『チヨ子』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
五年前に使われたきりであちこち古びてしまったピンクのウサギの着ぐるみ。大学生の「わたし」がアルバイトでそれをかぶって中から外を覗くと、周囲の人はぬいぐるみやロボットに変わり―(「チヨ子」)。表題作を含め、超常現象を題材にした珠玉のホラー&ファンタジー五編を収録。個人短編集に未収録の傑作ばかりを選りすぐり、いきなり文庫化した贅沢な一冊。
「BOOK」データベースより
今や誰もが知る宮部みゆきさんですが、実をいうと僕はあまり読んだことがありません。
本屋に行くとよく宮部さんの作品を見かけるのですが、どうしても手が伸びませんでした。
しかし今回、なぜか気が向いて『チヨ子』を読むことにしました。
いつもどこかのお店で見かけるので、表紙からホラーかな? なんて気になっていたので、いい機会だったのかもしれません。
本作は五つの短編で構成されていますが、メインはやはりホラーでした。
もちろんファンタジー要素もありますが、そちらは一応ある程度の認識でいた方が良いかもしれません。
ということで、今回は本書の魅力について短編ごとに解説していきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
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雪娘
前田ゆかりには小学校時代からの友人が三人いて、廃校になる前に一緒に飲もうということになり、その内の一人、山埜靖が営む居酒屋へと向かう。
しかし、実はもう一人、橋田雪子とい友人もいたが、彼女は十二歳の時、何者かによって殺されていた。
ゆかりは久しぶりに訪れる町を歩いていると、無意識のうちに小学校時代に通った通学路に来ていた。
ここの途中にあるタクシーのメーター検査場で、雪子の死体は発見された。
そこで、同じ気持ちで立ち寄っていた宇部真子と合流し、靖の店へと向かった。
店ではもう一人の友人、杉山次郎も待っていて、昔話に花を咲かす。
ある程度話が落ち着くと、話題は雪子のことになった。
すると、靖の妻が子供のお客さんが来たと言って、お店の戸を開ける。しかし、そこには誰もいなく、雪に足跡だけが残されていた。
これは雪子の足跡だ、雪子が来たのだといって、みんなでその足跡を辿る。
みんなの目には、死んだ日と同じ、赤いパーカーの女の子が見えていた。
しかし、ただ一人、ゆかりだけがその足跡を見ることができなかった。
そして、次郎は当時からずっと気が付いていて黙っていた。ゆかりが雪子をマフラーで絞め殺したことを。
ゆかりは雪子に嫉妬し、思いを寄せる次郎と並んで帰る雪子が憎らしかった。
後悔などなく、清々したとさえ思っていた。
しかし、あれから二十年、自分の手で殺めた者の幽霊を見ることさえできない人間に成り下がっただけだった。
十二歳のゆかりは、二十年前に自分の手で殺してしまったのだ。
オモチャ
商店街にある玩具屋さんの二階の窓から、真夜中になると、首吊りロープが下がっているのが見えるという話があちこちに広がっていた。
玩具屋の老夫婦は竹田さんといい、クミコの父方の祖父の弟、光男であることを引っ越してきてから知った。
彼は身内で揉めたらしく、親戚の誰もが彼の話題を口にしなかった。
光男が父に気が付いて声を掛けてきたが、特に懐かしむことはなく、その話はそれで終わった。
しかし引っ越してきてから三年後、光男のことを忘れかけていた時に警察がやってきて、光男の妻が亡くなったと言ってきた。
今から二か月前のことである。
老衰とみられるが、一応調べているという警察に、後から帰ってきた父が電話をし、それから玩具屋で光男と話した。
詳細は教えてくれず、それから特に何もなかった。
しかし、今更になって首吊りロープが見えるなんて話が出てくるのだろうと不思議に思うクミコ。
