小説

『オーダーメイド殺人クラブ』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!

 

クラスで上位の「リア充」女子グループに属する中学二年生の小林アン。死や猟奇的なものに惹かれる心を隠し、些細なことで激変する友達との関係に悩んでいる。家や教室に苛立ちと絶望を感じるアンは、冴えない「昆虫系」だが自分と似た美意識を感じる同級生の男子・徳川に、自分自身の殺害を依頼する。二人が「作る」事件の結末は―。少年少女の痛切な心理を直木賞作家が丹念に描く、青春小説。

【「BOOK」データベースより】

 

物騒なタイトルですが、そこは辻村さん。

思春期ゆえの大人と子どもの入り混じった複雑な感情が見事に描かれ、未熟ゆえに死を軽く考え、殺人事件に憧れる気持ちには僕にも何となく覚えがあります。

 

さすがに死にたいとまではなりませんでしたが、松葉杖をついたりギプスをする友達が羨ましかったことをよく覚えています。

そうすればみんなから注目され、優しくしてもらえると当時の僕は本気で思っていたわけです。

 

だから本書を読んで恥ずかしくなり、でも当時の気持ちも本気だったんだと再認識できました。

 

この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

臨床少女

 

この物語の主人公は、小林アン。

平凡な名字に物語に出てくるような名前が嫌いで、メルヘンチックな世界から抜け出せず、でも微妙に現実感が出てしまっている母親のことが嫌いでした。

 

アンはバスケ部に所属し、以前には彼氏もいて友人もいわゆるイケてる女子。

周囲から見れば羨ましい立場ですが、一方で斎藤芹香と成沢倖との関係は日々変化し、少し油断しただけで仲間外れにされることもしばしばで、その閉塞感に絶望に似た感情を抱いていました。

 

そんな中で、アンには誰にも言えない楽しみがあります。

それは、町で一番大きい本屋に置いてある『臨床少女』という人形の写真集を読むことです。

 

ただし、ただの写真集ではありません。

怪我をした女の子の人形ばかりが並び、アンはそういうものに憧れを抱いていました。

 

ゴールデンウィーク最終日、アンは本屋に行った帰りに、河原でクラスメイトの徳川勝利を見つけます。

父親が同じ学校の英語教師で、あだ名は徳川だからショーグン。

 

勝利はその息子だからショーグンJr.。

昆虫系と見下している徳川は一人きりで何かを蹴りつけています。

 

徳川がいなくなった後、アンは河原の草むらに下ります。

そこにあったのは、赤黒い、どろっとした液体が漏れる袋でした。

 

怖くて中身は確認できませんが、明らかに血です。

アンは怖くなって逃げだしますが、以降、徳川のことを気にするようになります。

ショーグンJr.

 

連休明け、中学生の心中のニュースが世間を賑わします。

アンは他にもそういった事件を切り抜く趣味があり、いつか自分も彼ら彼女らのように特別になることを夢見ていました。

 

アンはいつもより少し早く家を出ると、河原には昨日の袋が同じように置かれていました。

彼女はそれを人目につかないように隠して学校に行きます。

 

ところが放課後、河原に行って袋を探しますが、見つかりません。

と、背後から名前を呼ばれ、振り向くとそこに徳川がいました。

 

アンは動揺しながらも袋の中身を聞くと、ネズミだと徳川がいいます。

彼は何でもないことのように事実だけを淡々と述べ、その場を後にしようとしますが、アンはネズミを見せてといい、徳川は明日ここに置いてくと約束します。

 

アンは興奮して翌日、早く家を出ますが、河原のどこにも袋がありません。

学校で隣に座る徳川を見ますが、何も聞くことができません。

 

また学校では佐川という若い教師に目をつけられて肩身が狭くなり、家では母親が新聞の切り抜きを勝手に見つけ、アンは居場所をどんどん失っていきます。

そこでふと、家出して行方不明になり、自殺して母親を後悔させたいと思いつきます。

 

翌日、朝早くに河原に行くと徳川がいて、アンは涙を流します。

彼の足元には死んだネズミが倒れていて、昨日はネズミがいなくて一日遅れたことを謝ります。

 

その姿に、アンは決意をして徳川にいいます。

『私を、殺してくれない?』

理想の死に方

 

アンの問いかけに、徳川は『いいの?』と怯む様子もありません。

アンは徳川なら事件を起こした少年Aになれると確信し、今まで誰にも言えなかったことを彼に打ち明け、徳川もまた理解を示します。

 

アンの求める死に方。

それは、いつまでもテレビで流れて何年も語り継がれる、今までにない殺人事件です。

 

