『白夜行』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、事件は迷宮入りする。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂―暗い眼をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別々の道を歩んで行く。二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪。だが、何も「証拠」はない。そして十九年…。息詰まる精緻な構成と、叙事詩的スケール。心を失った人間の悲劇を描く、傑作ミステリー長篇。
「BOOK」データベースより
東野圭吾さんの描く、人の一生を描くようなスケールの長編ミステリです。
八百ページ以上に及ぶ超大作ですが、先の読めない展開に加え、それをいともたやすく読ませてしまう東野さんの筆力は圧倒的でした。
そして、ラストの切なさに読了後もうまく感想が書けませんでした。
加害者に同情は禁物なのかもしれませんが、それでもその人たちが背負ってきた悲しみを思うと、胸が締め付けられてしまいます。
以下は本書に関するレビューで、非常に参考になりました。
東野圭吾の超大作『白夜行』! 被害者の息子と、容疑者の娘の見えない絆のダークストーリー | ダ・ヴィンチWeb
この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
第一章(1973年)
舞台は大阪。
布施駅近くのビルで刺殺された死体が発見されます。
被害者は、質屋『きりはら』を経営する桐原洋介で、現場となったビルは建設がストップして誰もおらず、子どもたちの遊び場と化していました。
刑事の笹垣、古賀らが捜査にあたり、『きりはら』の顧客を調べます。
一方、死体のズボンのベルトが緩んでいて、淫行などの線からも捜査を進めます。
洋介は事件当日、定期預金を解約して百万円を引き出していたことが判明。
その後、客の名簿にある西本文代の家に立ち寄ったことが分かり、笹垣は部屋を訪れます。
文代は洋介がここに来たことを認めますが、事件との関連を否定。笹垣は文代が何かを隠していることを確信し、要マークします。
その後、捜査の過程で『きりはら』に勤める松浦の証言に矛盾があることが分かり、再度聞くと、事件のあった時間帯は、店には松浦の他に弥生子、小学五年の息子・亮司がいたと証言。
さらに捜査を進めると、文代の家を何度も訪れる寺崎という男が捜査線上に浮上。
話を聞くと、寺崎は文代と真剣に交際していると話し、事件の時のアリバイはありません。
しかし、決定的な証拠を見つけられずに時間だけが過ぎます。
そして翌月、寺崎の運転する車が壁に激突し、寺崎は死亡します。
彼の乗っていた車からは、無くなった洋介のライターが見つかります。
一方、鍵を持っていなかった雪穂は、管理人にお願いして部屋の鍵を開けてもらいますが、部屋にはガスが充満していました。
ガスレンジは火が出ていないにも関わらず、ガスが出たままになっていて、奥の部屋では文代が死んでいました。
第二章(1977年)
事件から四年後。
雪穂は父方の親戚の唐沢礼子に引き取られて唐沢姓に変わり、女子中学に通っていました。
彼女の美しさは近隣の学校から男子生徒が見にくるほど評判で、秋吉雄一は隠れて彼女の写真を撮り、それを売ることでお小遣いを稼いでいました。
雄一は撮った雪穂の写真を、クラスの乱暴者・牟田に売ろうと話を持ち掛けると、牟田は雪穂と同じ学年にいる藤村都子の写真も撮ってくるよう命令。
雄一は彼女を見つけて写真を撮ろうとしますが、逆に見つかってしまい、必死で逃げます。
雄一の学校にも、ビルの事件の関係者がいました。
亮司です。彼は雄一と同じ学年でした。
雄一の友人・菊地文彦は雄一に一緒に屋上に来てほしいといい、屋上に現れたのは亮司でした。
文彦は、雄一の撮った一枚の写真を亮司に見せると、彼は驚きます。
そこには二人の男女が写っていて、文彦はそれが松浦と弥生子だと知っていました。
しかし、亮司は違うと否定し、屋上を後にします。
文彦は亮司と小学校からの付き合いで、四年前のビルの事件について調べていました。