母は噂を言いふらしているのは警察ではと疑い、前に来た刑事を呼び出す。
あくまで子供たちが言い出した怪談のようなものに尾ひれがついただけだと刑事は説明するが、竹田家では遺産相続でもめ事があったことを教えてくれた。
亡くなった妻には前の夫との間にできた子供が三人おり、遺産を光男にとらせまいと追い出そうとしているということだった。
それから二日して、玩具屋の二階の物干しから、いたずらで首吊りロープがぶらさげられていた。
これにはお巡りさんも対応し、その後にはテレビ局が取材に訪れた。
それにつられて商店街の人たちも騒ぎ立て、クミコはだんだんと光男が可哀そうに思えて仕方なかった。
テレビ局が来て以来、玩具屋は閉めっぱなしだった。
クミコの両親もこの有様に怒り、その半月後、光男は亡くなった。
父は玩具屋に駆け付けたが、遺産相続を狙う子供たちに追い返されてしまい、葬式に出ることもなかった。
死因は病気なのに、首つり自殺だという噂が広がった。
また、それが違うと知っているはずの商店街の人たちもその噂を口にしていた。
光男が亡くなると、玩具屋は瞬く間に取り壊されてしまった。
それから二か月後、父とクミコは新しく出来た自転車屋に向かおうと商店街を通ったが、かつて玩具屋が会った場所に光男が幽霊のように立っているのを見つけた。
怖いのか悲しいのか分からないが、クミコは涙を流す。父も同じだった。
光男は隣の帽子屋さんの窓を見上げているが、他の人には光男は見えていなかった。
それから間もなく、帽子屋はお店を閉めた。
同じようなことがその後も続き、どうやら光男が立つお店は閉まってしまうらしい。
しかし、相変わらず光男はクミコを怖がらせないようにか、こちらを見ることはない。
そして今朝、商店街の近くに大きなお店が出来る予定で、その事前住民説明会が行われることが知らされるが、父も母も行く必要はないと不機嫌だった。
しかし、クミコは内緒で見に行くことを決めていた。
そして、そこに光男がいて、クミコを見て「怖がらせてごめんなぁ」と謝ってきたら、こっちも謝ろうと思っていた。
チヨ子
私は友達の紹介でスーパーの日雇いバイトに応募するも、なぜかくたびれてカビ臭い着ぐるみを着ることになってしまった。
ところがこの着ぐるみを着てみると、不思議なことが起きた。
なんと着ぐるみの目を通して見た人たちが皆、ぬいぐるみやおもちゃに見えるのだ。
そして鏡で自分を見ると、そこに映ったのはチヨ子と名付けた、小さい頃大好きだった白ウサギのぬいぐるみだった。
どうやら着ぐるみを通して見えるのは、その人が子供の頃に大好きだったおもちゃのようだ。
私は来るお客さんを眺めては、様々なおもちゃが歩き回る様を楽しむ。
また休憩中、チヨ子のほつれた箇所を直そうと思い、接着剤で応急処置を済ます。
バイトが午後三時になった時。
一人だけおもちゃではない、普通の男の子を見つけた。見た目から中学一年生だろうか。
不思議に思っていると、次の休憩の時にその彼が万引きで捕まっているのを見つけた。
スーパーの職員が親を呼んだが、来た母親もまた普通の人間にしか見えなかった。
しかし帰り際、二人の背中には黒い埃のかたまりのようなものが見えた。
それはきっと悪いもので、それに憑かれると悪いことをしてしまうのだと悟った。
私はこの不思議な力を持つ着ぐるみを売ってもらおうかと考えたが、突然着ぐるみがしゃべり出し、やめるよう言ってきた。
その言葉にハッと我に返り、自分にはチヨ子がいるもんねと言うと、着ぐるみは笑ったように見えた。
その晩、母に電話をしてチヨ子を確認してもらうと、ほつれたところは確かに接着剤で直っていた。
いしまくら
石崎は仕事から帰ると、娘の麻子から話を切り出された。
普段夕食後は部屋に引っ込んでしまう麻子が話を切り出す時、それはおねだりの時だった。
警戒する石崎。
