『愚者の毒』あらすじとネタバレ感想!過去の因縁が現代を蝕む
一九八五年、上野の職安で出会った葉子と希美。互いに後ろ暗い過去を秘めながら、友情を深めてゆく。しかし、希美の紹介で葉子が家政婦として働き出した旧家の主の不審死をきっかけに、過去の因縁が二人に襲いかかる。全ての始まりは一九六五年、筑豊の廃坑集落で仕組まれた、陰惨な殺しだった…。絶望が招いた罪と転落。そして、裁きの形とは?衝撃の傑作!
「BOOK」データベースより
宇佐美まことさんの作品を別のホラー小説で知り、本書を手に取りました。
職安で偶然出会った同じ生年月日の二人の女性。
お互いに秘密を抱えながら友情を育てていくわけですが、とある事件をきっかけに薄暗い過去にスポットライトが当てられることになります。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
出会い
香川葉子は職安で紹介してもらった会社の面接を受けますが、途中で先方に送られていた履歴書が別人のものであったことに気が付きます。
面接後、葉子はそのことを伝えに職安に行きますが、そこで同じく間違われた石川希美と出会います。
名字が県名で、生年月日が同じという共通点を持つ二人。
タイプこそ違いますが、二人は打ち解け、唯一無二の友情を育んでいくこととなります。
新たな生活
葉子には、今は亡き妹夫婦が遺した甥・達也がいました。
妹夫婦の多額の借金があり、達也は両親が亡くなった時の火災でショックを受け、言葉が話せませんでした。
未婚にもかかわらず、四歳の達也を養わなければならない葉子。
そんな時、働き口を紹介してくれたのは希美でした。
希美は弁護士事務所で働いていて、その事務所が仕事を任せられている難波家の家政婦として葉子を紹介します。
住み込みで、達也の一緒で構わないという破格の条件。
当主の寛和は誰にでも寛容で丁寧で、葉子たちを温かく迎え入れてくれます。
息子の由紀夫は寛和の妻の前夫との間に生まれましたが、今ではナンバテックという会社の社長を務め、業績を上げていました。
由紀夫はあまり気持ちを表に出すことはありませんが、葉子や達也を受け入れようとしてくれていました。
葉子にとって、難波家はまさに忘れていた幸せを思い出させてくれる場所でした。
不審死
ところが、幸せは長く続きませんでした。
寛和が亡くなってしまったからです。
元々、狭心症を患っていたため、一見、ただの病死に見えます。
しかし、葉子は寛和は閉所恐怖症で、狭いところにいると激しい運動をしたのと同じ状態になるのです。
他にも誰かがこのことを知っていて、わざとその状況を作り出して寛和を殺害したとしたら?
膨れ上がる疑念。
そして悲しみの連鎖が始まりますが、この連鎖は実はもっと昔からずっと続いていたものでした。
感想
再生を描いたような前半
本書が暗い内容であることは事前に知っていました。
前半でもそれを予兆するようなシーンがいくつもありました。
一方で、前半は人生に行き詰った葉子の人生が再生していく様子を描いていて、その対比がまず良かったです。
持ち上げてから落とす。
この手法はありふれていますが、その一方で丁寧に描くことでここまで効果的なのかと感心してしまいました。
絶望では表せない暗い過去
中盤以降、本書は本領を発揮します。
筑豊での壮絶な過去、そこから現代に近づいても拭えない因縁。
この過去に遡って描く手法は、あまり本書は関係ありませんが桜庭一樹さんの『私の男』、小野不由美さんの『残穢』などを思い出しました。
とにかく救いの光が見えないパートで、進めど進めど待っているのは地獄。
容赦のない描き方は、さすがの一言です。
色々ともったいない
本書は素晴らしい作品だと思う一方で、色々ともったいないと読みながら思いました。
例えば長さ。
様々な時間軸で物語を描くわけですが、途中で結末が予想できて、そこからが長い。
中盤の筑豊の廃坑集落がとてつもなく魅力的なのは分かりますが、方言がきつすぎて、何を言っているのか理解するのにとにかく時間がかかる。
正直、僕はかなり読み飛ばしながら、話の大筋だけを追うようにしていました。
例えば視点の入れ替わり。
時間軸を行ったり来たりすることで物語の本当の姿が徐々に浮かび上がってくる手法は良かったです。
ただその頻度があまりにも多すぎて、この数ページは本当に必要だったのか?と思う箇所もいくつもありました。
そういった具合に引っかかる部分があったことで、物語にのめり込めきれなかったのが残念です。
おわりに
タイトルや表紙から伝わる冷たさ、暗さ。
それが何十倍にも凝縮された作品でした。
通学・通勤の隙間時間というよりも、じっくり腰を落ち着けて読むとより本書の良さが伝わると思います。
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