なぜそこまでして調べるのかと聞くと、文彦は事情を話します。
死体の第一発見者は文彦の弟で、母親が警察に通報しました。
ところが、警察は母親が殺害し、自分の子どもに死体を見に行かせたのだと疑っていました。
疑いはすでに晴れていますが、文彦はそういう問題ではないと執着していました。
その後、雪穂と江利子は塾の帰り道、近道を通って帰ろうとすると、倉庫の近くに彼女たちの通う学校の制服の一部が落ちていることを発見。
倉庫の中を見ると、そこには猿ぐつわをされ、両手両足を縛られた半裸の都子が倒れていて、二人は慌てて警察に通報します。
二人は事情聴取に対し、自分たちをよく撮影している男子がいることを証言。
雪穂は彼の名札を見ていて、警察はそこから雄一の情報を得ます。
また、現場には達磨のキーホルダーが残されていて、文彦のものであることが判明します。
翌日、雄一のもとに笹垣がおとずれます。
雄一は牟田に頼まれて写真を撮っていたこと、雪穂以外に都子の写真も依頼されていたことを白状します。
さらに達磨のキーホルダーを見せられ、つい文彦の名前を出してしまいます。
一方、雪穂たちは都子のお見舞いに行くと、幸いなことに服を脱がされただけで、乱暴はされていないことが判明します。
その後、文彦は警察に疑われますが、亮司の証言で映画館にいたことが証明され、疑いが晴れます。
しかし、亮司は証言の代わりに例の写真を彼に渡してしまいます。
第三章(1979年)
それから二年後。
亮司に呼ばれ、園村友彦と村下は喫茶店に集まります。
二人は、悪くない話だと高額なバイトを紹介され、女の話し相手をするとだけ教えられ、マンションの一室に案内されます。
部屋にはすでに三人の主婦が待っていて、お酒が入るといかがわしい雰囲気になり、一人の主婦は帰ってしまいますが、二人は友彦と村下それぞれにアプローチをかけ、そのままセックスします。
事前に二人は個人的に会わないよう亮司から言われていましたが、友彦は相手の女性から名前と電話番号の書かれたメモを渡され、後に密会することになります。
一方、途中で逃げ出した西口奈美江は、腕時計をマンションに置いてきてしまったことに気が付き、合鍵を利用して部屋に入ります。
中には亮司がいて、面白い話があると持ち掛けられます。
あれ以来、友彦は連絡先をくれた花岡夕子と会うようになっていましたが、彼女の夫に密会がバレてしまい、しばらく会わないことを決めますが、この日もホテルに行きます。
ところが、行為が終わると夕子は死んでしまい、友彦はホテルの鍵を持ったまま逃げ出します。
このままでは捜査の手が自分に及ぶと思った友彦は亮司に連絡を取り、会って事情を説明。
亮司は友彦を見捨てるつもりでしたが、彼がパソコンをある程度使いこなせることを知り、予定を変更。
警察、夕子の夫が友彦のもとに現れますが、彼は亮司の指示通りに答え、それ以降、疑われることはありませんでした。
助けてもらった代わりに、友彦は亮司の手伝いをすることになります。
亮司は『無限企画』という会社を立ち上げ、パソコン用のゲームを売って儲けようと考えていて、奈美江は経理として参加していました。
彼らの手元には『サブマリン』という名前のゲームのプログラムがあり、奈美江はそれを『マリン・クラッシュ』と名付け、販売するつもりでした。
後から夕子の件について、友彦は奈美江から事情を聞きます。
夕子の膣から精液が発見され、血液型がAB型だったため、O型の友彦は疑われずに済んだのだといいます。
友彦はゴムをして行為に及んだため、誰かが彼女の死体に入れたとしか考えられません。
そして亮司の血液型はAB型であり、友彦は背筋が凍りつくのを感じます。
それと同時に、亮司のために何でもすると決意するのでした。
第四章(1979年)
こちらは雪穂パート。
大学生の中道正晴は、数学の家庭教師として雪穂の家に出入りし、彼女に惚れていました。
そんな正晴ですが、彼の通う大学の研究室ではある問題が起きていました。
彼らが製作した『サブマリン』に非常によく似た『マリン・クラッシュ』というゲームが通信販売されていたのです。
研究室では、メンバーの誰かがプログラムを流したのだと考え、その経路を追いますが、ついに見つかりませんでした。
