『クリムゾンの迷宮』あらすじとネタバレ感想!何者かによって仕組まれたサバイバルホラー
藤木芳彦は、この世のものとは思えない異様な光景のなかで目覚めた。視界一面を、深紅色に濡れ光る奇岩の連なりが覆っている。ここはどこなんだ? 傍らに置かれた携帯用ゲーム機が、メッセージを映し出す。「火星の迷宮へようこそ。ゲームは開始された……」それは、血で血を洗う凄惨なゼロサム・ゲームの始まりだった。『黒い家』で圧倒的な評価を得た著者が、綿密な取材と斬新な着想で、日本ホラー界の新たな地平を切り拓く、傑作長編。
Amazon商品ページより
貴志祐介さんの超有名ホラー作品である本書。
僕は貴志さんのホラー作品『黒い家』も読みましたが、それとはまた違った怖さを味わえました。
『黒い家』がホラーとしてイメージしやすい不気味さなどが特徴だとすると、本書はもっと暴力的で理不尽な恐怖を楽しめます。
まるで現実感のないゲームが命の取り合いだと分かった時、もう心拍数が上がってページをめくる手が止まりませんでした。
純粋なホラーを求める人にはもちろんのこと、バイオハザードなどのサバイバルホラーが好きだという人にも絶対にオススメしたい名作です。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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物語の舞台
内容に入る前に、物語の舞台について解説します。
はじめ、物語の舞台は火星だと提示されますが、もちろんそんなことはありません。
すぐにオーストラリアのバングル・バングル国立公園であることが明かされます。
正式名称はパーヌルル国立公園といい、バングル・バングルはアボリジニの言葉で砂岩を意味します。
またバングル・バングルと呼ばれる奇岩があり、ユネスコの世界遺産にも登録されています。
公園内には砂岩によるドーム状の褐色の縞模様上の地形があり、まさに本書の物語の舞台の描写とぴったり合います。
先にこちらを調べても重大なネタバレはありませんので、うまくイメージがつかめないという人はネットで調べ、それから本書を読むとうまくイメージが膨らむかもしれません。
あらすじ
見知らぬ場所
藤木芳彦は目を覚ますと、見知らぬ場所にいました。
勤めていた大手証券会社が倒産し、目も当てられないような失業生活を送っていましたが、記憶喪失になるような出来事に遭遇した覚えはありません。
飢えや渇きがひどい中、藤木の近くには食料や飲み物が用意され、誰かしらの意思がそこからは感じられます。
近くに置かれていたゲーム機のスイッチを入れると、『火星の迷宮へようこそ』の文字が映し出されます。
藤木が見渡すと、辺りは深紅色の景色が広がり、火星と言われても違和感はありません。
少なくとも日本でないことは確かです。
後にこの場所がオーストラリアにあるバングル・バングル国立公園の中であることが明かされます。
ゲーム
藤木と同様、訳が分からない状態でここにいる人間が全部で九人いました。
全員が同じ状況に置かれていて、何者かが仕組んだゲームに無理やり参加させられているというのが一番有力です。
ゲームの主催者の目的ははっきりしませんが、ここまで大仕掛けなゲームを開催するということは余程の目的であり、参加者たちは友好な態度をとりつつもお互いを牽制していました。
ゲームはゲーム機の指示に従ってCP(チェックポイント)に向かうことで進行するようになっていて、はじめに東西南北いずれかの選択を迫られます。
進む方向によって情報、食料、護身用アイテム、サバイバル用アイテムが得られます。
藤木は唯一ゲーム機が壊れて不利な女性・大友藍と手を組み、北に進んで情報を得ます。
一同は再集合するとそれぞれの成果を山分けしますが、重要なものは隠し、自分たちにとって有利になるよう画策します。
建前上、成果を山分けすると、一同は解散。
藤木は藍と共に行動を続け、この『クリムゾンの迷宮』から脱出する方法を探します。
謎のゲームブック
途中、藤木たちは『火星の迷宮』というタイトルの文庫本を入手します。
それはゲームブックのような構成をとっていて、まるでこれから藤木たちが進むであろう先のことまで書かれていました。
全部でないにしろ、このゲームが『火星の迷宮』を参考に作られているのは明らかです。
作者は誰なのか。
どこまで当てにしていいのか。
不確定な部分もありますが、藤木と藍は他の参加者にないアドバンテージを得て先に進みます。
ゲームの意図
はじめはただのサバイバルゲームのようでしたが、次第に様相が変わります。
食料や飲み物にさえ困るゲームなので、生き残るためであれば手段を選んではいられません。
参加者たちは次第に狂暴になり、力づくで相手から物資を奪うなど乱暴な手段に出始めます。
そして、ついには参加者を殺害して腹を満たすという人間にあるまじき行動にさえ及びます。
もはやゲームは、生きるか死ぬかの究極の選択を参加者に迫っていました。
藤木と藍は懸命に生き残る方法を考え、やがてこのゲームの裏に隠された真実に近づいていくのでした。
感想
ゲームのような没入感
面白い小説は読者を強制的に作品内に引きずり込む力がありますが、それが本書にはあります。
加えて藤木視点の読者はまるで自分がゲームに参加しているような感覚に襲われるので、より一層作品にのめり込んでいきます。
生き残るためにはわずかな情報すら見逃すことは許されないので、常に五感を研ぎ澄まして緊張感を持ちながら読んでしまいました。
またゲーム開催におけるそもそもの謎が魅力的で、ゲームの設定が緻密に組み立てられているので、安心して読むことが出来るという点も没入感に繋がっていると思います。
目が離せないスリル
ゲーム感覚の一方で、飢えや渇き、迫りくる死への恐怖などがしっかりと描かれ、単なるゲームではないことを藤木越しに読者に教えてくれます。
極限に追い込まれた人間がどのように感じ、どのような行動に出るのか。
それはもう人間とは呼べない別のおぞましい存在で、そういった点がホラーとして非常に魅力的でした。
時代がよく反映されている
本書が発刊されたのが1999年。
作中の登場するゲームブックについて、十数年前には流行ったと藤木が言及しています。
当時としても多少の古さはありますが、それでも設定などに時代が反映されている箇所がいくつもあります。
個人的には今読んでもそこまで古臭さはなく、十分楽しめる内容かなと思います。
一方で、こういった時代を聞いたことがない、もしくは味わったことのない人にとってはピンとこなくて、読みにくいかもしれないので、その点は注意が必要です。
少し消化不良
結末について、それまでの盛り上がりに比べるとあっさりとしていて、疑問がいくつも残るラストでした。
確かに全てを明らかにすると陳腐になってしまう予感があったので、これはこれでありなのかもしれません。
しかし、スッキリとした読了感を求める人には消化不良気味で、不満な点になる可能性があるのでご注意ください。
おわりに
今でもホラー作品の紹介の中で必ずといっていいほど名前の挙がる本書。
その評判に違わない内容で、すぐにでも二回目が読みたいくらいの衝撃がありました。
真実を知った上で読むと、ゲームをより客観的に見ることができて、はじめは見落としていた点に気が付くことが出来るかもしれません。
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