綾辻行人『フリークス』あらすじとネタバレ感想!本格ミステリ×ホラーが味わえる三つの中短編
狂気の科学者J・Mは、五人の子供に人体改造を施し、”怪物”と呼んで責め苛む。ある日彼は惨殺体となって発見されたが!?――本格ミステリと恐怖、そして異形への真摯な愛が生みだした三つの物語。
Amazon商品ページより
目を引く強烈な表紙で、中身もそれに違わず強烈な印象を与えてくれる本書。
一見、ただのホラー作品に思えますが、実際はそこに本格ミステリが合わさり、冷静に推理しながらも忍び寄る恐怖を味わう、という複雑な心境を楽しむことが出来ます。
江戸川乱歩さんの『孤島の鬼』、そしてトッド・ブラウニング監督の映画『フリークス』へのオマージュ作ということで、両方を見ることで本書の理解がより深まるかもしれません。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
夢魔の手ー三一三号室の患者—
大学受験を何度も落ち、三度目の浪人生活を送る神崎忠は入院する母・峯子のお見舞いで病室を訪れます。
一年前、峯子は突然発狂し、夫を包丁で殺害。
忠の足にも包丁を突き立て、自殺を図るもうまくいかず、自分で通報して警察に逮捕されたのでした。
その後、精神鑑定で責任能力の不在が認められて不起訴、この病院に収容されることになったのでした。
お見舞いに来たその日、忠はピアノの中に隠されていた木箱を持ってきていて、峯子の持つ鍵で箱を開けます。
中には日記が入っていて、それは忠が書いたものでした。
十四年前のもので、忠にその頃の記憶がありません。
ここに書いてあることは本当のことだろうか。
忠は日記を読み終えると、峯子から驚くべき真実を聞かされるのでした。
四〇九号室の患者
芹沢園子は何かの事故で大怪我を負い、入院していました。
事故の際、夫の峻を失っています。
しかし、これは医師らが説明した話で、彼女は自分が芹沢園子だと確信を持てませんでした。
ひどい怪我から全身に包帯が巻かれ、外見から判断することは出来ません。
やがて園子は、峻が岡戸沙奈香という女性と浮気していたことを知り、自分がその沙奈香なのではと疑います。
自分が園子なのか、それとも沙奈香なのか。
気が狂いそうになる中、彼女はついに医師から真実を告げられるのでした。
フリークスー五六四号室の患者ー
表題作。
小説家の私は、懇意にしている精神科医の桑山からとある小説を渡されます。
それは桑山が勤務する病院の精神科病棟に入院する患者が書いたもので、とても奇妙な内容でした。
J・Mというマッドサイエンティストが五人の子どもに人体改造術を施し、『芋虫(キャタプラー)』、『一つ目(サイクロプス)』、『三本腕(スリー・アームド)』などの怪物に作り替えていたぶり続けます。
耐えかねた芋虫は思念波を送ってJ・Mを殺害するよう指示し、四人のうちの誰かがJ・Mを殺害します。
しかし、この小説には解決編が用意されておらず、犯人が誰なのかは分かりません。
そこで私は友人の探偵にお願いし、小説の結末を推理してもらうことにするのでした。
感想
ミステリ色の強いホラー
とある病院の精神科病棟に入院する患者が描かれる三つの物語。
設定の時点で怖く、話が進むごとに得体の知れない恐怖が読者の目を通じて全身に回ります。
しかし、本書の見どころはホラーだけではなく、ミステリという部分にもあります。
恐怖を感じる中、疑問が提示され、読者は主人公の立場から謎に挑戦します。
この謎がけっこう凝っていて、のめり込むとつい恐怖を忘れてしまいます。
そして謎の答えが明かされる時に再び恐怖が襲ってくるという複雑な構成をとっていて、ホラー好きにもミステリ好きにも耐えうる内容ではないかと思います。
ホラーとしてはやや控えめ
しかし、そうはいっても両方を極めていると言うには抵抗があり、どちらかというとミステリ色が強くてホラー要素が控えめです。
もちろん怖いには怖いのですが、中短編ということもあってじっくり描く余裕はなく、恐怖のピークはやや低めです。
ホラー要素を求めて本書を読み始めた人からすれば、もしかしたらパンチが弱いかもしれません。
一方で本格ミステリにふさわしい謎が仕込まれていて、短編でも推理のし甲斐があります。
綾辻行人さんのファンであれば読んで間違いはないと思います。
おわりに
今読むとやや古臭さを感じるものの、そういった時代背景、表現をあえて修正しないことで作品の持つ恐怖がしっかり伝わってきました。
後の『Another』に通ずる部分もありますので、本書を読んで面白いと感じた人はぜひそちらも読んでみてください。
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