『かがみの孤城』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
学校での居場所をなくし、閉じこもっていた“こころ”の目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。 輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。 そこには“こころ”を含め、似た境遇の7人が集められていた。 なぜこの7人が、なぜこの場所に―― すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。 生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。
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ファンのみならず、初めて辻村さんの作品を読むという方も本書を絶賛していて、文庫化まで待ちきれずに購入してしまいました。
結果からいって、僕の中の辻村作品ベスト3に入る傑作でした。
結婚し、子どもが生まれ、人生も新たな局面を迎えたここにきて、こんなお話が書けるのかと改めて尊敬しました。
この作品はミステリー要素もそうですが、幼い頃に読んだ童話がベースに敷かれ、少年少女の多感な時期ゆえの心の葛藤が見事に描かれ、最後は思わず涙してしまいました。
以下は本書に関する辻村さんへのインタビューです。
アニメ映画化もされます。
この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
不登校のこころ
中学一年生の安西こころは入学して一か月で不登校になり、代わりに似た境遇の子が通うフリースクール『心の教室』に通う予定でしたが、当日になると急にお腹が痛くなり、行けずにいました。
原因は、一方的ないじめです。
クラスメイトである真田美織は、こころの小学校の同級生だった池田仲太と付き合い始めますが、仲太は小学校の時にこころのことが好きだったと美織に話してしまい、恋愛が全てである美織にとってこころは敵になります。
美織はクラスの中心ゆえに誰もこころを擁護してくれず、転入して仲良くなった東条萌もよそよそしい態度でこころを避けます。
極めつけに、美織は友達を連れてこころの家を訪れ、外から誹謗中傷し、家の中に不法侵入しようとまでします。
こころはこの事件がきっかけで学校に行けなくなってしまいましたが、それを親にも先生にも言えずにいました。
そんなある日、こころの部屋にある大きな姿見が光を放ち始め、手を伸ばすと中に吸い込まれてしまいます。
誰かの声が聞こえて目を開けると、こころを待っていたのは狼の面をつけた女の子でした。
女の子は言います。
こころは、この城のゲストに招かれたのだと。
こころの目の前には、童話に出てくるような西洋の城が建っています。
しかし怖いと感じたこころは、女の子の言葉に耳を貸さずに来た時と同じように鏡を通って自分の部屋に戻ります。
翌日、午前九時を過ぎると鏡が再び光を放ち、こころは意を決して中に入ります。
そこは昨日の城の中で、狼の面をかぶった女の子と、同い年くらいの六人の少年少女が待っていました。
七人の子ども
他の子どもたちもまだ事情が飲み込めていない中、オオカミさまと名乗る女の子は説明します。
この城の奥には誰も入れない『願いの部屋』があり、鍵を見つけた一人だけがそこに入ることができ、願いを叶えることができる。
期間はこの日から三月三十日までで、願いを叶えるか期間を過ぎると、もうこの城には入れない。
城にいられる時間は日本時間で午前九時から午後五時までで、それ以降も残るとその人は狼に食われ、城に来ていた他の人にも連帯責任がかされる。
ここのことを誰かに話してもいいが、その場合は安全を考慮して鏡は城と通じなくなってしまう。
オオカミさまは最後に自己紹介しろと言い残し、いなくなってしまいます。
残された六人は、順番に自己紹介を始めます。
ポニーテールのしっかりした女子、中三のアキ。
ジャージ姿のイケメン、中一のリオン。
眼鏡をかけた、声優声の女子、中二のフウカ。