一方で、正晴は雪穂の本当の母親・文代が亡くなった事件を思い出し、死体の発見者であるアパートの管理人をたずねます。
すると、管理人はこの自殺について、不可解な点をいくつか挙げます。
・味噌汁が吹きこぼれて火だけ消えたのなら、周りがもっと汚れているはず
・文代はその時、風邪を引いていたらしいが、死体からは通常の五倍以上の風邪薬が見つかった
さらに普段飲まない酒を大量に飲んだ形跡もありました。
それでも自殺を否定するには証拠が弱く、自殺として片付けられました。
雪穂について、おかしな点はまだあります。
実は、彼女にお願いされて、正晴は『サブマリン』のカセットの実物を彼女に見せたことがあったのです。
しかし、すぐに返してもらったため、プログラムを流したのは雪穂ではないと正晴は考えます。
また、文代の自殺について、雪穂が自殺に見せかけて母親を殺し、嘘の証言で自殺に見せかけたのではとも考えます。
彼女の家は貧乏で、礼子とは当時から親しかったため、文代が死ねば引き取ってもらえる勝算はあったはずです。
しかし、当時のことを思い出して涙を流す雪穂に正晴は流され、この考えを否定するのでした。
第五章(1981年)
さらに二年後。
雪穂と江利子はエスカレーター方式で同じ大学に進学し、ソシアルダンス部に入部。
永明大学と合同の部で、多くの男子生徒が雪穂に夢中になる中、篠塚一成は江利子のことが気になっていました。
彼は大手製薬会社の篠塚製薬の御曹司で、同じ部に倉橋香苗という彼女もいて、順風満帆な人生を送っていましたが、江利子に夢中になり、香苗と別れて江利子と付き合うことになります。
江利子も一成の手にかかって垢抜け、今までになく男子に注目され、幸せを感じます。
一方、香苗は一成と別れたのが原因なのか、部活に来なくなってしまいます。
そんなある日、一成がいくら連絡をとっても江利子は出ず、練習にも来なくなってしまいます。
不審に思っていると、そこに堅気ではなさそうな男から電話がきて、後金を払うよう香苗に伝えろと言われます。
さらに自宅に、裸の江利子が映った写真が送りつけられ、ようやく事態の深刻さに気が付きます。
後日、このことを雪穂に話すと、彼女はすでにこのことを知っていました。
幸いなことに処女は奪われておらず、世間に知られるリスクを考えて警察には届け出ていませんでした。
一方、一成が調べると確かに部費の入った口座からお金が下ろされていて、口座のカードはここ数週間、香苗以外の誰も触れていません。
しかし雪穂は、それは一成の推測だと賛同せず、江利子から預かった別れのメッセージを告げるのでした。
最後に、銀行口座の預金が本人の知らない間に引き出されたというニュースがやっていますが、犯人は香苗ではありません。
その件については、後述します。
第六章(1982年)
亮司と友彦は銀行口座のキャッシュカードの仕組みを解読し、他人の口座からお金を引き出すことに成功します。
一年前にはこの話が出ているため、部費を引き出すのに亮司が一枚噛んでいると思われます。
そんな時、奈美江の務める銀行の行員が殺害されたとニュースで報じられ、友彦は慌てて亮司に連絡をとります。
すると、亮司はすでに奈美江と合流していて、友彦も二人に合流します。
結果からいって奈美江は殺人こそ犯していませんが、亮司たちのもとを訪れた榎本というヤクザに銀行のお金を流していたのです。
それに気が付いた行員がいて、榎本たちが口止めに殺害したのだといいます。
奈美江は榎本たちと手を切らなければと決心し、お金が必要な榎本は彼女のことを追っているのでした。
亮司は名古屋のホテルに身を潜めてほしいとお願いし、奈美江もそれに従います。
しかし四日後、奈美江の死体がホテルで見つかります。
また彼女は不正送金を他にも五つの預金通帳に行っていましたが、そこからお金が全て引き出されていました。
友彦は全て亮司の仕業だと考え、改めて彼の怖さを知るのでした。
第七章(1985年)
高宮誠は東西電装の特許ライセンス部に所属していて、派遣社員の三沢千都留が気になっていました。
しかし、千都留はもうすぐ契約期間が終わり、実家のある北海道に戻る予定でした。
また、誠は大学四年の時から雪穂と交際していて、あと二週間で入籍する予定になっていました。
