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『ラットマン』あらすじとネタバレ感想!どんでん返しに次ぐどんでん返しなミステリ

harutoautumn
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結成14年のアマチュアロックバンドのギタリスト・姫川亮は、ある日、練習中のスタジオで不可解な事件に遭遇する。次々に浮かび上がるバンドメンバーの隠された素顔。事件の真相が判明したとき、亮が秘めてきた過去の衝撃的記憶が呼び覚まされる。本当の仲間とは、家族とは、愛とは―。

「BOOK」データベースより

道尾秀介さんの作品といえば一筋縄ではいかない、幾重にも仕掛けの施されたイメージがありますが、本書もまた然りです。

どんでん返しが三度も四度もあるミステリで、それでいて最大の見どころはトリックではなく登場人物の心境の変化にあり、緻密に計算して書かれていることがよく分かる内容になっています。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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タイトルの意味

内容に入る前に、タイトルの意味について。

ラットマンとはとある有名な絵のことで、全く同じ絵が片方は人の顔の横に、もう片方は動物の絵の横に書かれています。

すると、人の顔の横だと人の顔に見えて、動物の横だとネズミに見えます。

これは『見る』、『聞く』などの行動は前後の刺激によって知覚の結果が変わってしまうことに起因していて、本書で重要な意味を持ちます。

何かを認識した時、それは本当に正しい理解なのか。

見方を変えた時、違う風に見えるのではないか。

そんな心理的な部分を作品に巧みに取り入れています。

本書中では実際のラットマンの絵を見ることができるので、ぜひ目でも見て体験してみてください。

あらすじ

結成十四年のアマチュアバンド

姫川は高校一年の時に同級生の谷尾、竹内、小野木ひかりとバンドを結成し、十四年経った今でも続けています。

ひかりとは恋人同士でしたが、二年前に彼女が脱退し、代わりに五歳下の桂がドラムとして加入。

姫川は桂にも惹かれていました。

一方でひかりの妊娠が発覚しますが、彼女は堕胎の決意を決め、その後に姫川と別れようとしていました。

姫川が長年交際してきたひかりと結婚しなかった理由。

それは彼の家庭環境にありました。

姫川の過去

姫川には二歳上の姉・塔子がいました。

彼が小学一年生の時、父の宗一郎は悪性の脳腫瘍に犯され、脳が圧迫されて軽い言語障害を持っていました。

それでも宗一郎は在宅の療養をどうしてもと希望し、それを介護する母の多恵は疲れ切っていました。

そんなある日、事件が起きます。

塔子が二階から庭に落ちて亡くなったのです。

姫川はその時、事件解決のヒントを得ていましたが、幼さゆえに何を意味するのかは理解できず、ずっと内に秘めてきました。

それでもこれが事故ではなく、宗一郎が塔子を殺害したのではと考えていました。

その一か月後、宗一郎は脳腫瘍で亡くなり、ここから多恵と姫川の関係がうまくいくこともありませんでした。

事故?

バンドのスタジオ練習の日、ひかりが倉庫でアンプの下敷きになって亡くなっているのが発見されます。

ひかりはスタジオでバイトをしていて、倉庫で機材の整理をしていました。

状況から考えれば事故ですが、すぐに不自然な点が浮かび上がります。

しかも塔子の事件で捜査を担当した刑事・隈島が現れ、警察も事件を疑っていることは明らかでした。

姫川の視点で描かれているため、彼が事故に見せかけるために隠蔽したことは明白で、本書の面白さはそこからもっと先にあります。

なぜ隠蔽工作をしたのか。

追及をのがれることができるのか。

隈島やバンドメンバーも姫川への疑念をぬぐえない中、事態は思わぬ方向に動き出します。

感想

ミステリだけどミステリじゃない

本書で事故、もしくは事件が起きますが、それに姫川が関与しているのははじめに明示されます。

もちろんどう関与しているのかは姫川目線で見ても明かされないので、事件の真相を推理する楽しみはあります。

その点についてはミステリといえます。

しかし、本書の最大の見どころはそこではなく、犯行に至った背景、心情の変化などではないかと考えています。

姫川の姉が死んだ事故、そしてその後の家族の崩壊が引き金になっていることは明らかですが、詳細は伏せられているので推測、推理しないといけません。

なぜ姫川は事故、もしくは事件に関与したのか。

妊娠をして堕胎をするひかりに何を思ったのか。

いくら想像しても結末は想像を遥かに超えてきたもので、その時の衝撃はたまりませんでした。

とにかく真実がひっくり返る

最後の五〇ページほどで怒涛の種明かしが始まります。

なるほど、と読んでいる人は頷くはずです。

しかし、それは真実ではありませんでした。

後からこれは違った、あれは違ったことが明かされ、しかもそれが何度も行われます。

おまけにどれもどんでん返し級の驚きです。

そんな馬鹿な、と納得のいかない人が出てくることも予想されますが、僕は素直に楽しめました。

勝手な印象ですが、道尾さんの作品はどこか捻くれていたり斜めから物事を見下ろすようなイメージがあり、それが僕には合っているような気がします。

巻末の作家・大沢在昌さんの解説ではこういった感触を違和感と称していて、非常に面白い内容だったので、ぜひ本書の読了後に読んでみてください。

読書中に感じたぼんやりとした気持ちの整理に役立つかもしれません。

作中のあらゆるフレーズが伏線

一見、なんてことのないようなセリフや描写が数多くあり、読んだ時はスルーしてしまいます。

ところが、後になって同じフレーズが何度も登場し、その時になると最初に読んだ時とは全く違った意味合いを持つようになり、あれは伏線だったんだと気が付くことが無数にありました。

伏線というとトリックなどオチに関係するものを連想する人が多いと思いますが、本書はそれに限らず、心境の変化など細やかな部分でも使用されています。

繰り返し出てくる歌のフレーズ、幼い頃の風景、言動。

それらが後になって意味合いを持ってくるので、二度読みがはかどります。

ぜひ二度目は答え合わせをするつもりで読み直してみてください。

改めて本書の緻密に計算された構成が分かると思います。

おわりに

『向日葵の咲かない夏』で道尾秀介さんにはまりましたが、自分の持つ小説の固定概念を簡単に壊してくれるなと本書を読んで改めて嬉しくなってしまいました。

理屈抜きで面白いものは面白い。

そう言いたくなる魅力が本書にはあります。

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