ゲーム機をいじる、生意気そうな男子、中二のマサムネ。
ハリーポッターに出てくるロンのようなそばかすの物静かな男子、スバル。
小太りで気弱そうな男子、ウレシノ。
なぜ自分たちが選ばれたのか心当たりがないと誰もが言いますが、本当はみんな分かっています。
みんな、学校に行っていないと。
でも、それを分かっても口にしない配慮を、こころは嬉しいと感じます。
自己紹介が終わるとオオカミさんが現れ、それぞれの部屋があると教えてもらい、一旦各自の部屋を見に行くことにします。
しかし、最初にいた階段に戻ると、全員が家に帰った後でした。
それ以降、みんな毎日来るわけでなく、日にちも時間もバラバラ。
真剣に鍵を探した人もいますが見つからず、のんびり探しながらもこの空間を楽しんでいるようです。
ぎこちないながらも距離を縮め、こころは居心地の良さを感じるのでした。
恋多きウレシノ
順調にいきそうに思えましたが、こころを悩ませる人物がいました。
ウレシノです。
彼は惚れやすい性格で、最初はアキのことが好きになって告白しますが振られ、今度はこころに乗り換えたように付きまとってきます。
こころはそれが嫌でしばらく城に行けませんでしたが、次に行った時にはウレシノはフウカに乗り換えていました。
そして、こころたち女子三人はウレシノのことをきっかけに仲良くなり、こころは誰にも言えなかった不登校の理由を話し、少しだけ心が軽くなるのを感じました。
久しぶりの外出
学校が夏休みに入ったある日、当日になってフウカが誕生日だったことを知ったこころは、翌日になって誕生日プレゼントを買おうと数か月ぶりに外出します。
最初は久しぶりの光景に胸が躍りますが、同じ中学のジャージを着た生徒を目にすると胸が潰れるように苦しくなり、近所のコンビニでもう限界でした。
それでもなんとかお菓子を買い、それをフウカにプレゼントします。
がっかりするかなと不安になるこころですが、フウカは本当に嬉しそうで、こころは勇気を出して外出して良かったと思います。
夏休みに入り、旅行や夏期講習など予定が入ってみんなの足が遠のく中、こころの母親はこころの靴があるにも関わらずこころが家にいないことに気が付き、こころはひどく傷つけられたような気持ちになります。
学校にもフリースクールにも行かないでいいと口では言いますが、やはり行ってほしいという本心が透けていて、どうしてこの気持ちを理解してくれないのだとこころは悲しくなります。
変化と嘘
久しぶりに全員で集まったある日、突然スバルが茶髪になって現れます。
脱色したのだといい、兄とその彼女の影響でピアスも強制させられたといいますが、その顔は何でもないというような表情で、誰もうまく反応できません。
すると今度はウレシノが口を開き、二学期から学校に行くことをみんなに伝えます。
ウレシノはみんなから見下されていることがたまらず、学校に行くことでお前らとは違うのだとアピールするつもりでした。
ところが、リオンだけは違いました。
彼だけはちゃんと学校に通っていて、しかもハワイの寄宿舎つきの学校で、親元を離れて一人で暮らしているのだと言います。
オオカミさまがわざわざ日本時間と言ったのは、リオンのことを配慮したからでした。
黙っていましたが、リオンは決して嘘をついていたわけではありません。
しかし、同じ境遇だと思っていた他のみんなの中には裏切られたと感じる子もいて、それでもみんなはそのことを無かったことにしてやり過ごそうとします。
しかし、今度はアキが髪色を明るい赤色にしてきました。
学校に行かないので、誰かに注意されることを気にする必要はないのですが、こころたちは動揺します。
そしてウレシノですが、二学期が始まって二週目のある日、顔にガーゼを当て、腕に包帯を巻き、顔を腫らした状態で現れます。
最初はみんな気を遣ってそのことに触れませんが、やがてウレシノは自分から話し始めます。
この傷はクラスメイトにやられたものだが、決していじめではないとウレシノは言います。
ウレシノは中学で仲良くなった友達に頻繁に奢っていて、友達も味をしめて不健全な関係になっていました。
すると両親にそのことがバレ、ウレシノの友達も怒られ、何もかもが嫌になってウレシノは不登校になります。