誠には雪穂に負い目があり、実は雪穂を妊娠し、堕胎していたのです。
この時、誠は陽性反応の出た妊娠検査キットを見せられていますが、実はこれは雪穂のものではありません。後述しますが、別の女性のものです。
しかし、事実を知らない誠はけじめで結婚するつもりでしたが、それでも千都留のことを忘れられず、結婚式前日、彼女の泊まる予定のホテルに向かいます。
千都留もまた誠に好意を寄せていて、ホテルに向かいますが、途中で警察官に呼び止められます。
千都留のおさえた部屋を捜査で使いたいと言われ、別のホテルの部屋を代わりにとってもらうことで了承します。
誠がホテルに確認すると、千都留の部屋はキャンセルされていて、結局会うことは出来ず、諦めて雪穂と結婚することを決めるのでした。
第八章(1985年)
亮司と友彦は『MUGEN』という名前で店舗を構え、パソコンを販売していました。
友彦の彼女である中嶋弘恵も協力していますが、彼女は二人の裏の顔を知りません。
ここで弘恵は一度妊娠して、堕胎したことが明かされますが、亮司は友彦からその時の妊娠検査キットを借りています。
亮司はこれを雪穂に貸し、彼女が妊娠したと誠に誤認させたのでした。
またこの時、亮司たちは厄介な依頼をされていました。
以前、仕事で付き合いのあった金城という堅気でない男から、『スーパーマリオブラザーズ』の海賊版を作らないかと誘われているです。
亮司はこの話を断りますが、そんな時、店に松浦が顔を出します。
亮司に話を聞くと、松浦は金城の案件の説得係としてここに来て、弱みを握られているのか亮司はマリオの件を受けることに。
後日、友彦は松浦に会い、亮司の父親が殺害された時のことを聞きます。
松浦は事件当時、亮司は弥生子と一緒にいたことになっていると思わせぶりなことを言います。
つまり当時、亮司は弥生子とは一緒ではなかったことになり、これが後で重要な意味を持ってきます。
またこの時、亮司は上等な鋏を持ち、切り絵が特技であることが判明します。
その後、海賊版のマリオの足がつき、自分たちにも捜査の手が及ぶ可能性があるのだといいます。
亮司はなんとかするといって二人を引き離しますが、ある日、彼は傷だらけで帰ってきます。
しかし、亮司は事情を説明してくれず、それ以降、亮司は帰ってくることはありませんでした。
第九章(1988年)
誠が結婚してから二年半後。
彼の会社では、社内でのみ運用するはずだったシステムとデータが極めて似ているシステムが出回っていることが問題になっていました。
また、誠は雪穂の事でも悩んでいました。
彼女は結婚してすぐに自分のお金で株を始めますが、それがうまくいき、株中心の生活になって結婚生活どころではありません。
誠は注意し、雪穂は株を一切止めます。
しかしそれ以来、雪穂は輝きを失ってしまい、誠は株を止めさせたことを後ろめたく思っていました。
また、以前の中絶手術の影響か、一向に子どもが出来ず、夜の生活もうまくいっていませんでした。
そんな中で、今度は仕事がしたいと雪穂が言い出します。
アパレル業界にいる友人が独立してお店を出すということで、誠はこれを許可します。
友人のお店は繁盛し、それに比例して雪穂の帰りはどんどん遅くなり、誠の扱いもおざなりになっていきます。
また、南青山のお店と土地を買うよう雪穂に強く勧められ、それが結果として大成功だったため、誠は大きな劣等感を覚えていきます。
そんな時、雪穂からゴルフ教室に通わないかと誘われ、二人は説明を聞きに行くことに。
ところが、雪穂に急な仕事が入ってしまい、誠は一人で行くことになります。
すぐにでも帰ろうと誠は考えていましたが、そこで会ったのは千都留でした。
二人はすぐに恋仲になり、誠は雪穂との離婚も考え始めます。
一方、システムの海賊版について、IDとパスワードがあれば社外からでもデータを手に入れられることが判明。
誠の従業員証の裏にはその二つがメモしてあり、ここでは明かされませんが、それを雪穂が亮司に流したのでした。
その後、酔って寝ぼけた誠に乱暴されたと、雪穂が証言。
これもきっかけとなり、結局、二人は離婚するのでした。
第十章(1991年)
今枝直巳は三年前、調査会社に勤めていました。