麻子に回覧板を差し出されると、そこには町内にある通称『じゃぶじゃぶ池』に今年の一月に殺害された若い女性の幽霊が出没するという噂が流れていること、噂に踊らされぬよう父母はしっかり子供に指導することという文言が書かれていた。
その殺人事件については犯人が捕まっていて、犯人は浅井祐介という男だった。
死んだ被害者、八田あゆみは浅井と交際していたが、あゆみが別れ話を持ち掛けたことがきっかけとなって殺害されたと見られている。
麻子のお願い。
それは犯人逮捕後、あゆみに関する良くない噂話が広がっていて、その噂を払拭したいというものだった。
話の読めない石崎。
実は麻子には加山英樹という彼氏が出来て、あゆみに可愛がってもらっていた彼はその噂を払拭したいと思い、それを麻子が補佐するということだった。
そして石崎にお願いしたいのは、噂の出所を三人に絞ったので、インタビューについてきてほしいというものだった。
彼氏ができたことなど不満はあったが、娘の頼みを断ることはできず、まずは麻子の作成したレジュメを読んで事件捜査の進捗状況を把握することにした。
良く出来た調査に感心する一方で、加山の願ったこととは違う事実が判明した時、二人がこの事実から目をそらそうとしていることも伝わってきて、失望もした。
しかし、仕事先の上司である沢野は麻子のことを褒めていて、少し気持ちを持ち直す。
帰り、じゃぶじゃぶ池のある公園に立ち寄ると、この近くに『アルハンブラ』という今は廃業したラブホテルがあり、ここに新婚当時、妻の美弥子と自転車で来たことを思い出し、昔の良い記憶が蘇った。
その後、石崎は麻子に一週間の猶予をもらい、知り合いの刑事である北畠義美にこのことを相談してみた。
すると、北畠は麻子のレジュメを借りたいと申し出てきて、石崎はそれを了承した。
それから三日後、噂の出所と見られていたうちの一人、浅倉琢己が中野で起こった殺人事件の容疑者として逮捕されたという連絡が石崎に届いた。
そして、それは麻子のお手柄だという。
後日、北畠に電話すると、この事件の被害者の情報で凶器となった『巾着』のことは公開されていなかったが、浅倉への麻子の聞き取りにはこの巾着のことが書かれていて、それが逮捕の決め手になったという。
さらに後日、『アルハンブラ』の近くの出口で噂の加山と対面する石崎。横には麻子もいる。
その時ふと、通り過ぎる男女に若い頃の自分と美弥子を重ねる石崎。
加山は、石崎に『はじめまして』と挨拶する。
聖痕
子供の事案を専門に扱う『千川調査事務所』。
そこに寺嶋庚治郎という男がたずねてきた。東進育英会の副理事長である橋元の紹介だという。
わたし(所長、女性)が聞くと、寺嶋は飲食店を娘夫婦に任せ、抜けてきたのだという。
紹介者の橋元は店の常連で、今回の調査は娘夫婦には知られたくないものだった。
寺嶋が差し出したモノクロ写真には、一人の少年が写っている。
彼は和己という寺嶋の息子で、十二年前の事件で実母と内縁の夫を殺害し、その後学校で担任に傷を負わせた、世間で『少年A』と呼ばれる少年だった。
和己は寺嶋が元妻の柴田直子とのあいだにもうけた子供だが、離婚を機に疎遠となり、事件が起きるまでは何も知らなかった。
二十七年前、寺嶋は直子と知り合い夢中になったが、彼女には職場の金を盗む癖があること、離婚歴があって前の夫との間に子供がいること、ギャンブルに依存していることなどが判明し、親戚は結婚を反対するが、寺嶋は周囲の反対を聞かずに直子と結婚し、和己が生まれた。
寺嶋は直子の悪い癖を直そうと努力したが改善せず、逆に寺嶋と結婚する前から関係を持っていた柏崎紀夫の存在が浮上し、二人は離婚することを決めた。
和己に対しても親戚の風当たりは強く、結局、和己は直子が引き取ることになった。
その後、寺嶋は現在の妻と結婚し、和己はどうせ相模原に住む直子の親に預けられているのだろうと思っていた。
