『追想五断章』あらすじとネタバレ感想!リドルストーリーを題材にした本格ミステリ
大学を休学し、伯父の古書店に居候する菅生芳光は、ある女性から、死んだ父親が書いた五つの「結末のない物語」を探して欲しい、という依頼を受ける。調査を進めるうちに、故人が20年以上前の未解決事件「アントワープの銃声」の容疑者だったことがわかり―。五つの物語に秘められた真実とは?青春去りし後の人間の光と陰を描き出す、米澤穂信の新境地。精緻きわまる大人の本格ミステリ。
「BOOK」データベースより
『リドルストーリー』という言葉をご存知でしょうか。
物語の形式の一つで、物語中に示された謎に明確な答えを与えないまま終了することを主題としたストーリーのことをいいます。
本書は未解決事件と五つのリドルストーリーが密接に関係していて、その謎を解くことに主眼が置かれたミステリです。
米澤さんといえば『氷菓』などの青春小説のイメージがある人もいると思いますが、ダークな部分にも強い魅力があり、本書にはそのダークな部分が描かれています。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
依頼
菅生芳光(すごうよしみつ)は父の死をきっかけに大学の学費の支払いが滞り、休学。
伯父の広一郎の営む菅生書店に居候し、実家に戻らず東京にしがみついていました。
ある日、松本から来たという北里可南子が店を訪れ、叶黒白(かのうこくびゃく)という人物の書いた小説が掲載された『壺天(こてん)』という雑誌がないか芳光にたずねます。
芳光は買い取った本の中から目的の雑誌を見つけますが、大した値打ちのつかないものでした。
見つかったことを報告すると、可南子はそこまで執着する理由を教えてくれます。
叶黒白とは可南子の父親のペンネームで、彼はすでに亡くなっていました。
叶は五つの短編、それもリドルストーリーを残しましたが、どこにあるのか分かりません。
可南子は父親のことを知りたいと思い、残り断章について、一編につき十万円で探してくれないかと芳光に依頼。
芳光はそのお金で大学に復学できると考え、広一郎には内緒にして、アルバイトの久瀬笙子と共に断章の捜索に乗り出します。
五つの断章
五つのリドルストーリーには結末が用意されていて、全て可南子が持っていました。
芳光は笙子の助けも借りながら、一つずつ叶の残した断章を見つけていきますが、それは単なる探し物ではありませんでした。
芳光は断章を追う中で未解決事件『アントワープの銃声』について知ることになります。
アントワープの銃声
叶黒白こと北里参吾は斗満子と結婚しますが、トラブルを抱えてスイスに移住。
そこで可南子が生まれます。
可南子が成長するとヨーロッパを周遊する旅行を計画しますが、事件はベルギーのアントワープで起こりました。
斗満子が首を吊って亡くなり、参吾が通報したのです。
この前後で銃声が聞かれていて、斗満子の体には銃弾がかすめた傷がありました。
スイスの警察は参吾を疑いますが、斗満子を殺害したという決定的な証拠が出てこず、釈放。
斗満子はスイスで火葬されたため、真実は今に至るまで誰にも分かりません。
当事者以外には。
断章に込められた真実
芳光は断章を追う中で、五つのリドルストーリーにはアントワープの銃声に繋がる秘密が隠されていることを確信します。
熱意の違いから笙子が離れても捜査を続けますが、このまま秘密を暴いてもいいのかと苦悩します。
しかし、どうしても衝動を抑えることができず、五つのリドルストーリーに隠された秘密を明らかにします。
そこには、アントワープの銃声の真実が隠されていました。
感想
リドルストーリーの入門
リドルストーリーといわれても、あまり馴染みのなかった人も多いと思います。
本書では結末も用意されていますので、その魅力を堪能するまでには至りませんが、その存在を知ることができるという点で本書は入門書ともいえます。
代表作として『女か虎か』、『三日月刀の促進士』、『謎のカード』などが挙げられるので、興味を持った方は一度挑戦してみるのもいいと思います。
書籍としては見つけられませんでしが、こちらのサイトで『女か虎か』の全訳が読めます。
以下はリドルストーリーばかりを集めた短編集です。
平坦、だけれど常につきまとう不安
これは不満な点でもありますが、本書は物語の起伏に乏しく、盛り上がる場面というものがほとんどありません。
代わりに断章が見つかって、叶黒白の人生に近づくにつれて言いようのない不安がつきまとうようになります。
この感覚は米澤さんの真骨頂であるブラックな部分がよく表れた部分で、本書の最大の魅力だと僕は考えます。
物語に感動だったり恐怖だったり、正負限らず強く揺さぶるようなものを求めている方にはちょっと地味かもしれません。
しかし、読了後も後を引く何ともいえない後味の悪さは癖になるもので、米澤さんの作品を読んで気に入ったという方であれば読んで損はないのではないでしょうか。
読めても手に汗握る結末
結末について、そこまで意外性はないので、予想できた方も少なからずいたと思います。
しかし、その結末が明示された時、自分が予想した以上の感情が沸き起こり、驚きました。
やはり、自分で想像するのと、作中の人物の口から語られるのでは重みが明らかに違いますし、それこそ物語の魅力でもあります。
物語の構造を見抜いて、はい、おしまいではありません。
ぜひその目で結末まで見届けてください。
おわりに
米澤さんの作品の持つダークな部分が存分に発揮された本書。
展開の起伏という意味でちょっと物足りない気もしますが、その分、読了後もまとわりつく後味の悪さがあり、米澤さんの作品はやはり癖になると確信しました。
米澤さんの作品をはじめて読む人にはおすすめしません。
しかし、『儚い羊たちの祝宴』、『ボトルネック』などダークな部分に惚れたという人には、読んで損はない名作だと思います。
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