その時、東西電装の関係者から、メモリックスという会社のシステムについて調べてほしいと依頼を受けます。
調べると、秋吉雄一の名前が浮上しますが、これは亮司が使った偽名です。
彼が入社してからこのシステムの研究が始まり、一年で開発を終わらせたのです。
ところが、いくら調べても亮司についてよく分かりません。
唯一、ゴルフ練習場で誠と千都留が仲良くしているところを見張る現場は目撃しますが、それだけで何もありませんでした。
結局、調査は打ちきりになり、今枝も今は独立しています。
そして現在、ゴルフ練習場に来ていた今枝に誠が声を掛けます。
そこに千都留も現れます。
二人は結婚し、彼女は妊娠していました。
そんな時、今枝の事務所に一成から依頼の電話がきます。
一成もまた同じゴルフ練習場に来たことがあり、今枝と面識がありました。
そんな彼が今枝に依頼すること、それは雪穂に関する調査でした。
彼女は現在、一成の従兄で篠塚製薬の常務である康晴と交際していますが、一成は彼女に危険な気配を感じ取っていました。
この時、今枝は誠の前妻が雪穂だと知り、偶然では片付けられない何かを感じます。
康晴と雪穂の出会いは、彼女のブティックに一成が康晴を連れていった時のことで、康晴は彼女に一目惚れし、すぐに夢中になります。
しかし一成は、株の素人であるはずの雪穂がどうして短期間であれほど儲けることが出来たのか、またその元手も大金であるはずなので、何か裏があるのではと疑っていました。
そして、彼女に関わった人間はみんな不幸になっているという、感覚的にも何かあると一成は感じていました。
この感覚について、はじめは今枝も半信半疑でしたが、実際に雪穂と会ってみてそれを実感します。
その後、今枝は雑誌の取材という名目で雪穂の出身校の女性を何人かあたり、少なからず雪穂に関して悪い噂もあったことを確認。
また、雪穂の生まれについてなどの噂を流したのが都子だったことが判明。これを雪穂が知り、雇った人間たちに彼女を襲わせたのです。
その次に会ったのが江利子でした。
話を聞いていくうちに、江利子もまた雪穂に対して何か良からぬことを思っていたことが判明。
一成と別れて以降、意識して雪穂と距離をとり、疎遠になったのだといいます。
そして誠に関して、江利子は雪穂にとって最愛の人物ではなかったのではないかとコメントし、今枝には印象的でした。
第十一章(1991年)
一通り調査し、今枝はここまでの結果を一成に報告します。
証券会社の雪穂の担当によると、雪穂は株価が上がるか全く予想できない会社の株を大量に買い、儲けていたのだといい、インサイダーの疑いもありました。
また、誠から株をやめるよう言われた後も継続していました。
今枝は、雪穂の目的は一成なのではという考えを打ち明けます。
根拠として、中学時代の都子と大学時代の江利子の事件は手口が似ていて、恋のライバルである江利子を蹴落とすために雪穂が裏で手を引いていた可能性を上げます。
しかし、一成はあくまで推測だとして、真に受けませんでした。
調査を始めて、今枝の周囲で異変が起こります。
部屋に違和感があると絵里から連絡があり、今枝が調べると部屋に盗聴器が仕掛けられていました。
今枝は自分が狙いだと考え、警戒を強めます。
翌日、行きつけの喫茶店で朝食をとっていると、今枝を気にする男の存在に気が付きますますが、それは笹垣でした。
笹垣は今枝が雪穂のことで調査していることを知り、大阪から東京にやって来たのです。
しかし、話はマリオの海賊版のことになり、着地点が分かりません。
すると、笹垣はある男の写真を見せます。
今枝には見覚えがあり、笹垣に内緒で写真を複製します。
見たことがないと嘘をつくと、笹垣は、写真の男は亮司だといいます。
その後、今枝は前の職場から東西電装から依頼された時の資料を入手します。
笹垣が見せた亮司の写真ですが、その男は今枝の認識では秋吉雄一でした。
つまり、亮司は偽名を使っていたことになります。
ここで、今枝は亮司と雪穂の関係に目をつけます。
雪穂の前夫は誠であり、彼女であれば誠の会社のデータベースにアクセスするためのIDとパスワードを入手することが出来たはずです。
そして誠と千都留の出会いについて、これも誠と離婚したがっていた雪穂の仕組んだことなのではないのか。
