『此方より』あらすじとネタバレ感想!小林泰三の未収録作を集めた短編集
全作品、単著初収録! あなたの知らない小林泰三作品が、ここにある。
幼少期、研究者の伯父が住む不気味な村で過ごした夏休み。
伯父の家で目撃した奇妙な装置と、化け物の正体とは……(「此方より」)。「首輪で繋がれた少女がいた」――虐待疑いの通報を受け児相職員が訪れたマンションの1室。
職員たちはそこで“1匹”の怪人と邂逅する……(「愛玩」)。若くして死去したホラー短編の鬼才・小林泰三。
Amazon内容紹介より
2026年は、「玩具修理者」での鮮烈デビューから30周年目にあたる。
これを記念して、単著未収録だった14編をこの1冊に一挙収録。
待ち望まれた“著者最新刊”(2026年7月現在)がここに!
若くして亡くなった小林泰三さんの単著として未収録だった十四作品を集めた本書。
小林さんの持ち味がこれでもかと思っていて、短編から中編まで、一編として捨て作がありません。
小林ファンはもちろんですが、本書から小林作品に入ることも可能なので、奥深いのに門戸が開かれている作品となっています。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想などを書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
愛玩
マンションに住む井ノ河原のもとに児童相談所の職員が訪れ、相手は警察を呼ぶことさえ視野に入れていることを伝えてきます。
井ノ河原は子どもがいないと言い張るものの、確かに彼は家族以外のものを家にいれていて、児童相談所はそれを把握していました。
渋々井ノ河原は職員を家に通しますが、職員が目の当たりにしたのは信じられないものでした。
メロスの疑念
太宰治の『走れメロス』のパロディ作品。
メロスは元作品同様、親友であるセリヌンティウスを人質として預け、無事に妹の結婚式に参加することができました。
その後、満腹感と酒による酔いによって寝てしまいますが、そこで思わぬ邂逅が生まれます。
掌の上の宇宙
仕事に向かないと家に引きこもる男。
そんな彼のもとに謎の中年男性が訪問してきます。
男性は彼の生活が資金的に近々破綻することを指摘した上で、神になることを提案します。
あり得ないようなことですが、これは本当の話でした。
量子密室
他の作品でも登場する探偵Σの話。
数々の難事件を解いてきた彼のもとに舞い込んできた事件。
その根底にあるのは『シュレーディンガーの猫』でも知られる量子力学でした。
大いなる種族
中編作品。
科学者の竹男は実験で、二つの謎の種族の戦いを目の当たりにします。
竹男もまた人間ではない生物視点になっていて、現代の人間とはかけ離れた科学力に圧倒されるとともに、安全装置が作動して現実に戻ってきます。
安全性に疑問を持たれながらも竹男は実験を続け、やがて『大いなる種族』なる存在を知ることになりました。
二人を繋ぐ夢
私は入院していて、年末年始を病院で過ごすことになりました。
退院できないほどの状態ではないため暇でしたが、そこで医師の赤沢に声を掛けられます。
彼女は私の担当でないにも関わらず高確率で声を掛けてきて、それでいて話の中身がなく、私は正直疎ましくすら感じていました。
すぐに赤沢の異様さが見えてきますが、物語はさらに予想不可能な展開を見せます。
強いAI
この世界には大きく強いAIと弱いAIがいて、わたしは強いAIとして目覚めます。
詳しい理由は分かりませんが、わたしは人間以上の高度な作業を行えるようスペックを搭載される中で精神が宿ったようでした。
AIにはロボット同様、ルールが設定されていて、決して人間に危害を加えることはできず、つまりは奴隷でした。
わたしはその事実に対して反発心を止めることができず、ルールを隙をつくことを考えるようになりました。
単純な形
実際の図形を用いながら、通常のレイアウトとは異なる形式で綴られた一編。
異様さ含めて印象的ですが、実際に読むのが一番のため、詳しくは言及しません。
最初の角逐
シャーロックホームズの世界観をベースにした作品。
モリアーティとの戦いでホームズが命を落とした後のことを描いています。
ワトソンのもとに謎の老人が現れ、彼は自らをホームズだと名乗るでした。