その後、フリースクールには通いますが、二学期を前にして父親から学校に行くよう言われ、ウレシノは学校に行きました。
しかし、友達は奢ってもらえないなら用はないとウレシノを切り捨て、ウレシノは頭に来て手を出し、そのままケンカに発展。
現実で大ごとになっているのだといいます。
結果としてうまくいきませんでしたが、誰もウレシノのことはせめず、彼の頑張りを労わります。
またここでウレシノの下の名前が『ハルカ』だと判明し、女の子みたいな名前だから黙っていたという本人の意思を尊重し、変わらずみんなウレシノと呼びます。
一方、現実にて、こころの家にフリースクールの喜多嶋先生が訪れ、二人で話すことに。
喜多嶋は、こころの日々を闘っていると言ってくれ、これまでの日々は無駄じゃないと肯定してくれます。
この日はあまり話せませんでしたが、こころは喜多嶋のことを受け入れ、もっと話しかけてほしいと思うのでした。
提案
十月になってすぐにアキとマサムネが提案します。
今まで真剣に探しても鍵が見つからなかったから、協力しないかと。
みんなは相談し、見つかったら公平な方法で願いを叶える一人を決めること、ここに一日でも長くいられるように、鍵を見つけても最後の日まで願いを叶えないことを決め、全員ですでに探した場所を挙げていきます。
すると、そこにオオカミさまが現れて何でもないかのように言います。
願いを叶えた時点で、みんなは記憶を失うと。
誰もが言葉を失います。
その間の記憶は適当に埋められ、ここで知り合ったみんなのことは忘れてしまうのだといいます。
しかし、もし願いを叶えなければ、そのままの記憶を保持することができる。
理不尽とも思えるルールの説明に一同は怒りますが、オオカミさまはあくまで淡々としています。
みんなは記憶を無くしたくないと漏らしますが、アキだけは願いを叶えることを優先するように見えました。
選ばれた理由
それからしばらくアキは来ませんでしたが、ある日こころが城を訪れると、制服姿で今にも泣きそうなアキがいました。
制服の右胸のポケットには校章がついていて、それはこころと同じ『雪科第五』でした。
こころは驚き、後から来たみんなも驚きます。
夕方になって全員が揃い、ここにいる七人の共通点に気が付きます。
リオン以外は雪科第五中学の生徒で、リオンは留学の話がなければそこに通うはずだったのです。
会うことのない人だと思っていた存在が急に身近になり、みんなで出身小学校や近所の話をします。
いくつか食い違いこそありますが、どれも自分たちが知っていることで、改めて七人は本当に近い場所に暮らしていることを実感します。
オオカミさまを呼んで問い詰めますが、満足いく回答は返ってきません。
また、スバルが通っているスクールの先生が喜多嶋だと判明。
最後にアキが制服を着ている理由を聞くと、今日は曽祖母のお葬式でそのために来ていたが、みんなと一緒にいる方がいいからここに来たのだといいます。
まだ疑問点もありますが、この一件を境にみんなの距離感が縮まるのを感じます。
しかし、楽しいことばかりではなく、現実ではこころの担任の伊田が家を訪問することになり、こころはここで初めて美織のことが嫌いなこと、美織にいじめられていることを母親に打ち明けます。
翌日、伊田が家を訪れて美織と会ってほしいと提案しますが、こころは美織は反省していないと思うとこれを拒否。
母親も美織の事情を聞くのが先だと伊田を帰らせ、久しぶりに二人で出かけます。
母親はようやくこころの気持ちを理解してくれて、こころが望むなら転校してもいいと提案してくれますが、こころはこれを保留します。
クリスマスにはみんなでパーティーを開き、親睦を深めます。
相談
みんながいる日、マサムネが相談があるといい、三学期に一日だけでみんなに学校に来てほしいのだといいます。
マサムネの両親は三学期から別の学校に通うことを検討していて、みんなと離れるのが嫌なマサムネは三学期から学校に通えることを親に見せ、転校をせめて二年生になるまで引き延ばそうと考えています。
しかし、一人で行くのは怖い。
だから保健室でも音楽室でも、午前中だけでもいいからみんなが来てくれたら心強いと。