しかし事件の報道で、和己が幼少期から万引きなどを強いられていたこと、ろくに食事を与えられなかったこと、少年を好む客相手に取引をさせられたことを知った。
その後、自分の置かれた状況が異常であることを知ってしまった和己を直子たちは殺そうと考え、保険金までかけようとしていた。
このことを担任に相談するが、当時若かった女性教師は困惑し、さらにこのことを直子たちに話してしまったのである。
それがきっかけとなり、自分の身を守るために直子と柏崎を殺害し、担任にも傷を負わせることになった。
その後、寺嶋は和己と少しずつ距離を縮め、また和己が医療少年院に送られたことで心身共に回復し、現在は保護司のところで再出発を果たしていた。
しかし、問題はここからだった。
和己はある日、自分の事件のことをネットで調べると、『黒き救世主と黒き子羊』というサイトを見つけ、そこではなぜか少年Aが自殺したことになっていて、「少年Aが生まれ変わって人間を超えた存在になる」というストーリーに賛同するグループが生まれていた。
その後、このストーリーをお持ち出した『てるむ』は『犠牲の子羊』というサイトを立ち上げ、このグループの勢いはさらに加熱する。
そして、半年後、ユダス・マカバイオス(ヘブライ語で鉄槌のユダ)と名乗る人物が現れ、瞬く間にこのサイトを掌握してしまう。
そこでは少年Aの生まれ変わりを黒き救世主と呼び、子供や力弱い女たちを虐げる悪魔と戦って勝利しているとされていた。
その勝利は、実際に事件として起きたものとされ、救世主の御業と呼ばれていた。
和己は知らないことで人殺しにされていることに怯え、それでもサイトを覗かずにはいられなかった。
そして、子羊たちが『聖戦』だと騒いだ事件を調べたいと和己は言い、寺嶋と共に事件現場へ行った。そこで黒き救世主を見て、しかもその顔は自分のものだったという。
それ以来、和己は完全に事件のことを口にしなくなり、諦めているようだった。
そして、寺嶋はこの件について調べてほしいとわたしに依頼した。
わたしは調査を行い、真実を伝えるべきだといい、和己と二人で会うことにした。
そして、新しく起きた事件の現場に向かい、黒き救世主が見えるか確かめることになった。
事件現場に着くも、今回は黒き救世主は見えない。
わたしは見えなくて正解だと答え、事件の詳細が書かれたファイルを和己に手渡す。
そこで知らされる真実。
わたしこそが、『鉄槌のユダ』だった。
わたしは正しい人を救えないことに憤りを感じて独立するも、現実は変わらなかった。
そんな中で『てるむ』の書き込みを見つけ、自分も『鉄槌のユダ』を名乗って書き込むようになった。
わたしの作った物語が受け入れられたことで満足する一方で、子羊たちが暴走するようになっていたので、そろそろ潮時とも考えていた。
そこに現れたのが寺嶋と和己だった。
そして和己が黒き救世主を見たことで、祈りが届いて物語が成就したのだと感じた。
この狂気に怯える和己だが、わたしはお構いなしに和己の見た黒き救世主のことを聞く。
彼は怖くなってその場を逃げ出し、後日、駅のホームから電車に飛び込んで自殺した。
わたしに何かを吹き込まれたと思った寺嶋が事務所に乗り込んできて、揉み合いになる。
すると、そこに黒き救世主が現れた。
わたしは一瞬だけ触れるが、すぐに飛散し、そこにはわたしと寺嶋だけが残されていた。
触れた時に出来た血の色をした痣。
わたしは、これが聖痕なのだと信じていた。
おわりに
全体を通して明確な答えは描かれておらず、特に最後の『聖痕』に関しては宗教の面が大きく取り上げられ、内容としてはいまいち意味が分かりづらいものになっています。
明確な答えを求める人からすれば、すっきりしないかもしれません。
しかし、文章からは不気味さがにじみ出ていて、うすら寒さを覚えるほどでした。
未読の方がいたら、ぜひ読んでみてください。
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