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『とらすの子』あらすじとネタバレ感想!凄惨な死の裏に潜む美しき異常とは?

harutoautumn
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「とらすの会」の人は皆優しくて、居心地が良かったです。特にマレ様なんて嘘みたいに綺麗で、悩みを聞いて抱きしめてくれました。でも“会議”では、誰かが「許せない人」への恨みをマレ様に訴えて、周りの人たちも口々に煽って……翌日、その人は死体で見つかるんです。それが怖くて行かなくなったら、裏切者って責められて……。時間がないです、私、殺されます──錯乱する少女は、オカルト雑誌のライター・美羽の眼前で、爆発するように血肉を散らして死んだ。スクープを狙った美羽は「とらすの会」を訪ねるが、マレ様と出会うことで想像を絶する奈落へと突き落とされる──。

Amazon商品ページより

芦花公園さんの生活に宗教が近かったという背景を知り、内容に納得がいった本書。

現在だけでなく、記録を通じて過去のことも描かれ、現在の状況が次第に明らかになる構成になっています。

あらすじにある『美しい異常』がぴったりの、嫌な作品です。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

都内無差別連続殺人事件

都内では、各地で謎の連続殺人事件が起きていました。

場所も違えば、被害者の年齢や性別にも共通点がない。

動機という観点からも犯人を追うことは難しい状況でした。

極めつけは殺害方法で、被害者は体の表裏をひっくり返えされたようにされていて、とても人間による犯行とは思えませんでした。

取材

坂本美羽はフリーライターをしています。

小説家を志望していますが、応募しても引っかからず、現在は何の志もないオカルト専門誌で記事を書いていました。

どこかにある記事の二番煎じで、誰にも読まれないような誌面を埋めるだけの記事に、美羽は自分の仕事の意義を見失っていました。

上司にはセクハラをされ、彼氏からは直接言われていないけれど別れを迫られている。

これ以上なく最悪な状況でした。

そんな中で、美羽は都内の連続殺人事件について記事を書くことになり、それが運命の分かれ道となります。

美羽は事件のことをSNSで調べる中で相沢未来という少女を知り、会うことにします。

未来はいわゆるメンヘラに見えましたが、彼女が語るのは『とらすの会』なる団体のことでした。

未来はイジメが原因で中学校に通えなくなり、フリースクールに通うようになります。

そこで同じ境遇の夏奈と知り合い、ある日、彼女が明確に明るくなります。

夏奈は未来を連れていきたい場所があるといって、そこで未来はとらすの会と出会います。

とらすの会にはお父さん、お母さんと呼ばれる優しい人たちがいて、そして異常に美しい人・マレ様がいます。

マレ様は未来を受け入れてくれたのですが、翌日、未来をイジメていた同級生が亡くなってしまいます。

その後も不審死は続き、マレ様との関連性が疑われる中、話を聞いた美羽も事態に巻き込まれていきます。

感想

人間の醜さがよく描かれている

芦花公園さんの作品が好きな理由として、登場人物が現実に即した人間らしさを有しているからです。

フィクションでは人格の素晴らしい、いわゆる理想的な人間が登場しがちですが、芦花公園さんの作品は違います。

主人公周りの人間はクズばっかりだし、主人公にあたる人も内心、人間として浅ましくて醜い部分をたらふく持っています。

本書でいう美羽はまさにそのタイプです。

自己肯定感が低く、何をしても上手くいかないことから他人を妬み、相手の失敗などを喜んでしまう。

美羽はその面を全面的に出していますが、そういった感情を持たない人間は皆無でしょう。

瞳は逆境にもめげずにやってきた稀有なタイプなので美羽とは異なりますが、結末を考えると、そういったキャラの違いがうまく活きているのかなと思います。

分かり合えないことを再確認

本書の良かったところは、超常的な存在とは決して分かり合えないことがはっきり描かれていたからです。

特別な力を後天的にもってしまった人間であれば、同じ種族ということもあってどこか共通点を見出して、妥協点を見付けられるかもしれません。

しかし、本書に登場する存在は人間であるけれど、人間とは全く異なるものです。

話をできているように思えて、根本的な価値観、もっといえば存在理由が明らかに異なるので、会話の成立は表面上でしかありません。

この辺りが妥協なく、明確に描かれていたので、そういった捉え方がかなり好みでした。

テンポがもう一つ

本書で気になったのは、瞳がある少年に関する記録を読むシーンです。

文庫版で五十ページ以上が割かれるのですが、正直ここのテンポ感があまりよくありませんでした。

設定を明らかにするために作為的に用意された感が否めず、唐突な展開に思えました。

また警察が気が付いていても手を出さない存在。

何か団体として巨大で政治的にも手を出しにくいなどあれば理解できるのですが、ただ超常的な力だけでそこまでの存在になれるのだろうかと、少しひっかりを覚えました。

おわりに

芦花公園さんの作品は生理的に嫌だなと思う登場人物が多く出てきて、好きです。

唯一難点をいうのであれば、単行本の表紙の方が好みでした。異形感が良い。

ただ内容を鑑みると、文庫版の方が近いなと思ったので、これは完全に好みですね。

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