『禍』あらすじとネタバレ感想!人体をモチーフにしたホラーが読者を侵食する
『このホラーがすごい!』第1位!
Amazon内容紹介より
目から、耳から、口から、破滅が侵入する――。
第43回吉川英治文学新人賞&第43回日本SF大賞受賞の『残月記』著者による、怪奇小説の極北。
一枚食べたらもう引きかえせないからね――。
小説家の〈私〉は未施錠の多目的トイレで本のページを貪り喰う女を目撃する。
女の警告に挑むかのように、私は蔵書から一冊を選び取り……(「食書」)。
一泊二日で十万円。三十三歳、無職の〈私〉は怪しげな仕事を請け負う。
他言無用の宗教儀式、そこには長い黒髪の女ばかりが集まっていた(「髪禍」)。
人生を逸脱することの恐怖と恍惚に極限まで踏み込む七編。(解説・大森望)
寡作なことで知られている小田雅久仁の作品である本書。
人体のパーツにまつわる七つの短編で構成されていますが、どれも異様で、読んでいると狂気に飲まれそうな感覚に陥ります。
現実と非現実の境界が曖昧になる読み心地は唯一無二といっていいほどで、ファンの方でなくともホラー好きであれば必読です。
本書に関する小田さんへのインタビューはこちら。
小田雅久仁さん「禍」10年越しの短編集 耳、口、鼻…体のパーツに潜む恐怖
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想などを書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
食書
主人公は一昨年に離婚して、一人でアパートで暮していました。
小説家ということで本屋に行く習慣がありますが、ある日、男女兼用の個室トイレに入ると、空室かと思いきや女性がいました。
女性は便器の蓋をおろしてその上に座り、本を食べていたのです。
逃げようとする主人公ですが、女性は絶対に食べてはいけない、食べたら引き返せないと謎の言葉を残してどこかに行ってしまいます。
普通であれば奇妙な体験で片づけられますが、主人公は本を食べたらどうなるだろうという想像に囚われ、ついに実行します。
耳もぐり
中原という男性が私に会いにきて、私が一方的に話すというスタイルで進行します。
中原は香坂百合子という女性の行方を探していて、彼女は三ヵ月もの間、行方をくらませていました。
私が百合子と同じアパートに住んでいて、隣の部屋ということで何か知っているのではという推測のもとの訪問でしたが、私はまさに百合子のことを知っていました。
何なら三ヵ月もの間、私と彼女は一緒に中原のことを待っていたのだといいます。
そして私が語り始めたのは、耳もぐりについてでした。
喪色記
主人公である彼は物心ついた時から視線が苦手でした。
向こうから人が歩いてくれば目が合うのではと落ち着かなくなり、目が合えば強烈な違和感にさらされます。
その違和感の原因を探ると、目がどこか別の世界に繋がっているのではという感覚に起因していることが分かります。
やがて彼は上司との関係に悩んで休職しますが、そこで二つの問題に悩まされます。
一つは『ざわめき』と呼んでいる感覚で、もう一つが『滅びの夢』でした。
柔らかなところへ帰る
彼は幸枝と結婚して、彼女のような瘦せた女性が好みなのだと思っていました。
実際には幸枝が初めての女性であり、現在では肉体的な夫婦の営みがしばらくない状態です。
そんなある日、彼はいつも乗っているバスに乗ると、隣に大柄の肥えた女性が座ってきます。
はじめは特に何も思っていませんでしたが、やがて彼女の肉体から目を離せなくなってしまいます。
女性もどこか誘うような雰囲気がありますが、何もせずバスを降りてしまい、それ以来、彼の頭の中は女性のことで一杯になってしまいました。
農場
井上輝夫は会社の倒産によって職を失い、新天地を求めて東京に来るものの、今度は雇い止めを食らってどうしようもない状況に追い込まれます。
公園のベンチで持っている本を読んでいると、見知らぬ初老の男性から声を掛けられます。
篠田と名乗る男性は井上に新しい仕事を紹介してくれるといい、一緒に車で移動しました。
何をやらされるのかも分からずついていった先にあったのは、『農場』と呼ばれる場所でした。
髪禍
私の母親は男性関係で苦労してきましたが、私も母親に似た美しい容姿を持ち、男性に苦労していました。
四年前に夫と別れ、現在は三十三歳。
原因不明の眩暈に悩まされ、新たな仕事を探すこともできずにいました。
そんなある日、私がかつて勤めていた風俗店のマネージャー・脇田から悪魔のような誘いを受け、私はとある宗教儀式のサクラをすることになりました。
裸婦と裸夫
圭介は通勤電車に『現代の裸婦展』という中吊り広告を見て、その企画について思いを巡らせます。
かつては漫画家を目指していたこともあり、絵には思うところもありました。
圭介はそのイベントに一人で行くことにしますが、電車で妄想にふけっていると車内が騒がしいことに気が付きます。
そこにいたのは裸の中年男性と裸の若い女性でした。
感想
想像を超える創作
小田さんの作品を多く読んだわけではないのですが、共通していると感じたのは想像を超える創作だという点です。
創作の多くは現実ではなかなか起こりそうにない、現実離れした内容です。
一方で、現実離れであっても想像できる範囲、というのが大体の作品です。
しかし、小田さんの作品は僕のちっぽけな想像を超え、描写されてもなかなか理解できない世界を突きつけてくるのですから、インパクトは絶大です。
理解が進まないシチュエーション。
読めば不快感が募ると分かっていても、なんとか今目の前で起こっていることがなんなのか知りたくて一心不乱に読んでしまう。
そんな強制力を本書から感じました。
表現が難しいのですが、読者のための作品ではなく、こうありたいという作品が生まれて、それを読者が読んでいるという感覚がしました。
生理的な嫌悪感
本書を端的に言うと気持ち悪いです。
読んで想像して、気持ちの良いというものではありません。
圧倒的な恐怖によるシンプルなホラーというよりも、気持ち悪いものを極限まで丁寧に描写して、目を離したいのに離せないという感じです。
ここまで徹底したこだわりこそが本書を唯一無二にしているのではないでしょうか。
何度も読みたいと思いませんが、読んで良かったことは間違いありません。
オススメ作品
個人的に特にオススメな作品は『食書』『耳もぐり』です。
モチーフと発想が分かりやすいところも良いですし、それでいて僕の想像を超えた奥行きがあるところが気に入りました。
特に『食書』は読書家を自負する僕にとって、シンプルに気になる内容でした。
しかしあの行く末を読んでしまうと、とても本を食べようとは思いません。
そもそも、どういう時に『本を食べたら・・・』という発想になるのだろうという素朴な疑問もわきました。
おわりに
小田さんの作品が自分にとってジャストフィットしていないことは理解しています。
しかし、この良さを理解できないともったいないのでは?という強迫観念もなぜかあり、そこが小田さんの魅力ではないのかとも思っています。
僕は小田作品の魔力に取り憑かれてしまっているのかもしれません。
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