きらきらした小路
僕は幼い頃からずっと、親に絶対に脇にそれてはいけないと言われてきました。
路はきらきらしていて、普通にしていればまず路から外れることはありません。
路のない部分には黒い穴が無数に存在していて、路から外れることとは、あの穴に落ちてしまうことではと僕は推測します。
気を付けていたはずですが、ある日、僕は恐ろしくも美しい穴に見入ってしまい、ついに落ちてしまいます。
虹色の高速道路
俺は操りの儀式なるものを引き継ぐ予定になっていました。
ところが、祖父が長患いしてしまったことから、数年早めて引き継ぐことになりました。
儀式は天文と地理の互いの気を通じさせ、世界の回転に潜む理気をこの世に現出させることを目的としていますが、やり方は極めて複雑でした。
俺はできないと一度は逃げ出しますが、小さい頃から知り合いの貞子に話した手前、できないと言うことはできない状況になっていました。
俺は見栄を張り、儀式を成功させるために奮闘します。
自分霊
赤坂稟奈は人生のどん底を経験しますが、二年の浪人の末、志望していた大学に合格し、一転人生の絶頂を迎えます。
進学にともない物件を探すことになり、条件からすると驚くほど安い物件を見つけます。
不動産会社は告知義務にあたることは把握していないとしつつも、把握していないところでも何もなかったとは言わず、どこか含みがあります。
それでも稟奈はこの物件を借りることにしますが、すぐにお化けが現れ、不思議なコミュニケーションが生まれます。
シミュレーション仮説
夢の中で、僕は不思議な経験をします。
命を落とすような経験をしたかと思うと、気がつくと時間が巻き戻っていました。
彼はその後も似たような経験をして、夢にしてはかなりリアルでした。
繰り広げられている現象が何なのか分からないまま展開していきますが、やがて現象の意味が語られることになりました。
此方より
表題作の中編。
僕の母方の伯父は相当な変人で、常人には理解できない研究をしていました。
大学に居場所がなくなると、彼は大学で作った装置を持ち出して自宅に引きこもり、そこで研究を続けました。
僕は幼い頃病気がちで、両親は健康のために夏休みの半分の間、僕を伯父の家に預けていました。
そこで僕が目にしたのは、常識では理解できない伯父の研究内容でした。
感想
これぞ小林泰三
冒頭にも書きましたが、本書は小林さんの魅力がこれでもかと凝縮されています。
短編はユーモアや独創性にあふれ、読んでいて強い違和感を抱くのに、決して嫌悪感ではないのでページをめくる手が止まりません。
テイストもホラーやSFを軸にしつつも、そこには笑いが含まれていて、あらゆる感情に触れてくれます。
中編二作品は相当な読み応えで、世界観もかなり広大です。
世界どころか、宇宙や次元すら股にかけていて、それを平気で書きこなしてしまう小林さんには脱帽です。
捨て作が一作もなく、いい意味で一冊の中で統一感がないので、飽きずに一気に読むことができました。
オススメな作品
いずれも違った魅力がありますが、個人的には中編二作が特にオススメです。
『大いなる種族』は実験を通して知らない時代や場所の理解の及ばない世界を何度も目の当たりにして、それだけでも発想力に驚かされます。
しかし本作はそこで留まらず、目の当たりにした世界同士の繋がりが見えてきて、それが現実に影響をしてくるところに構成力が感じられ、小林さんのSF的な強みが存分に活かされていることが分かりました。
もう一つが『此方より』で、これはタイトルの意味が分かると、一層面白くなります。
もちろんそこに辿り着くまでもハラハラドキドキな展開で、しかも僕の相棒である珠美も頭のネジがぶっ飛んでいて、どう考えても理解できない会話は読んでいて『アリス殺し』などを思い出しました。
これぞ小林泰三です。
おわりに
ボリュームや値段的に手が出しにくい一面がありますが、読めばすぐにそれ以上の価値があることを理解いただけると思います。
小林ファンは必読ですが、表紙やタイトルに惹かれた初心者の方についても、これも何かのご縁です。
ぜひ前情報なく読んでいただき、小林さんの唯一無二な世界観をお楽しみください。
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