桜庭一樹『私の男』あらすじとネタバレ感想!禁断の愛を生々しく描く衝撃作
落ちぶれた貴族のように、惨めでどこか優雅な男・淳悟は、腐野花の養父。孤児となった十歳の花を、若い淳悟が引き取り、親子となった。そして、物語は、アルバムを逆から捲るように、花の結婚から二人の過去へと遡る。内なる空虚を抱え、愛に飢えた親子が超えた禁忌を圧倒的な筆力で描く第138回直木賞受賞作。
「BOOK」データベースより
第138回直木賞を受賞した本書。
そもそも直木賞ってなに?という人は以下の記事をご参照ください。
2014年には映画が公開されています。
僕は桜庭一樹さんの作品としては『GOSICK』しか読んだことがなかったので、あまりに違う作風に戸惑い、あまりに衝撃的な内容に引き込まれてしまいました。
映画のワンシーンのように思い浮かぶ描写、極限の飢えを満たすような激しい愛。
加えてもろに近親相姦なので、一般的な恋愛ものを想像していると痛い目を見ます。
生々しい表現などから賛否両論はもちろんあると思いますが、僕は本書が傑作だと断言します。
こんな圧倒的な作品はなかなかありません。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
はじめに、本書は時系列が逆に語られます。
つまり物語が進むにつれて、時間としては過去に遡ります。
過去が明らかになるにつれて驚くべき事実が浮かび上がり、現在の登場人物の心理状態や人間関係がどのようにして作られたのかが分かるように構成されています。
家族
竹中花は九歳の頃に震災で家族を失い、彼女を引き取ってくれたのは当時二十五歳の親戚・腐野淳悟(くさりのじゅんご)でした。
未婚でまだ若いにも関わらず、何のためらいもなく花と家族になることを決めた淳悟。
花もはじめから彼のことが他人とは思えず、望んで一緒に暮らします。
こうして二人の生活が始まり、本書の冒頭で花は二十四歳になって結婚を目前に控えていました。
ここまでであればただの良い話ですが、この二人の関係が一般的な父娘とかけ離れていることはすぐに明らかになります。
私の男とは誰か
淳悟という男を表す言葉として『落ちぶれた貴族のように、惨めでどこか優雅』という言葉が使われ、降り続く雨のように湿った匂いがすると描写されています。
その淳悟は冒頭、雨宿りしている花に傘を差しだすという非常にエレガントな行動に出ますが、それは盗んだ傘でした。
この時点で明らかに普通でないと分かりますが、ここから待っているのは驚きの連続です。
淳悟はかつて働いていましたが、今は無職で花に養ってもらっています。
花は尾崎美郎との結婚を控えて幸せの絶頂にあるはずですが、淳悟から離れられないでいます。
淳悟も同様で、花に愛の言葉をささやきます。
それは父親としてではなく、明らかに一人の男から女に向けられた言葉でした。
そして、二人の過去について誰かを殺害したことがほのめかされ、後に詳細が明かされます。
養父で、罪人。
それが淳悟であり、花にとっての『私の男』でした。
失踪と過去
結婚式で淳悟が遅れてきたこともあり花は少々精神的に不安定でしたが、何とか無事に終え、過去を乗り越えて幸せになるはずでした。
ところが、新婚旅行から帰ってくると、淳悟はいなくなっていました。
二人をよく知るかつての淳悟の恋人・小町は彼が死んだといいます。
正確にはいなくなっただけで死んだわけではありませんが、あの淳吾は死体だったと小町は思っています。
花は茫然とし、披露宴で『忘れるなよ』と言った淳悟の言葉を思い出します。
淳悟はどこに消えたか。
もう二度と会えないのか。
物語の時間はここで止まり、ここからは二人の歩んできた過去が描かれます。
花と淳悟の人生は、簡単には説明できないほど壮絶なものでした。
感想
気持ち悪いのに目が離せない
淳悟の登場シーンで目を奪われ、僕は一ページ目から本書の虜になってしまいました。
簡単に言ってしまえば、親子になった父親と娘の歪すぎた愛の物語です。
聖人ぶるつもりはありませんが、僕は人に迷惑をかけない、危害を加えないというのが守られれば、どんな趣味嗜好も信念も存在して良いのではないかと考えています。
自分の考えがあるからこそ、他人の考えも尊重したい。
そんな思いをずっと抱いているし、本書に対してもそのスタンスで臨みました。
ところが、それでも物語のとてつもなく大きな力にやられ、最後まで受け止めきることは出来ませんでした。
はっきりいって、花と淳悟は壊れていて、その二人が生み出す愛を僕が理解など出来るはずがありません。
気持ち悪い、と何度も鳥肌が立ちました。
それでも目が離せませんでした。
他を寄せ付けない二人だけの愛を、これでもかと見せつけられて自身の心が脆くなっていく。
そんな感覚が怖くもあり、同時にたまらなくもありました。
小説の優劣をつける上で様々な評価ポイントがあると思いますが、僕は読者の心に問答無用で刻み付ける強烈な何かがあるかどうかだと考えていて、その点において本書は間違いなく傑作でした。
時が経っても読み終わった時の気持ちは忘れられないだろうし、その気持ちが薄れた頃にまた読みたくなる。
そんな確信があります。
受け付けない人もいる
この記事の冒頭にも書きましたが、本書は人によって向き不向きがはっきり分かれます。
本書に描かれたことを『気持ち悪い』と感じることは決しておかしなことではないし、むしろ正常な反応といっても良いと思います。
それでも、理解しがたい禁断の愛をこれでもかと生々しく描きったところに本書の魅力があり、それを楽しめるかどうかはその人次第なので、まずは読んでみてくださいと言うしかありません。
誰かの心に突き刺すためには、ここまで振り切らないといけない。
創作全般でいえることで、本書は見事にそれを見せつけてくれました。
女性ならではの作品
桜庭さんあるあるで僕も最初は誤解していたのですが、桜庭さんは実は女性です。
そのことを知ると、本書で描かれる花と淳悟の禁断の愛にも納得いくのではないでしょうか。
傍から見たらただ気持ち悪い、けれど当人たちからしたら当たり前のスキンシップと呼ぶには過激すぎるコミュニケーション。
他人は持っていない優れたものを手に入れて悦に浸るものの、次第に欠点に目がいって腹立たしさが止まらない人間の真理。
相手を理解させる気のない、感情論の応酬。
どれも女性ならではの細やかな観察眼があるからこそ成り立つもので、男性でここまで描ける人は少ないと僕は感じます。
ただ誤解がないようにいっておくと、だから女性向けの作品ということは決してありません。
性別に関係なく、合う人は合うし、合わない人には合わない。
ただそれだけのことですが、個人的にこの部分を気に入っているので、あえてこういう書き方をしました。
おわりに
迸る狂気をうまく構成して、人の読める作品にまで落とし込んだ桜庭さんには脱帽です。
間違いなく、この数年読んだ小説の中でも群を抜いた衝撃度でした。
一ページ目から読者を離してくれない魅力で満ち溢れているので、ぜひ誘われるままにその世界をお楽しみください。
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