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『赤朽葉家の伝説』あらすじとネタバレ感想!旧家に生きる三代の女性を描く物語

“辺境の人”に置き忘れられた幼子。この子は村の若夫婦に引き取られ、長じて製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれ輿入れし、赤朽葉家の“千里眼奥様”と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。―千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもないわたし。高度経済成長、バブル景気を経て平成の世に至る現代史を背景に、鳥取の旧家に生きる三代の女たち、そして彼女たちを取り巻く不思議な一族の姿を、比類ない筆致で鮮やかに描き上げた渾身の雄編。

「BOOK」データベースより

第60回日本推理作家協会賞受賞作である本書。

旧家に生きる三代の女性を描く物語のスケールは壮大で、桜庭一樹さんの作品として一番に名前の挙がる作品ではありませんが、間違いなく彼女の代表作と呼んで間違えのない名作です。

ジャンルに分類できない、様々な要素、感情を内包しているので、ぜひじっくり読んでほしい一冊です。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

あらすじ

本書の舞台は、山陰地方の旧家である赤朽葉家。

物語の語り手は赤朽葉瞳子(あかくちばとうこ)で、彼女が祖母の万葉、母の毛毬、そして自分のことを語るという形式で物語が描かれます。

万葉

赤朽葉万葉は三歳になるかならないかの時、紅緑村(べにみどりむら)に捨てられているところを発見され、多田夫妻に引き取られます。

万葉の生みの親ははるか昔から山に住む人々の誰かで、それを証明するように特徴的な容姿に加え、特殊な能力を有していました。

それは未来視です。

その時は何のことを指すのか分からないことが多いですが、この能力もあって万葉は赤朽葉タツに見初められ、赤朽葉家に嫁ぐことになります。

結婚後も万葉は時おり未来を視ることがあり、そのことから『千里眼奥様』と呼ばれるようになります。

未来視は赤朽葉家を何度も救うだけでなく、のちに起きる問題を解決するヒントとなります。

毛毬

中盤は、万葉の娘である毛毬が中心となって描かれます。

毛毬は美しさと強さを兼ね備え、学生時代はその土地で彼女の名前を知らないものはいないほどの不良として名前を馳せます。

これだけでも十分なインパクトがありますが、その他にも醜い男ばかり好きになること、妾の子どもで妹にあたる百夜との壮絶な関係など、物語の中でも一番強烈なパートになっています。

そんな彼女ですが、ひょんなことから漫画を描くことになり、やがて大物漫画家へと転身を果たします。

瞳子

最後は毛毬の娘である瞳子が、自身のことを語ります。

万葉は亡くなる前、瞳子にだけ自分が人を一人殺害したことを明かしています。

憎くて殺害したわけではないとも言っているため、何らかの事故あるいは勘違いがそこにあったのではと推測できます。

このことを知っているのは瞳子だけ。

瞳子は恋人のユタカに相談し、万葉の周囲で亡くなった人の中から祖母が殺した人物を探すための調査を始めます。

やがてその人物が明らかになりますが、そこには思わぬ真実が隠されていました。

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感想

人生を描く名作

はじめはどんな物語なんだろうと好奇心と不安が入り交じり、やがて赤朽葉家の人たちの歴史に魅了されている自分がいました。

これはまぎれもなく桜庭さんの代表作です。

最近読んだ作品だと、森絵都さんの『みかづき』を読んだ時の感覚に似ています。

時代が移ろい、人の気持ちも繋がりも変わっていく。

喜びもあれば悲しみもあり、決して楽しいことばかりでない。

それでも懸命に生きる人を見て、ああ人生を描いているのだなと、どんな環境でも生きていく人間の強さに胸を打たれました。

しっかり張られた伏線

序盤から中盤にかけて、登場人物に関わる様々な設定が登場します。

万葉が未来予知した様々なシーン、何気ない日々のやりとり。

最初は単なる物語の味付け程度に考えていましたが、それが勘違いであることは後半になると分かります。

物語に散りばめられたこれらが謎を解くヒントになっているのであれば、それをもとにどんな推理ができるのか。

瞳子のパートはミステリ要素が強く、僕としてはかなり楽しめました。

後半がやや物足りない

全体的に非常に満足していますが、不満な点を挙げると、瞳子パートがそれまでの話に比べてやや物足りないことです。

万葉や毛毬が他人にはないものを持ちすぎているため、どうしても瞳子の平凡さが目立ち、物語が尻すぼみになっていると感じる人もいるかもしれません。

ただこれは瞳子の魅力が足りないというよりも、時代背景の要素がほとんどな気がします。

時代を経るにつれて不況の色が濃くなり、次第に子どもたちは夢を見ることがなくなり、どうしても冷めた部分が強くなってしまいます。

もちろん内面を深く掘り下げていけば熱い部分もあるし、冷静な瞳子だからこそこの物語がまとまったことは間違いありません。

なので不満な点として挙げましたが、僕はそこまで気にしていません。

万葉や毛毬に劣等感を抱きつつも、懸命に生きる瞳子が僕は大好きです。

おわりに

壮大な物語。所狭しと躍動する登場人物たち。

桜庭さん自身が生き生きと書いたことが分かる作品で、それが読者である僕にも伝わってきてとても幸せな読書でした。

あとがきにある桜庭さんの言葉も感慨深いので、ぜひあわせて読んでみてください。