今枝の頭の中で様々なピースがはまります。
誠に報告したいことがあると約束をとりつけ、久しぶりに自宅に帰ります。
すると、誰かが侵入したような形跡があり、芳香剤のような香りがします。
トイレの蓋が閉じているのは妙だと思って開けます。
その瞬間、彼は出なければと思いますが、その時には自分の意思では動けなくなっていて、そのまま亡くなってしまうのでした。
第十二章(1991年)
帝都大学付属病院の薬剤部に所属する栗原典子は、道端で苦しそうにうずくまっていた亮司を介抱し、それ以降、同棲していました。
この時、亮司は秋吉と偽名を名乗っていて、そのことを典子は知りません。
亮司は典子の仕事について詳しく知りたがり、小説のためだといって青酸カリでの殺害方法について執拗に聞いてきます。
また、青酸カリを用意してほしいと頼み、典子は不安を覚えつつも調達します。
ちなみに、特に説明はありませんが、この時の青酸カリで今枝は殺害されたのだと思われます。
ある日、亮司は取材で大阪に行くといい、無理を言って典子もついて行くことにします。
一方、一成のもとに笹垣が訪れ、今枝が行方不明になっていることを報告。
一成は今枝に依頼した経緯について説明します。
その後、雪穂の母親・礼子が亡くなり、忙しい康晴に代わって一成が大阪に行って葬儀に参加することになります。
この時、自由が丘の店舗のオープンを控えていて、礼子が早く亡くなってくれて助かったと従業員が話すのを一成は聞きます。
これも明言はされませんが、おそらく雪穂が何らかの方法で礼子の死期を早め、仕事に支障が出ないようにしたのではないかと思われます。
第十三章(1992年)
捜査を続けるうちに、顔馴染みになっていた笹垣と絵里。
彼女は今枝の仕事を手伝ったこともあり、いまだに今枝のことを待っていて、住んでいたアパートを引き払うと彼の事務所に住み、行方の手がかりを探していました。
事務所には二人の人物が訪ねてきて、そのうちの一人が典子で、雄一が何かの調査でここに来なかったかと聞いていきます。
笹垣が泊っているホテルに戻ると、フロントに伝言が残されていて、指定された部屋に向かうと同僚の古賀が待っていました。
彼はかつてビルの事件を笹垣と一緒に担当し、今では捜査一課長になっていました。
二人はビルの事件について話します。
当時、警察では寺崎が犯人だという見方が有力でしたが、笹垣はきっぱりと否定。
彼は文代が亡くなった状況の不自然さから雪穂を疑い始めていて、洋介を殺害したのは雪穂なのではと今でも疑っていました。
寺崎は洋介のライターを所持していたことから疑われていますが、雪穂が仕込んだのでは。
しかし、決定的な証拠はありません。。
雪穂はその後、康晴と結婚します。
彼には前妻との間に出来た二人の子どもがいて、一見幸せな家庭に見えますが、娘の美佳だけは雪穂に言いようのない嫌悪感を抱いていました。
その後、笹垣は一成のもとを訪れ、これまでの捜査について話します。
笹垣は時間が経ってから調書を読み直すと、奇妙な点に気が付きます。
ビルのダクトを通って死体を確認した菊池道弘は部屋を出ようとしますが、ブロックが邪魔でドアが開かなかったと証言していて、笹垣は本人に会って話を聞きます。
すると少しも開かなかったと証言し、つまり犯人はドアから出ていないことになります。
こうして笹垣は犯人を子どもに絞り、雪穂に目をつけたのでした。
しかし、女の子があんなビルで遊ぶわけがなく、またダクト内を移動するには女子の力では難しいということもあり、うまく説明ができません。
そこで笹垣は、ダクトを通ったのは男子なのではと考えます。
その後の調べで亮司が図書館に通っていることが判明し、図書館では雪穂と会っていたことが判明します。
ここで二人が共犯なのではという考えが出てきますが、それでは亮司が父親を殺害する動機はなんなのか。
これは後に判明します。
その後、捜査が進展したのは二人が中学生の時でした。
都子のレイプ事件について、文彦が疑われていましたが、彼のアリバイを証明したのが亮司でした。
この時、亮司は代わりにおかしなことをするなと文彦に言っていたことが分かります。
問題となっていたのは、弥生子と松浦が映っていた写真でした。
