『アンデル10』あらすじとネタバレ感想!
【新創刊10号は思索を誘うラインナップ】
〇野口あや子さんが詠む秋の20首。
〇村上春樹さんが訳すA・デビュース「太った娘」。
〇読み切り短篇は吉田篤弘さんの「てくてく」。
〇朝比奈秋さん「アンチエイジングクラブ東京」の若返り医療から目が離せない!
〇小川糸さん「メープルシロップ」は森を舞台にした癒しと再生の物語。
○坂口涼太郎さんの「手仕事」エッセイ。
〇好評コラム「全国銘菓帖」は吉本ばななさん&大門剛明さん。
○コジヤジコさんの回文、はらだ有彩さんのコミック、
ひらいめぐみさんのエッセイ、最果タヒさんの詩、アート紹介まで。わずか80ページに、
たくさんの「物語と出会うきっかけ」を詰め込みました。
親しみやすく手に取りやすく、
毎月、「豊かな1時間」をあなたと共に
――そんな小さな文芸誌です。【中央公論新社創業140周年記念】
Amazon内容紹介より
【期間限定復刊!】
シリーズ十弾となる本書。
前の話はこちら。

今回は村上春樹さんが訳した海外小説が掲載されていて、いつもと違うテイストに戸惑いつつも、かなり面白く読みました。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想などを書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
太った娘【アンドレ・デビュース/村上春樹 訳】
ルイーズは九歳の頃から、母親に言われて食事を厳しく制限していました。
母親は太りやすい体質で、美しい肉体を維持するために食事は極めて少なく、ルイーズにもそれを強いました。
ルイーズは母親に従い、彼女と同じような食事をとりますが、親の目を盗んではこっそり何かを食べるような生活を送っていました。
この物語では、ルイーズがどのような人生を歩んでいくのかを描いていますが、そこにはいつでも食べ物や肥満などの話題がありました。
ツェツェとアリサ【吉田篤弘】
ツェツェは無口な靴職人でした。
ある日、人の言葉が話せる灰ネズミから、来月開催される靴の見本市に参加するべきだと言われます。
もう一方、アリサはコーヒー店を営んでいて、客は彼女のコーヒーを飲むと穏やかな顔つきになり、店は大繫盛していました。
しかし、それと引き換えにアリサは目が回るほど忙しく、穏やかとは対極の位置にいました。
そんな接点のない二人が、本書で出会いを果たします。
アンチエイジングクラブ東京【朝比奈秋】
宿谷は小澤からの申し出に怒りを露わにしますが、小澤はうちは他の美容クリニックとは違うことを説明します。
フローラ移植は宿谷の研究内容ですが、あくまで彼はアドバイザーであり、一切の患者対応は長谷川という医師が行うこと。
給与は破格であり、しかも名目は講演料としては毎月五万円だけ振り込み、残りは手渡しのため記録は残りません。
しかも宿谷の勤務実態は残さないため、誰が調べても宿谷に辿り着かないようにするという徹底ぶり。
宿谷は子どもをインターナショナルスクールに通わせたいという願いを持っていて、小澤の言葉に揺れ動きます。
感想
異色作
本書は冒頭、いきなり村上さんが訳した小説が掲載されていて、従来の読者であれば多少なれども驚いたのではないでしょうか。
村上さんといえば数多くの翻訳小説を手掛けているので、それ自体には驚きません。
僕ははじめて村上さんの翻訳小説を読んだのですが、これがかなり面白かったです。
一人の女性と体形についてずっと描かれるのですが、彼女の周囲の人間は彼女の体形によってコロコロと態度を変えて読者までも不愉快にしてきます。
現代では表立ってそのような態度をとることは減ってきたかもしれませんが、根底には変わらずあると思っていて、それがルイーズ目線で描かれます。
それに対して時代ごとにルイーズが何を感じ、何を思い、どのような行動に移すのかも面白かったです。
自分の人生を自分で獲得していく過程は解像度が高く、生きづらさを感じている人にとってヒントになるのでは、なんてことも思いました。
村上さんの翻訳も違和感なく、十分楽しめました。
本作が収録された小説集が十一月上旬に刊行されるということで、マーケティング要素を感じつつも、面白い作品を広げることは読者にとってもメリットなので、良い試みだったのではないでしょうか。
不思議な作品
今回も長期連載は相変わらず面白かったのですが、それよりも吉田篤弘さんの『ツェツェとアリサ』が非情に印象的でした。
灰ネズミが登場してツェツェと言葉を交わすシーンはまるで絵本の世界で、何となく『田舎のネズミと町のネズミ』を思い出しました。
ツェツェの描写はあっさりしていて、物語が終盤にいくまではアリサがメインになります。
誰かの忙しさと引き換えに、誰かが安らぎを得る。
世の中の心理がアリサの仕事を通して明確に提示されていて、自分にも刺さるものがありました。
社会的なメッセージがありつつも、ツェツェとアリサの出会いは絵本的な幸福さを提供してくれて、アンデルであまり見ないタイプの作品であると同時に、個人的にはまった作品でした。
おわりに
今年も残り二ヵ月分。
あっという間であり、2026年を伴走してもらった感覚すらあります。
だいぶ秋の色が濃くなってきたので、ここに冬の色が入り込むことによってアンデルがどのように変化するのか。
今から楽しみです。
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