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『走馬灯のセトリは考えておいて』あらすじとネタバレ感想!ネタ物かと思いきや極めてハードで上質なSF作品

harutoautumn
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祝・柴田勝家(武将)生誕500周年 文化人類学、SF、バーチャルアイドル――《信仰》をテーマに繋がる柴田勝家の真骨頂。「クランツマンの秘仏」ほか全7篇の短篇集

Amazon商品ページより

タイトルに惹かれ、セールということもあり購入したのですが、良い意味で大きく裏切られました。

ネタ要素も含みつつも、どのSFもそれなり、あるいはかなり重厚で、読み応えがあります。

中には全てを詳細に読むことは難しいほど情報量が多く、二、三度読みの楽しみもあるほど楽しみにあふれていました。

ちなみに表題作は『世にも奇妙な物語』の一編としてドラマ化もされています。

https://www.fujitv.co.jp/kimyo/interview202311-04.html

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

オンライン福男

正月になると、全国の神社で福男を決める行事が開催されています。

ここまでは実際にもあることですが、この物語ではコロナ禍の到来により、オンラインでの福男を決めるイベントへと移行されます。

はじめは感染対策でしたが、やがてオンライン福男という行事として盛り上がりを見せるようになり、VRを使用したヴァーチャル空間での競争が繰り広げられるようになります。

クランツマンの秘仏

ヨアキム・クランツマンという人物は、東洋の女神像を見て心を奪われ、それ以来、仏像に傾注していきます。

そして彼は『クランツマンの秘仏』という思考実験を思いつきます。

それは、信仰が質量を持つというとんでもないものでした。

この物語は、ニュースや歴史書のように淡々と、クランツマンの常軌を逸した考えや実験を描いています。

絶滅の作法

ある日、地球上の生物が絶滅してしまいました。

それでも佐藤をはじめ、人間が普通に暮らしていますが、彼らは地球から遠く離れた星からやってきた異星人でした。

やってきたといっても本体は母性にあり、情報に変換した思念体を地球に送ることで生活していました。

佐藤たちは人間に擬態して暮らし、失われつつある人間の文化を再現しようとします。

火星環境下における宗教性原虫の適応と分布

生物学のような話。

宗教性原虫なるものが登場し、彼らは宗教生物学なる怪しい分野で扱われています。

宗教性原虫は原生生物の要素を持ちつつも、それらと明確に区別することは困難であり、また宗教性原虫に現在は含まれている哲学的原虫はさらに分類が必要であると考えられています。

このように架空の研究が繰り広げられるわけですが、これがとっつきにくくも、気が付くとのめり込むような内容になっています。

姫日記

一番のネタ作。

主人公は軍師であり、毛利元就という三つ編みの眼鏡をかけた少女に仕えることにします。

この選択が苦難の始まりだったわけですが、軍師はそのことを知りませんでした。

走馬灯のセトリは考えておいて

バーチャルアイドルの黄昏キエラのラストライブが始まりますが、なんと彼女はもうすでに亡くなっていました。

そう、彼女はAIが生み出したものであり、彼女が引退するのはこの世でした。

これは、人生造形師(ライフキャスター)とかつて人気を博したバーチャルアイドルの物語です。

感想

タイトルに騙されないで

タイトルや表紙に興味を持って、あるいはドラマを見て本書を購入した人も多いのではないでしょうか。

そして、読んで想像していたものと大きくかけ離れていることに驚いたのではないでしょうか。

表題作は比較的ポップでネタ的な要素もありますが、単なる色物というわけではなく、SFの裏にある感傷的な部分が良い味を出していて、これから技術が進展していく中での良い道しるべになるのではと感じました。

他の作品も同様で、かなりハードでSFを読み慣れている人でも読みにくいものもあれば、斬新な切り口に心を躍らせた人もいると思います。

これだけ多種多様でまとまりがないものを一冊にして世に送り出す。

そう簡単にはできないことなので、まずは本書に出会えたことに感謝です。

特にオススメ

どれも面白いことを前提でオススメをあげるのであれば、僕は『クランツマンの秘仏』と『姫日記』をあげます。

前者は歴史書のようなドラマ性の乏しい文体に狂気じみた考えが息づいていて、読み進めるごとにクランツマンの思想に感化されていくかのような感覚が面白かったです。

後者は単純に軍師と姫が可愛いです。

特に軍師側の考えや行動には、身に覚えがある人もそれなりにいるのではないでしょうか。

見慣れたラノベ感もあり、取っつきやすい点も良かったです。

おわりに

柴田さんの作品は初めて手に取りましたが、想像を遥かに超えて面白かったので驚いています。

間違いなく今後も追っていきたい小説家なので、活躍を期待したいと思います。

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