そもそも文彦が映画に行くきっかけとなった優待券は雪穂が彼の母親に渡したもので、笹垣は亮司と雪穂が一緒にレイプ事件を仕組んだのではと考えます。
ここで話は一旦中断され、一成はある事件の責任をとって左遷されていたことが判明します。
それは篠塚製薬の社内情報が外に漏れていたというもので、相手は帝都大学薬剤部を経由して社内のデータに侵入していました。
篠塚製薬の重鎮の妻となった雪穂、帝都大学薬学部に所属する典子と同棲する亮司が協力することで為し得たことですが、この時点では誰も気が付いていません。
ここで場面は変わり、自宅にいる美佳のもとに荷物が届きます。
彼女は応対しようと玄関を開けますが、そこで何者かによって意識を失わされ、気が付いた時には処女を失い、雪穂に発見されます。
この一件で美佳は助けてくれた雪穂に絶対の信頼を置くようになり、雪穂はまたしても安定した環境を得るのでした。
この時、雪穂は自分もまた、同じような目にあったことがあると言っています。
その後、一成は業者だと身分を偽らせた笹垣を連れ、自宅にいる康晴を訪問。
雪穂の本性を表すようなエピソードを教え、社内のデータが漏洩した件について、典子が亮司と同棲していたことが判明したことも伝えますが、康晴は信じてくれません。
この時、二人は室内に雪穂の実家から持ってきたサボテンがあるのを見つけ、その鉢の中にサングラスのレンズらしきガラスの破片が入っているのを見つけます。
その後、笹垣は大阪に戻り、弥生子のもとを訪れます。
彼はうまく誘導し、弥生子から事件当時、亮司は一緒にいなかったこと、洋介には幼女趣味があったことを吐かせます。
そして、迎えた雪穂の大阪の店舗のオープン当日。
笹垣はここに亮司が現れると張り込んでいました。
その後の捜査で、サボテンの鉢にあったガラスが、松浦がつけていたサングラスであることが判明。
さらに雪穂の実家の庭からは、松浦の白骨死体が発見され、死体は毛髪を掴んでいました。
近年ではDNA鑑定が捜査に導入され始めていて、それを利用すれば毛髪の持ち主が亮司だと分かるはずです。
また亮司が、なぜ文彦から写真を撮り上げたのか。
それは、弥生子と松浦が不倫していることがバレれば、情事中は二人とは一緒にいなかったことが知られてしまい、犯行当日のアリバイが崩れてしまうからです。
さらに洋介と雪穂について、彼は当時、金で何度も彼女を買い、ビルで行為に及んでいたことが判明。
養女に迎える準備もしていて、そのために百万円を引き出していたのでした。
寺崎もまた雪穂を買っていましたが、洋介は独り占めしたくなり、文代に金を渡して雪穂を自分のものにしようとしたのです。
ここからは笹垣の推測になりますが、金を渡した洋介は図書館に雪穂を迎えに行き、あのビルに向かいます。
亮司は二人を見つけ、後を追います。
そして洋介は雪穂と行為に及び、それを目撃した亮司は悲しみと憎悪から洋介を殺害。
雪穂を逃がすとブロックでドアを開けられないようにして、自分はダクトから逃げたのです。
松浦を殺害したのは、アリバイの秘密を知っていたから、そして彼の存在が弥生子を浮気に導き、自分の家庭を崩壊させたからだと推測されます。
結局、閉店時間になっても亮司は現れず、笹垣は諦めて帰ろうとします。
その時、通りがかった少女は見事な切り絵を持っていて、それは亮司の特技でした。
居場所を聞くと、そこに亮司はいて、追いかけてくる笹垣に気が付いた亮司は逃げます。
他の警官とも連携して追い詰めますが、亮司は二階から飛び降り、胸には昔から大事にしていた鋏が突き刺さっていました。
笹垣は、雪穂に彼のことを聞きますが、彼女は知らない、アルバイトの採用は店長に任せていると言って、一度も振り返らずにその場を去っていくのでした。
おわりに
東野さんの実力をこれでもかと示した絶対的な名作だと思います。
僕はここまで濃密な時間を感じた小説は本当に久しぶりです。
出版されてからかなり遅いタイミングではありますが、出会えたことを本当に幸せに思います。
ただ文章が非常に長くなってしまい、解説も万全か自信がありません。
もしお気づきの点がありましたら、お問い合わせからご指摘いただけると助かります。
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