『アポロンの嘲笑』あらすじとネタバレ感想!震災、殺人に隠された巨悪とは?
“管内に殺人事件発生”の報が飛び込んできたのは、東日本大震災から五日目のことだった。被害者は原発作業員の金城純一。被疑者の加瀬邦彦は口論の末、純一を刺したのだという。福島県石川警察署刑事課の仁科係長は邦彦の移送を担うが、余震が起きた混乱に乗じて逃げられてしまう。彼には、命を懸けても守り抜きたいものがあった―。
「BOOK」データベースより
東日本大震災直後の福島県を舞台に、一つの殺人事件とその裏に隠された巨悪が描かれています。
いつもの中山七里さんの作品と違って展開的に驚きは少ないですが、今まで信じてきた原発の安全性がどれだけ嘘をはらんでいたかなど衝撃的な内容が多く、フィクションでは片付けられないインパクトを持っています。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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タイトルの意味
内容に入る前に、タイトルの意味について。
アポロンとはギリシャ神話に出てくる太陽の神で、同時に弓矢の神でもありました。
その矢はアポロンのことを軽視し侮辱する相手に死をもたらすといわれていて、本書において矢を向けられているのは他でもない原子力を手に入れて太陽神を侮辱した人間です。
不相応な力を手に入れて高慢になり、震災が引き金になって未曾有の危機を迎える。
侮辱されたアポロンはいい気味だとその様子を見て嘲笑している、というイメージがタイトルに込められています。
しかし、大切な人を守るために行動する人たちがいて、その結果が何を生み出すのか。
嘲笑を受けた上でなお足掻く姿は無様だとしても勇敢で、タイトル通りの後ろ向きな内容で終わらないところに本書の良さがあります。
あらすじ
震災によって引き起こされた大惨事
2011年3月11日。
東日本大震災が発生し、当たり前だと思っていた日常があっという間に崩壊しました。
石川警察署の仁科は自身も被災し、息子の行方が分からない状況にあっても悲しむ時間すら与えられず、ひたすら警察官としての職務を全うします。
そんな中、殺人事件の知らせが入ります。
被疑者はすでに確保されていますが、いくら人手不足でも警察官一人で移送させることはリスクが高すぎます。
そこで仁科も殺人現場に向かうことになりました。
逃亡
仁科は同じく警察官の城田と共に殺人事件の被疑者である加瀬邦彦の身柄を引き取ります。
加瀬が殺害したのは、同じ職場である福島第一原発で働いていた金城純一で、原因は加瀬と純一の妹・裕未の結婚話でした。
純一は加瀬のことを気に入っていたはずですが、この結婚に反対。
逆上してケンカになり、純一が手にした包丁が最終的に純一自身の命を奪ったのでした。
加瀬は仁科たちによって移送されますが、途中で起きた地震で車を止めた隙をつかれて逃げられてしまいます。
仁科は加瀬の後を追いますが、ついに見失ってしまうのでした。
巨悪の影
加瀬に逃げられた仁科は一度署に戻り、事件や加瀬のことについて整理します。
被害者である純一は温厚だがお酒が入ると性格が変わり、そのせいで以前に堤という男を殺害していたことが判明します。
それから加瀬のことを追っているのは仁科だけではありませんでした。
追っているのは警察庁の公安で、彼らが相手にするのは極左極右の活動家やテロリストのはずです。
公安は無断で金城家に盗聴器を仕掛けるなど手段を選ばず、何が彼らをそこまでさせるのかは仁科には分かりません。
仁科は加瀬の引き起こした事件、彼の行き先を理解するために、まずは加瀬のことを調べ始めますが、それは壮絶な過去でした。
調べれば調べるほど殺人犯とは思えない加瀬の姿。
やがて仁科は加瀬の目的を知り、事件の裏に隠された巨悪の影を見つけるのでした。
感想
タイトルに込められた思い
はじめ、タイトルがあまり好きではありませんでした。
中山さんの作品ではギリシャ神話の神を用いたものが多いので、とってつけたものだろうと決めつけていました。
しかし、本書を最後まで読むことでその思い込みは払拭されました。
原発が安全かどうかすら考えたことがなかった人も多い中で、東日本大震災によってその安全性が嘘まみれであることが証明されました。
不測の事態が起きた時、原発は人間ではコントロールできない巨大すぎる力となり、牙を向きます。
自分たちの力を過信し、やがてその報いを受ける時がやってきて、誰がその責任をとるのか。
本書には人間の愚かさと、命を懸けてでも大切な人を守ろうとする人たちの懸命な姿が描かれていて、まさにこのタイトルがぴったりだと思えるようになりました。
ミステリではなくサスペンス
本書の概要に明記されていますが、本書はサスペンスです。
中山さんの作品というと、最後に二転三転するどんでん返しを思い浮かべる人も多いと思いますが、本書は予想通りの展開が続きますので、意表を突かれるような驚きはあまりありません。
謎解き要素も控えめなので、ミステリを読みたいという人には物足りないかもしれません。
ミステリ要素が控えめな分、地獄のような現実を前にした時の絶望感、それでも乗り越えていこうとする心の強さと緊迫感が楽しめるので、ぜひ中山作品であることを一度忘れて読んでほしいです。
事件の背景が弱め
一点物足りない部分を挙げるとすれば、それは加瀬の起こした事件についてです。
本書では事件そのものはあくまでおまけ程度なので、そこまで力を入れる必要はないのかもしれません。
しかし、事件の起きた理由が弱く、話の流れのために引き起こされた、という印象がどうしても拭えませんでした。
とってつけたような展開ではなく、起こるべくして起こった事件。
そう思えるような背景があれば、違和感を覚えることなく物語に没頭できた気がします。
おわりに
この記事を書いている2021年3月18日現在、東日本大震災から十年が経過しました。
すでに震災の記憶が薄れてしまった人、経験したことのない人が増えてきた中で、どう語り継いで後世のために役立てるべきなのか。
そういうタイミングで本書を偶然手に取れたことに何か縁を感じていて、物語を読んで感じた絶望感、そして手遅れになる前に責任をとる。
この気持ちを絶対に忘れないようにしたいと思います。
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