存のファンにも新たな魅力を見せられた作品ではないかと思います。
正しさを問う
本書では形こそ違えど、柚月さんの作品で度々問われる『正義、正しさ』がテーマになっています。
当事者だけでなく、その家族や周囲の人間それぞれに正しさがあり、一つにまとめられることの方が少ないです。
そもそもまとめられないからこそ家裁調査官の出番があるわけで、しかも相手が語ることが本音とは限りません。
どうしたら本当のことを話してくれるのか。
どうしたら当事者やその周囲の人間にとって正しいことになるのか。
人を正しく見極める力が試され、大地の粘り強く相手と向き合う姿が家裁調査官に向いているということは一目瞭然でした。
様々な生きづらさがある
本書には様々な問題が描かれています。
お金欲しさの犯罪、認められないことから起きた歪み、周囲に理解されない悩みなど。
加害者に問題があるのはもちろんですが、問題を起こすに至った原因があるし、当事者が語る言葉が真実とは限りません。
特に未成年で与えられた環境で生きるしかない子たちにとってそれは言葉では言い表せないほどの生きづらさだし、離婚一つにしても悩みを他人が理解してくれないことによる苦しみもあります。
そんな彼らにとって最後の救いが家庭裁判所であり、そこでも理解してもらえなければきっと誰のことも信じられなくなってしまうはずです。
僕も大地同様、先入観を持たずにあらゆる可能性を考え、相手のことを正しく理解し、できるのであれば手を差し伸べてあげたいと強く思いました。
おわりに
苦しんでいる人にとって、本書は一つの救いになりえる力を持っていると思います。
また特に悩みを持っていないという人でも、ぜひ自分の価値観で何でも決めつけず、相手のことを正しく見るきっかけに本書がなれば嬉しいです。
相手を認めずに貶すことが当たり前になってきた世の中なので、それが出来るだけでずっと生きやすい世の中になるはずです。
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