即答できる子は多くありませんが、それでも行くと答え、一月十日の始業式の日に学校に行くことを約束します。
こころはそのことを母親に伝えると、心配されると同時に始業式はもう終わっていると言われますが、マサムネが勘違いしたのだと深く考えずにみんなに会えることを心の支えにして学校に行きます。
始業時間を過ぎてから行きますが、靴箱でなぜか萌に会い、無視されてしまいます。
こころは再び嫌な感覚を思い出し、上履きの上に手紙が置いてあることに気が付き、読みます。
差出人は美織で、彼女は伊田から今日こころが登校することを言われて手紙を書いたのです。
反省しているように見えて、しかしこころへの不満がありありと見られ、こころは途中で手紙を読むのをやめて保健室に向かいます。
保健室まで行ければ誰かが待っているはず。
そう期待してドアを開けますが、いたのは養護の先生だけで、先生はこころが登校してきたことに驚いています。
それはこころも同じで、みんなの名前を出して来ていないか確認しますが、先生は驚きの言葉を口にします。
そんな生徒はいないと。
こころはパニックに陥り、何よりマサムネを裏切ってしまうと誰かに助けを求めようとします。
すると、こころを呼ぶ声がします。喜多嶋でした。
こころは緊張の糸が切れて気絶し、目を覚ましてから事情を説明しますが、マサムネやウレシノとも会ってるはずの喜多嶋でも彼らのことを知らず、こころは自分の妄想が生み出した存在なのかと疑います。
一方、こころが気絶した拍子に手紙が見えてしまったという喜多嶋はその内容に激怒し、これまでのようにこころの気持ちに寄り添ってくれます。
また萌は本当にこころのことを心配してくれていると教えて、最後に自分のしたいことだけを考えてもう闘わなくてもいと優しい言葉をかけてくれます。
こころは初めて学校だけが全てじゃないことを教えてもらい、その日はそのまま家に帰ります。
一階で母親と喜多嶋が話している間にこころは城に向かいます。
そこにはリオンだけがいて、会えなかったことだけを報告。
すると、リオンは自分の考えを言います。
オオカミさまは自分たちのことを赤ずきんちゃんと呼ぶが、あれはフェイクじゃないのか。
そして、願いを教えてくれます。
姉ちゃんを、家に帰してください、と。
リオンの姉は彼が小学校に入った年に病気で亡くなっていたのです。
こころは美織を消したいという自分の願いの小ささを知り、彼の願いが叶うことを願うのでした。
違う世界
翌日、こころが城に行くとマサムネ以外みんながいて、こころが来なかったことを非難しますが、それはこころも同じです。
すでにいたメンバーでその話になったようで、みんな学校に行ったが、誰も来なかったと言います。
マサムネは、みんなが来なかったと誤解して来ないのかしれません。
そう思うといたたまれない気持ちになります。
そしてマサムネが城に来たのは二月に入ってからでした。
みんなが誤解を解こうすると、マサムネはみんななら来てくれるはずだと今でも信じてくれていました。
彼はこの一か月の間、その理由を自分なりに考え、一つの結論を出します。
それは、七人はパラレルワールドの住人同士で、住む世界が違うのだといいます。
だから同じ中学に通っているけれど、周辺のお店や学生数も違う。
みんなは自分の感じていた違和感を口にし、似ているけれど違う場所に住んでいることを確認して愕然とします。
また日付と曜日もバラバラで、ウレシノに至っては一月十日も翌日も学校は休みだったといいます。
ここから分かる事実。
こころたちは会えないし、助け合えない。
しかし、突然現れたオオカミさまはこれを全否定し、外でも会えないとは言っていないといいます。
また、鍵探しのヒントは最初からずっと出しているとも。
するとリオンは、自分の部屋のベッドの下にある×印は何かと聞き、他のみんなも×印を知っていると口にします。
机の下、お風呂の洗面器の下、暖炉の中、台所の戸棚の中。
しかし、これが何を意味するのかオオカミさまは答えません。
リオンは、切り替えて違う質問をします。
好きな童話はなにか。
これに対し、オオカミさまはこの顔を見れば分かるだろうと『赤ずきんちゃん』だと答えます。
オオカミさまはいなくなり、七人は残りの時をどうするのか考えるのでした。