二人は日曜日、コドモ科学センターで待ち合わせると、アンは一冊のノートを見せます。

最初のページには『これは、悲劇の記憶である』と書かれ、事件の計画などはここに書くことを決めます。

 

『記録』を『記憶』と間違えてしまう稚拙なものですが、それでもアンは必死です。

しかし、徳川が死ぬ日、死に方の希望など具体的な話を出すと、急に怖くなって誤魔化してしまいますが、ある程度シチュエーションを決めてこの日は別れます。

 

アンは家に戻ると、一人でどうしたいのか、理想の形を考えます。

痛いのは嫌だから痛みや苦しみが少ない方法で死にたい。

 

それから綺麗に徳川に演出してもらう。

でも、それを自分の目で見なくて良いのか。

 

なら生きているうちに切ってもらわないといけないけれど、正気を保っていられるか分からない。

次に徳川と会った時、アンは臨床少女のように一枚の写真のような犯行現場を作りたいといいます。

 

自分で見られないのは残念だけれど、写真に撮ってお墓に供えてほしいと。

それなら別の場所で予行として再現すれば、自分でも見られるという話になり、後に別の場所で写真を撮ることにします。

 

しかし一方で、徳川はアンが本当に死ぬ気があるのかといまだに信じていませんでした。

その覚悟を見るためにどこでも切らせてと徳川は提案しますが、直前まで綺麗な状態でいたいとアンは拒否。

 

代わりに徳川は封筒を渡し、引いたら教えてと残して帰ります。

一人になって封筒を開けると、中には死体の写真が入っていました。

 

アンはもちろん驚きますが、舐めないでほしいと、自分は異常なんだと言い聞かせます。

撮影会

 

事前の撮影場所として、アンが選んだのは秋葉原にある安くて年齢を問わないスタジオでした。

二人は東京駅で待ち合わせることにして、アンは一人で新幹線に乗って東京に向かおうとします。

 

すると駅で倖と、つい最近まで芹香と付き合っていた津島に出くわし、言葉を失います。

倖はこのことは芹香に黙っていてほしいとアンにお願いしますが、どこか行ってほしそうな雰囲気があります。

 

アンは掛ける言葉が見つからず、逃げるように新幹線に乗り込み、東京駅で徳川と合流。

秋葉原のスタジオに入ると、いくつか衣装を借りて撮影を始めます。

 

AVや過激なグラビアを撮影しているであろうお店の雰囲気に押されつつも、次第に非現実的な空間に慣れていき、首を絞めてもいいと徳川にいいます。

すると徳川は躊躇いもなくアンの首を絞め、あまりの苦しみにパニックを起こします。

 

少しして力が緩み、アンは思い切り咳き込みますが、その光景を徳川に撮ってもらうようお願い。

それで撮影会は終了し、帰路につきます。

 

新幹線の乗る間、アンは中学生同士の男女心中はなかったかもしれないと思いますが、それでは恋愛が動機みたいではないかとアイディアを振り払うのでした。

未遂

 

翌日の終業式、倖と津島が付き合っていることが芹香の耳に入り、対立状態になります。

倖はアンも味方につけて芹香を孤立させたがりますが、それはやり過ぎだとアンは芹香と行動を共にして倖をイラつかせます。

 

一方、二人のことを知って黙っていたことが芹香にバレ、アンは芹香から無視されます。

学校にも部活にも行きたくありませんでしたが、徳川に殺してもらえることを希望に頑張ります。

 

そして、二学期の始業式の日。

芹香が自殺未遂しかことが伝えられ、アンは自分に出来なかったことを芹香がしてしまったことにショックを受けます。

 

しかも翌日には芹香は登校し、アンを共通の敵として倖と仲直りしていて、アンの居場所は本当になくなってしまいます。

しかもアンはまだ生理がきていなかったのでプールの授業も毎回ちゃんと出ていましたが、そのことも陰で言われ、ある時は水着をどこかに隠されてしまいます。

 

徳川が見つけてくれますが、もう顔を合わすのも嫌で部活も休みます。

そして、徳川に本気で事件を起こすことを宣言します。

 

そんなある日、河原で元カレの河瀬と出会い、彼の飼い猫であるネルが四月からいないだと教えられ、アンの脳裏には徳川が蹴りつけていたネズミの入った袋が思い浮かびます。

すぐに呼び出して問い詰めると、あっさりとネズミではなく河瀬の飼っていたネルだったことを認めます。

 

アンは河瀬とその妹が愛したネルを殺した徳川に対して激怒しますが、徳川は動じません。

別にネルを狙ったわけではなく、他にもたくさんの動物を殺したのだといい、改めてアンが本気で死ぬ気などないのだと見抜き、『事件』はやめると、殺す価値などないと言っていなくなります。

