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『日本SFの臨界点 石黒達昌 冬至草/雪女』あらすじとネタバレ感想!

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3か月連続刊行の作家別傑作選第3弾。科学の暗部を暴き出す、文學界初出「冬至草」をはじめ文芸界が絶賛する伝説的作家の傑作集

Amazon商品ページより

『日本SFの臨界点』短篇集三部作の最後を飾る本書。

シリーズの中でも重厚かつ非常に重たい読後感をもたらす作品が多く、じっくり読めるよう最後に据えられた作品です。

一般的なSF作品を求める人からすると当てが外れたと感じる人もいるかもしれませんが、各テーマを突き詰めたその作風は一部の人に強烈に刺さること間違いありません。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

希望ホヤ

二十年前、小児癌に苦しむ娘を治すための方法を考えたダン・オルソンという男性がいました。

七歳の娘・リンダは背中に痛みを訴え、それがきっかけで神経芽細胞腫という病気に侵されていることが判明します。

すでに手遅れのところまで進行していて、余命はあと一年。

両親はリンダを待つ過酷な運命を嘆きますが、ダンは今の自分にできることを精一杯考えます。

勉強すればするほど、どうしようもない現実を突きつけられる中、ダンは旅行で訪れたカンダ島のレストランで希望ホヤと出会います。

冬至草

二〇〇一年、旭川市の郷土図書館でとある押し葉が発見されます。

それは冬至草という和名で、北海道最寒の地、泊内村周辺に第二次世界大戦直後まで生息していました。

冬至草はウランを含んだ土壌に生息したため放射線を帯びていて、放射線を浴びながら生息していた植物はほとんど例がありません。

今まで注目されていなかった植物がにわかに注目されるようになり、私は現地に赴いて調査を始めます。

王様はどのようにして不幸になっていったのか?

物語の舞台は、とある国。

その国はそれまで何も変化せずに歴史を重ねてきましたが、ある王様が王位に就くと突然、飛躍的な発展を遂げます。

国民は王様の盲目的に信頼していましたが、それは不幸の始まりでした。

この物語では、この国がどのように発展して、どのように悲劇を迎えるのかが描かれます。

アブサルティに関する評伝

アブサルティは実験の鬼で、科学者として優秀な成績を収めます。

ところが、どの科学者も彼の事件を倣っても成功せず、疑問を抱いていました。

そんなある日、私はアブサルティの実験机に置きっぱなしの試料を見つけ、ガイガーカウンターが妙な反応をしていることに気が付きます。

アブサルティが使用しているのはリンの放射線物質のはずなのに、ガイガーカウンターの反応はヨウ素化合物のそれで、私はアブサルティの実験データが捏造だったことに気が付きます。

或る一日

何らかの事情で重度の放射線汚染に見舞われた国を描いた物語。

異国からボランティアとして訪れた私は、汚染中心地から五百キロ離れた病院で治療にあたっていました。

設備が万全とはいえず、そんな中で次から次へと重症の小児患者がやって来る。

汚染中心地から離れているとはいえ、決して安全とはいえない状況からくる緊張感。

人の死があっけなく描かれ、物語は異常なほど淡々と進行します。

ALICE

一九九二年、とある刑務所で事件が起きます。

当時、収容者の治療にあたっていた精神科医・aliceは人質として囚われ、約二年六か月という異常な長さが経過します。

その後、aliceは担当患者で犯人であるAliceを射殺し、事件は終局は迎えます。

事件はなぜ起き、どのような経過を辿って終わりを迎えたのか。

この物語では、偶然名前が同じ、Aliceとaliceのやりとりが描かれます。

雪女

旧陸軍図書館の書庫から出てきた資料の中で、『体質性低体温症』という珍しい症例が報告されていて、当時の状況について軍医だった柚木のカルテ、日誌、彼のサポートをしていた看護師の証言をもとに再現されていきます。

当時、昏睡状態の女性が発見されて柚木が診察したところ、女性は体温、脈、呼吸数ともに健常人に比べて明らかに低いにも関わらず、状態は安定していました。

記憶喪失であることから女性はユキと名付けられ、経過観察が続きます。

柚木ははじめ軍の研究の一環としてユキを調べますが、やがて個人的な興味からのめりこみ、やがてこの体質性低体温症にまつわる様々なことが明らかになります。

平成3年5月2日、後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士、並びに、

すでに亡くなっている明寺伸彦博士と榊原景一博士。

彼らはハネネズミ研究をしていて、このパートでは両博士の遺族の許可のもと、実験日誌と日記を引用した研究の様子が描かれます。

ハネネズミは一九八九年に絶滅していて、北海道の一部地域のみに生息していました。

人工飼育、繁殖が困難であり、ネズミの中でも特殊な生態を持っていました。

とある論文によって一大ムーブが引き起こされ、研究者たちはこぞってハネネズミを求めました。

感想

とにかく濃厚

本書に収録されている作品の著者・石黒さんは本書が出版された時点でデビューから三十二年が経過しているベテラン作家ですが、発表された作品は中短編で三十作品のみ。

決して数が多いわけではありません。

しかし、その分というか、一作がとにかく作りこまれていて、まるでノンフィクションを読んでいるかのようなリアリティを覚えました。

ハードSFとはまた違う感覚で、石黒さんならではの魅力を発見できたことは、本当に幸運でした。

『Alice』がオススメ

どの作品も方向性が違っていますが、個人的にはミステリ・サスペンスが好きということもあって『Alice』が特に刺さりました。

約二年六か月にもわたって続いた人質事件。

結果として、人質が犯人を射殺して終わりを迎えるわけですが、閉ざされた空間で一体何があったのか。

Aliceとalice。

偶然に名前が同じ二人の女性を中心として描かれ、様々なアプローチによる精神分析は非常に興味深かったです。

おわりに

一気読みできるような簡単なものではありませんが、その分、じっくり読むことでいつまでも胸に残る濃厚な読書を楽しむことができます。

ノンフィクションのようなテイストが好きな人には、特にオススメです。

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