迫る別れ
七人は会うことを諦め、残りの時間を大事にしようと思った三月。
こころ宛てに萌から手紙が届き、そこにはごめんねと書かれていました。
喜多嶋が言う通り、この前会った時は咄嗟のことで話しかけられなかっただけで、本当はこころのことを心配してくれているのかもしれません。
また喜多嶋が家を訪問し、春の始業式に向けて学校側に美織たちとクラスを変えてもらうなどこころのために交渉しているのを教えてくれます。
そして、萌は四月から名古屋に引っ越してしまうのだと言われ、こころは驚きます。
大学の先生である父親の事情によるものですが、こころは萌と話したいと思います。
こころは喜多嶋から転校も視野に近隣の中学をいくつか見学し、迎えた三月二十九日。
お別れパーティーの買い物をしようと行ったショッピングモールで萌と再会し、彼女の家に一年ぶりに行くことになります。
萌は学校で話しかけられなかったことを謝罪し、今は自分が美織たちから仲間外れにされていることを口にし、転校すると決まったせいか清々しいほどにサバサバしています。
こころはそんな萌のことが好きになり、最後に話せて良かったと言って萌の家を後にします。
ところが家に戻る途中に異変が起こります。
こころの部屋の窓が光り、バンッ!と何かが弾ける音がします。
破られたルールと願い
部屋に戻ると、鏡が割れていました。
こころがオオカミさまを呼ぶと、割れた鏡の向こうからみんながこころを呼びます。
助けて。
アキが、ルールを破った。
五時を過ぎてもアキが帰らなかったから、その日、城にいた人間はみんな呼び戻され、これから罰を受けるのだといいます。
鏡の中から狼の叫び声が聞こえます。
願いの鍵を見つけてアキを。
最後にリオンの『赤ずきんじゃない。オオカミさまは……』という声が聞こえました。
こころは焦りながらもどこか冷静で、願いを叶えてアキのルール破りをなかったことにしてもらうしかない。そう思います。
するとそこでインターホンが鳴り、先ほどの光と音を気にした萌が様子を見に来てくれます。
こころは何でもないと言いますが、ふとさっきのリオンの言葉を思い出し、萌に『七ひきの子やぎ』の原画を見せてほしいとお願いし、萌は怪訝そうですが何も聞かずに貸してくれます。
こころは萌と友達になれて本当に良かったと伝え、部屋に戻ると割れた鏡から城に行きます。
あんなに鮮やかだった城は色を失い、とても暗い色をしています。
嵐にあったような様子から今いる場所を理解するのに時間がかかりましたが、こころは食堂にいることに気が付きます。
台所の戸棚には×印があり、それに触れると、頭の中にマサムネの記憶が流れ込んできます。
マサムネは嘘をつくことから友達から『ホラマサ』と呼ばれ、仲間外れになったのは自分のせいかもしれないのにそれが言えず、いつしか周りのせいにするようになりました。
そして三学期の始業式の日、保健室で仲間を待つ彼と一緒にいたのは喜多嶋でした。
こころは萌から借りた本を読み、確信します。
オオカミさまは嘘をついていました。
このゲームのモチーフは『赤ずきん』ではなく『七ひきの子やぎ』で、×印は子ヤギたちが隠れた場所を示しています。
そして絶対に見つからない安全な場所は大きな時計の中であり、そこに願いの鍵があるとこころは確信します。
狼の雄たけびが聞こえる中、こころは城にある×印に触れてはみんなの記憶を読みます。
暖炉の中にある×印に触れると、ウレシノの記憶が流れ込みます。
彼は日曜日にもかかわらずマサムネのために学校に行き、周囲から奇異の目で見られても仲間のことを考えると、幸せでいっぱいでした。
次は洗面器の下の×印。
スバルの記憶です。
スバルが髪を脱色したのは本人の意思であり、兄からはとっくに見限られていました。
両親を亡くし、祖父母との暮らしはつまらなく、人生なんてどうでもいいと思っていました。
次はフウカの部屋の机の下にある×印。
フウカの記憶です。
フウカは幼い頃からピアノの天才と呼ばれ、母親はそれを信じて彼女に過剰なレッスンを受けさせます。
しかし、全国コンクールでは思ったような成績が残せず、勉強にもついていくことができない。
それでも母親は貧乏になってもレッスンをやめさせないため、フウカもそれに応えるしかない。