 

アンは本当の意味で徳川が殺せる人間なのだと実感し、迫る死の恐怖に怯えます。

引き返すなら今しかありません。

 

しかし、ふとアンは自分と徳川だけの事件を思いつき、電話で徳川に伝えます。

二人で事件を作り、その過程も全て残し、お互いに了承済みだということを世間に伝える。

 

改めてアンは殺害を依頼し、徳川もそれを了承します。

死に方について、来月に控えた決行日、十二月までになるべく苦しまない方法を考えますが、確実に死ねる方法を優先することにします。

 

またアンが死んでから体を切り刻み、川に浮かべて、臨床少女にある構図を作り出すことも決めます。

二人はあと一回、現場の下見だけすることを決め、その後はもう本番です。

 

そんな中、アンは気まぐれで徳川の家を見たいと向かいますが、そこで見たのは徳川と並んで歩く音楽教師、櫻田美代でした。

ただならぬ雰囲気に徳川は櫻田のことが好きなのだと思いますが、下見の日もそのことは言いません。

 

アンはノートを徳川に残し最初のページには『これは、オーダーメイドした事件』と付け加えられていました。

残りの二十ページほどを徳川に託し、当日の待ち合わせ時間を決めて二人は別れます。

結末

 

決行当日。

徳川は待ち合わせ時間から一時間も遅れてきて、さらに事件が出来なくなったといいます。

 

行くところがあるといい、怒ったアンと徳川はもみ合いになり、徳川のリュックからアーミーナイフが顔を出します。

アンは櫻田のところに行くのだと直感し、自分を殺してほしいと懇願しますが、徳川は殺せない、殺したくないと本音をこぼします。

 

その目は、怯えていました。

泣きそうな彼は真実を語ります。

 

櫻田は徳川の父親と付き合っていて、すでに妊娠もしている。

母親はすでに死んでいますが、小学校二年生の妹は櫻田を拒絶し、徳川家はめちゃくちゃな状態にありました。

 

だから徳川は、妹のために櫻田とお腹の子どもを殺すのだと。

しかし、アンは気が付きます。

 

それが本当なら今日でなくてもいいはず。

本当は自分のことを殺したくなくて、そのための口実に用意しただけなのではと。

 

その言葉で徳川の感情は爆発し、咆哮を上げ、アンは暴れないかと彼を押さえつけます。

そして、自分を殺せないなら一生誰も殺してはいけないといいます。

 

これで死ぬ方法はなくなり、明日も二人はこの現実を生きていかなければなりません。

気が付けば、朝を迎えていました。

 

アンは徳川の頭を撫で、涙を流します。

やり損ねたのだと。

 

そして二人は卒業まで一度も会話を交わさず、卒業するのでした。

その後

 

大学に進学するために、東京への引っ越しの準備をするアン。

今では周囲との折り合いのつけ方を身に付け、若く綺麗な母親を素直に自慢できるようになっていました。

 

そんなアンに来客があり、それは徳川でした。

彼が手渡したのは、あのノートと茶色い包みでした。

 

彼が帰った後、アンはノートに目を通します。

当時の自分を思い出し、途中でふいに見慣れない絵が描かれています。

 

それは臨床少女の構図で、最後のページまで二十枚近く描かれています。

最後の絵は断トツでうまく、つい最近描いたことが分かります。

 

そこに描かれていたのはアンでした。

光が差し込む水面の下に、アンの腕が切られて沈み、アンが水の中をのぞき込んでいます。

 

もしあの事件が起こっていたら、徳川が見るはずだった光景。

気が付けば、アンは徳川を追って走り出していました。

 

茶色の包みの正体は開けなくても分かります。

書店にあった臨床少女を買ったのは、きっと徳川です。

 

中学校の時にコンクールで入賞した絵を思い出します。

そこに描かれていた女性は、アンでした。

 

アンは徳川を見つけると、大声で呼び止めます。

事件が未遂で終わった今、余生を過ごしていると思って精々楽しく生きるしかない。

 

迷惑そうな徳川にアンは拒否されないかなとドキドキしながら言います。

東京の住所、教えて、と。

最後に

 

いかがでしたでしょうか。

とても大きなことをやろうとして、でも心情としてはどの子どもにも訪れる思春期のような一時的なもので。

 

結局は、徳川はアンに恋していて、アンもまた徳川にすがることであの時期をやり過ごしていました。

そして少しは大人になった今、その過去を超えて二人はどういう関係を築いていくのか。

 

全ての子どもでもない、でも大人になりきれていない少年少女を肯定する物語だったと思います。

 

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