苦しい思いをしてきましたが、この城に来てフウカは普通の友達との日々を手に入れることができ、初めて自分で良かったと思えるようになっていました。
またフウカはみんなの話を聞いて『心の教室』を訪れ、喜多嶋とも知り合いになっていました。
喜多嶋はフウカの悩みを聞き、ピアノも勉強も両方やろうといいます。
勉強はすればするだけ結果が出るローリスクなものだから、絶対に無駄にならないと。
フウカは喜多嶋に勉強を教わり、次第に心に落ち着きを取り戻していきます。
次はリオンの部屋のベッドの下にある×印。
リオンの記憶です。
リオンが五歳の時、姉のミオは十二歳でしたが、入院していました。
髪がなくて帽子を被っていますが、彼女はリオンに『七ひきの子やぎ』の絵本を読んであげてます。
そしてミオはリオンに、いつまでも元気でママたちの側にいてあげてほしいと願いを伝え、自分がいなくなったら神様に頼んでリオンの願いを一つだけ叶えてもらうといいます。
するとリオンは、ミオと学校に行きたいといい、ミオも一緒に行きたい、一緒に遊びたいとこぼします。
ミオの死後、リオンはミオの願いを叶えようと母親のそばにいますが、それが逆に母親の気持ちを逆なで、サッカーがうまいことを利用し、リオンの意思を無視してハワイへの留学を決め、彼は願いを叶えられなかったと姉に謝るのでした。
そしてリオンは、こころよりも先にオオカミさまの正体に気が付いていました。
リオンの記憶を見終えると、オオカミさまが現れます。
これは彼女の望むことではないが仕方ないとして、みんなは×印の下に埋葬されているといいます。
こころは一つ、「私たち、会えるよね?」と聞き、オオカミさまも否定しません。
アキは願いの部屋にいるといいます。
今度はアキの部屋のクローゼットの×印に触れます。
アキの記憶が流れ込んできます。
祖母の葬式の日、アキは義理の父親に性的な暴力をふるわれ、寸前のところで逃げ出し、オオカミさんが機転をきかせて城に連れて来てくれました。
アキはここに住みたいと言いますが、その願いはあっけなく却下されます。
この日は、アキが制服姿で泣いていたあの日の出来事です。
アキは彼氏のアツシには裏切られたけれど、みんななら信じられると思い、また裏切られ、絶望します。
そして運命の日。
アキは五時になる前にクローゼットの中に隠れ、自分を探すウレシノの声を無視して、みんなを巻き込むことを覚悟した上で帰りたくないと思います。
狼の雄たけびが響き渡り、クローゼットの扉が開くと狼の顔と大きな口がそこにありました。
その時、逃げないで!と誰かの声が聞こえます。
アキを呼び、手を伸ばして!と。
それはこころでした。
この時、アキは大きな時計の中、つまり願いの部屋にいます。
こころは自分たちは助け合える、会える、だから生きて大人になっていい、自分はアキよりも未来に生きていることを伝えます。
こころは気が付いたのです。パラレルワールドではなく、七人は違う時間を生きているのだと。
真実
きっかけは萌の言葉で、思い出せば違和感はいくらでもありました。
マサムネの記憶にある喜多嶋は、こころが知る喜多嶋よりも年をとっていて、スバルの身の回りのものは古いものばかりでした。
確証を得たのはフウカの記憶で、カレンダーには2019年、こころが過ごしている時間よりも十四年も後の年でした。
さらにアキの記憶ではポケベルが登場し、1991年とカレンダーにありました。
つまり、こころから見るとアキは過去の人で、フウカは未来の人なのです。
オオカミさまは会えないとは言っておらず、つまり大人になることでその先の子たちと会うことが出来るのです。
だからこころは大時計の振り子の裏に隠された鍵を見つけると、時計の奥を開けて願います。
アキのルール違反をなかったことにしてくださいと。
すると光が溢れ、こころはアキを呼びます。
伸ばした手を握られる感触があり、こころは引っ張ります。
背後からみんなの声が聞こえ、六人でアキを引っ張り上げます。
アキが戻ってくると、みんなで彼女を怒り、アキも涙を流します。
でも本当に怒っている子などいなくて、みんながアキが無事だったことの喜びを噛み締めます。
すると拍手が聞こえ、お見事だったとオオカミさまは言うのでした。
結末
最後にみんなの名前と生きている年代が明かされます。
スバル、長久昴は、1985年。
アキ、井上晶子は、1992年。
こころとリオン、水守理音は、2006年。
マサムネ、政宗青澄(あーす)は、2013年。
フウカ、長谷川風歌は、2020年。
ウレシノ、嬉野遥は、2027年。
『七ひきの子やぎ』になぞらえられた七年差ごとに生きる七人の子ども。
アキとこころたちの間に十四年あることが疑問でしたが、気にする人はいません。
マサムネが指定した日の曜日がバラバラだったことも、年代が違うことで説明がつきます。
みんなは自分の時代のことを話すことでこれまでの疑問点を解消しますが、残された時間はあとわずかです。
スバルは、マサムネが嘘をつかなくて済むようにゲームを作る人になるといい、ウレシノは本気でフウカに告白し、フウカは会ったらウレシノのことを忘れた自分に付き合うよう説得してほしいといいます。
そして別れの時間は訪れ、七人は記憶を失っても再会を約束して現実に戻っていきます。
残されたオオカミさま。
すると、そこにリオンだけが戻ってきて、彼女のことを姉ちゃんと呼びます。
リオンは初めからそうかもと予感がありました。
城が三月三十日で閉まる理由、それはその日がこの世界を作るミオの命日だからです。
さらにミオはリオンの七歳差、つまり抜けていた1999年の子どもです。
ここはミオの好きなドールハウスにそっくりで、ミオはリオンの願いを叶えようとしたのです。
ここにいるオオカミさま、それは病室で寝ているミオであり、現実では病室のベッドで寝ています。
またオオカミさまは、現在のミオよりも幼い姿をしていますが、それは髪がまだ生えている元気だった頃の自分を再現したからです。
オオカミさまは何も答えませんが、感謝を伝えたリオンは最後に願います。
みんなのことを、姉ちゃんのことを覚えていたいと。
すると、オオカミさまは善処するとだけ答えます。
その姿が消えゆく中、オオカミさまは最後に面を外し、リオンに向かって微笑んだように見えました。
場面は変わり、再び学校に通うことを決意したこころですが、通学途中で声を掛けられます。
それはリオンで、記憶を失っているにも関わらず、こころはなぜか彼のことを知っているような気がして、おはようと笑いかけるのでした。
なぜリオンは迷いなくこころに声を掛けたのか。
それはオオカミさまが『善処』して、彼の記憶だけ残しておいてくれたのかもしれません。
さらに場面は変わり、喜多嶋の名前が晶子、つまりアキの未来の姿だったことが判明。
結婚して、喜多嶋姓に変わっていたのです。
不登校だった彼女は祖母の友人である鮫島百合子と出会い、次第に助けを素直に求められるようになり、やがて鮫島の誘いで『心の教室』の設立に協力。
その流れで夫となる喜多嶋と知り合い、彼の紹介でアキはミオと知り合います。
彼女との出会いはアキの人生に大きな影響を与え、腕に残る強い痛みの感触(こころが救ってくれた時の)を思い出して思います。
今度は私の番だと。
そしてアキはこころと出会い、ずっとこの時を待っていたような気持ちがして、腕の痛みが蘇ります。
不安そうなこころに対して、アキは大丈夫だよと何度も唱えます。
その時、アキはこころの部屋にある姿見を見ておやと思います。
そこには、中学時代のアキとこころが映っているように見えました。
おまけ
後日談について、アキ以外にもその後がはっきりしている子がいて、それはスバルです。
マサムネは作中にて、ナガヒサ・ロクレンが作った『ゲートワールド』というゲームを絶賛していますが、その生みの親こそがスバルです。
つまり彼はマサムネとの約束を守り、ゲームの魅力を自ら伝え、知り合いがゲームを作ったという言葉を嘘から本当に変えたのでした。
おわりに
ここまで見事にミステリーをしておいて、でも本質は物語の優しさにある本書。
全ての人に本書をおすすめします。
文庫本まで待っていいので、ぜひ読んでください。
僕はこれから何度も読み返し、その度にこの感動を思い出すのだと思います。
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